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【私たちの選択肢】自動的に信仰させられていた「宗教2世」はいわば被害者です

2021.11.04

【私たちの選択肢】宗教2世問題 漫画家・菊池真理子 後編

人生に行き詰まると、わたしたちは目の前の世界しか見えなくなります。そんな時、知らない世界や知らない誰かの人生を知ると、すこし気持ちが楽になったりします。

人はいくつもの選択肢をもっている。そして自由に生きることができる。このインタビューは、同じ世界に生きている”誰か”の人生にフォーカスをあてていきます。

【前編】【私たちの選択肢】宗教にのめり込む母、アルコールに溺れる父、漫画家・菊池真理子が経験した「宗教2世」問題

自分の感情をもってもいい、と知った

宗教にのめりこみ、それを生活の全てにした母親と、そこから逃げるようにアルコールに依存をする父親。家族はその機能をなしていませんでした。菊池さんは両親をセットでみることがほぼなかったと言います。

救いを求めた母親は毎日お経をあげて鐘を鳴らし続けましたが、唯一の救いだった宗教でも居場所がなくなってしまい、ついに自死を選んでしまいます。

あれほど熱心な信者だったのに、人は宗教では幸せになれない。その現実を目の当たりにした菊池さんは、宗教と自分を結びつける存在がいなくなったことに安心はしましたが生きづらさは増すばかりでした。

友達からは、”今だから言うけど、お母さんずっと様子がおかしかったよね”と言われました。わたしにとっては宗教のある生活が当たり前だったから、まわりからそうやって見られていたのかとショックでした

菊池さん自身は信仰をしていないとはいえ、生まれたときから自動的に信者とされる宗教2世。子供のころから教え込まれた神様の存在は、大人になってもまだ菊池さんを縛りつづけました。

自分の考え方のクセに気付いたのはカウンセリングに通い始めてからだったそうです。そこで母親と父親の話し、そして今現在の苦しみを話すようになりました。

愛犬が悪いことをしたときに、”やめなさい!”と怒ってしまい、愛しているはずの犬に頭のなかで怒りが湧いてしまうんです。…と相談をしたら、カウンセラーさんから、”頭のなかに怒りは湧いていいのよ!”と言われたんです。

暴力として外に出してしまうわけではないのなら、頭の中で怒りの感情が湧くことにはなんの問題もないって言われて驚きました。人の悪口は言わないと教え込まれていたので、たとえ人に嫌なことをされても怒ったことはありませんでした。逆にイライラする自分を責めて生きてきたんです

自分を制御し、抑圧して生きてきた菊池さんは、そこでやっと自分の感情は否定しなくていいのだと気付きます。自分を取り戻す大きな一歩でした。しかし、菊池さんはそこで終わらせることをしませんでした。自分と似た環境で育ち、苦しんでいる宗教2世の姿を漫画に描こうと決めたのです。

漠然としていた生きづらさが明確になっていく

でも、なぜ学校で誰にも話さなかったような隠しておきたい「宗教家庭育ち」に向かい合うことができたのでしょうか。そこには、取材で実際に体感したことが理由だったと言います。

父が亡くなる原因となったアルコール依存症を取材して漫画を描いたんです。取材中は自分自身の葛藤や傷つきもあって苦しかったけれど、苦しい反面で、どうやったら人は回復をするのかを知ることができたんです。

宗教もきっと同じだと思ったんです。わからないことだらけだけど、どうしたらわかっていくことができるのかという方法だけは見えていました

自分の生きづらさがどこから来て、親からはどんな影響を受けたのか考えていた菊池さんは、自分の人生の謎ときをしないまま死んでしまうのは嫌だと思うようになりました。親が自分に残した葛藤とその原因、それを全て知りたい。父親のことも母親のことも知って、その心の動き、そして自分の苦しみに納得をしたかったのです。

取材をしはじめると、自分の辛い体験を話してくれた人が、「話せてよかった」とお礼を言ってくれました。

封じ込めていた自分の記憶を思い出してしまう瞬間は、確かに嫌だし苦しいです。だけど、なにかわからないけれど自分を苦しめて生きづらくさせていたモヤモヤが判明していく作業でもありました。こんなにいやなことがあったの? と自分で冷静に振り返ってみると、それじゃあ傷ついて当たり前だよねと認めることができたんです

苦しかった理由が説明ができる。それは大きな気付きでした。自分を苦しめていたのは自分の心が汚れているのではなくて宗教の抑圧。それを苦しいと思うのは当たり前。そこに気付いてからは、似た経験をした人に、「わたしはこんなに悪い人なんです」と言われると、「それはあなたが悪いんじゃなくて、抑圧を強制させてきた状況が悪いよね」と言ってあげられるようになったそうです。

結局、人は人と結びついていくしかないみたいです。でも、それはひとりじゃできません。だから、自分の体験について話しあうことでお互いが楽になれるんだと思います

聞き慣れた言葉で逃げないで

アルコール依存の父とお酒を飲ませつづける大人。宗教にのめりこみ生活の中心にしていた母とそこにつけこんで利用する大人。家族の現状に気づいていたけれど見ないふりをした大人。子ども時代の菊池さんのまわりに、助けてくれる大人はいませんでした。

自分が大人になって思うのですが、”宗教のことは難しいからわからない”と逃げたくないんです。間違っていたりおせっかいだとしても、”あなたのことを気にかけている”と言っていたい

宗教2世の取材をはじめたころ、「宗教ってこわい人ばかりじゃないの?」と心配されたそうです。それはつまり菊池さん自身を”こわい人”と言っているのと同じ意味です。

生まれたときから自動的に信仰させられていた宗教2世は、いわば被害者なんですよね。それなのにこわい人って思われることがあるんです。世間の目は1世と2世って同じ扱いなんだなと知りました。

2世のわたしたちも、入信したのが悪いと思われている。そこにネグレクトや虐待があっても、なかなか被害者と思ってもらえないんです

救済されるべき対象と気づかれない。ネグレクトされた宗教2世の子どもは見過ごされてしまうことが多いと話す菊池さんは、今、たくさんの宗教2世の方へ取材をしています。自分と似たような体験談を聞き心がぐらつくこともあるけれど、それでも菊池さんは描き続けようと思っています。

宗教の自由があると言う人は、どこまで考えてその言葉を言っているのかなと思うんです。踏み込む前に、聞き慣れた言葉で逃げているだけじゃないかと思ってしまう。

知る機会がないのはしかたないので責めたいわけじゃないのですが、どうか、一度立ち止まって一緒に考えてほしいと願っています。わたしは漫画家だから、広く浅くでもいいから漫画を描くことでこの問題を知ってもらいたいんです

被害者はもちろん、望んで加害者になりたい人もいません。ですが、問題に踏み込まずに傍観者として見ていることは、苦しんでいる誰かの存在を透明にしてしまうことと同じかもしれません。

菊池さんのお話しを聞いてわたしは自分を振り返りました。

そんなことはしない。大丈夫!」とはとても言い切れません。小学生のころ、隣のクラスに宗教に入っている子がいました。お母さんと一緒に冊子を持って近所をまわる姿を見かけたことがあります。恐怖を煽るような冊子の内容は異様に感じられ、こわかったことを覚えています。記憶はそこだけで終わっています。

わたしたちは自覚しつづけなくてはいけません。踏み込むことは難しいと。だからこそ、そこを飛び越えたい。誰もが地続きで生きている。他人と自分の境界線について、これからも追っていきたいと考えています。

菊池真理子

漫画家。アルコール依存症の父と、新宗教の信者の母の間に生まれる。現実逃避のように描いていた落書きが、今の仕事につながる。

著書に『酔うと化け物になる父がつらい』『毒親サバイバル』『生きやすい』『依存症ってなんですか?』 現在「よみタイ」にて、宗教2世に取材した「「神様」のいる家で育ちました」を連載中。

写真:郡山総一郎

文・成宮アイコ

朗読詩人・ライター。機能不全家庭で育ち、不登校・リストカット・社会不安障害を経験、ADHD当事者。「生きづらさ」「社会問題」「アイドル」をメインテーマにインタビューやコラムを執筆。トークイベントへの出演、アイドルへの作詞提供、ポエトリーリーディングのライブも行なっている。EP「伝説にならないで」発売。表題曲のMV公開中。著書『伝説にならないで』(皓星社)『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)。好きな詩人はつんくさん、好きな文学は風俗サイト写メ日記。

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編集/inox.

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