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会社から貸与されたスマホの私的利用は犯罪?懲戒処分相当?

2021.11.04

会社から業務用に貸与されたスマートフォンを使って、私的に動画サイトを閲覧した結果、通信量がとんでもない容量になってしまった……

このような会社スマホの私的利用は、犯罪ではないものの、会社から懲戒処分を受ける可能性があるので要注意です。

今回は、会社スマホを私的利用することの法的な問題点・リスクについて解説します。

1. 会社スマホをプライベートで使用することの問題点

まずは法的な観点から、なぜ会社スマホをプライベートで使用することが問題なのかを解説します。

1-1. 犯罪には当たらない

会社スマホを私的利用する行為は、刑法上の犯罪には当たりません。

刑法には「罪刑法定主義」という大原則があります。

「罪刑法定主義」とは、ある行為を犯罪として処罰するためには、その行為の内容および刑罰の内容を明確に法定しておかなければならないという原則です。

この点、会社スマホを私的利用する行為を処罰する旨の規定は存在しないので、刑法に基づいて処罰されることはありません。

1-2. 就業規則違反に該当する可能性がある

その一方で、会社スマホを私的利用する行為は、会社の就業規則に違反する可能性があります。

就業規則違反の根拠としては、以下のパターンが考えられます。

①「会社スマホの私的利用は禁止」という内容の規定

このような規定が明文で置かれている場合、会社スマホの私的利用は、直ちに就業規則に違反します。

②職務専念義務の規定

就業時間中に会社スマホを私的利用する行為が、就業規則違反に該当します。

③情報漏えいに関する注意義務の規定

プライベートのSNSなど、情報漏えいに繋がり得るサイトへ私的にアクセスする行為が、就業規則違反に該当します。

④「会社の利益に反する行為」を禁止する規定

抽象的な規定ですが、常識的な限度を超えて会社スマホを私的利用する行為は、「会社の利益に反する行為」として就業規則違反に該当すると考えられます。

上記はあくまでも一例ですが、多くの会社の就業規則との関係で、会社スマホの私的利用は就業規則違反と位置付けられるでしょう。

1-3. 貸与時に提出した誓約書などに違反する可能性も

会社がスマホを従業員に貸し出す際には、貸出に関するルールを伝えたうえで、従業員に誓約書を差し入れることを求めるケースがあります。

その場合、「会社スマホの私的利用は禁止」である旨が、誓約書の中に規定されている可能性が高いです。

誓約書違反についても、就業規則違反と同等に取り扱われるケースが多いので注意しましょう。

2. 会社スマホの私的利用による懲戒処分のリスク

会社スマホの私的利用が就業規則違反に該当する場合、会社から懲戒処分を受けるリスクがあることに注意が必要です。

2-1. 懲戒処分の種類

懲戒処分の内容は会社によって異なりますが、おおむね以下の順に重くなります。

①戒告・けん責

従業員に対して、口頭または文書で厳重注意を行います。

戒告よりもけん責の方が重く、けん責の場合は始末書の提出を求められることが多いです。

②減給

会社から支給される賃金が減らされます。

減給処分1回当たり、日給の半額以下かつ月給の10分の1以下でなければなりません(労働基準法91条)。

③出勤停止

一定期間出勤が禁止され、その間の賃金が支払われなくなります。

法律上の期間上限はありませんが、あまりにも長期にわたる場合は、出勤停止処分が無効になる可能性があります(労働契約法15条)。

おおむね1週間~2週間程度、長くとも1か月程度の出勤停止となるケースが多いです。

④降格

社内での地位が格下げとなり、それに伴って賃金も減らされます。

もともとの地位が高い場合、大幅な賃金減少となることが想定されます。

⑤諭旨解雇(諭旨退職)

会社から退職を勧告されます。

あくまでも従業員が任意に退職する形をとりますが、退職を拒否した場合は懲戒解雇となるケースが多いです。

⑥懲戒解雇

会社が一方的に、従業員を解雇します。

会社スマホを私的利用した場合、初回であれば、戒告・けん責または減給の軽い懲戒処分となる可能性が高いです。

ただし、何度も違反を指摘されたにもかかわらず、会社スマホの私的利用を繰り返している場合には、さらに重い懲戒処分を受けるおそれもあるので注意しましょう。

2-2. 会社スマホの私的利用で、いきなりクビになる可能性は?

会社スマホを私的利用したというだけの理由で、いきなり会社をクビになる可能性は低いと思われます。

懲戒処分の重さは、行為の悪質性と釣り合っていなければならず、不当に重い懲戒処分は無効です。

特に懲戒解雇は、会社が従業員の生活の糧を一方的に奪う行為であるため、法律上厳しく制限されています(労働基準法16条)。

この点、会社スマホの私的利用は犯罪ではなく、また会社の評判を失墜させるような行為でもありません。

そのため、会社スマホを私的利用した従業員を一発で懲戒解雇することは、違法・無効である可能性が高いでしょう。

ただし、

・会社から改善指導を受けたにもかかわらず、会社スマホの私的利用をやめなかった
・職務怠慢、無断欠勤、不祥事など、他にも重大な就業規則違反が存在する
・過去に懲戒処分を受けている

などの事情がある場合には、懲戒解雇が認められる可能性もあります。

いずれにしても、会社スマホを私的利用したことが発覚した場合、社内での立場が悪くなることは確実です。

このような無用なリスクを負わないように、会社スマホとプライベートのスマホはきちんと分けて利用しましょう。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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