【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第24回:ハロウィンもこう変わる!?リアルとバーチャルが融合する〝Society5.0〟の世界
メーターがない、ボタンもない!
時価総額が1兆ドルを突破したことで最近にわかに話題ですが、米電気自動車(EV)大手テスラのModel3に最近乗っています。テスラは、自動運転分野を牽引しており、最先端のAI技術が駆使されている車なので、この連載にはぴったりかと思い、体験談を書いてみようと思います。
ドアを開けてまず驚いたのは、普通のクルマには必ずあるものがないすっきりしたコックピットです。目の前のスピードメータ類がないだけでなく、普通のクルマに必ずあるイグニッションボタンがなく、ドアロックやシステム起動もカードだけで行い、レバーやボタンなど普通のクルマの操作に関わるものもほとんどありません。ハンドル、アクセル、ブレーキ以外の操作は、すべて頑丈に取り付けられたセンターコンソールの大型タッチスクリーンパネルで行います。
スマートフォンの操作に抵抗ない人なら大丈夫ですが、おそらくこの段階で、乗りたいと思うかどうか二極化しそうです。ソフトウェアのアップデートも随時あるため、クルマというよりまさに移動するコンピュータに近いようにも思います。
ミラーの向きなど細かい設定もタッチスクリーンなので、オートパイロットをONにしてクルマに任せられればいいのですが、ワイパーを手動で動かしたい場合は不便です。目線をスクリーンに移して画面を操作しないといけないので、すべての操作が画面上というのは、スマホを操作しているような怖さがあるかもしれません。
仕事柄、自動運転車の開発途上は時々見ていましたが、実際に自分が乗っているクルマで、リアルタイムにスクリーン上に映し出される映像に、AIはここまで実用化されているのだな、感動しました。テスラが言うところの「ディープ ニューラル ネットワーク上に築かれたテスラ ビジョン」は、8台のサラウンドカメラ、12個の超音波センサー、フォワードフェーシングレーダーの情報をすべて組み合わせることで、全方向を同時に監視し、人間のドライバー以上の視界を持てるということです。
このように、人、自転車、他の車両(クルマかトラックかなどの区別も)、信号機、中央分離帯(三角コーンとして表示)などがリアルタイムに表示されます(写真は筆者撮影)。
実際に走ってみると、明暗がはっきりした影が路面にあると、障害物として認識するのか、減速することがあるようです。
ちなみに、テスラに搭載されているカメラが、駐車中も周囲の状況を監視しているため、再乗車すると、留守中に起きていた状況をイベントレポートとして報告してくれます。駐車しているテスラをジロジロ観察すると、戻ってきたドライバーに見られるのでご注意ください(笑)
ドアノブがない”スペースマウンテン”だけど…
AIによる認識技術もさることながら、さらに驚いたのは、静止状態から時速100 kmまでわずか3.3秒で加速するというテスラのシュイン!という加速感です。100kmまで5秒程度のターボエンジンのクルマにも乗るのですが、ブイーン!という加速感のエンジン車とは全然違います。制限時速は守っていても、そんなに素早く加速してよいのか心配になるほどです。スペースマウンテンに乗っているような感じかもしれません。
まさに未来の乗り物な感じですが、エクステリアは、ドアノブがないことと、前から後ろまでガラストップなのは斬新ですが、それ以外は比較的普通で、搭載されているテクノロジーに見合った未来感が欲しいところです。まだ長距離ドライブはしていないので、また機会があればご報告したいと思います。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。