企業は近年、主にSNSで影響力を持つインフルエンサーに、ブランドやサービスを紹介してもらうマーケティング手法「インフルエンサーマーケティング」を実施している。コロナ禍でマーケティングにおいてもデジタル化が促進され、ますます力を入れたい分野でもあるだろう。最近では日本で定着してきたように見えるが、現在、どのような状況になっているのか。またインフルエンサーマーケティングの成功ポイントや効果の高いインフルエンサーの特徴なども気になるところ。
そこで今回は、企業のインフルエンサーマーケティングを支援する株式会社ホットリンクの担当者に、インフルエンサーマーケティングのノウハウを聞いた。
近年のインフルエンサー市場
インフルエンサー市場はいま、どのような状況なのか。近年の状況をホットリンク ソーシャルメディア事業本部 プランニング部部長の増岡宏紀氏は次のように話す。
【取材協力】
増岡宏紀氏
株式会社ホットリンク
ソーシャルメディア事業本部 プランニング部部長
2016年ホットリンク入社。ソリューション開発責任者として広告事業、プロモーション事業の立ち上げを行う。現在はSNSプロモーション事業責任者として、SNSプロモーションを中心にクライアント支援を行う。1990年、神戸市生まれ。
https://www.hottolink.co.jp/
「インフルエンサーに関する市場は年々拡大しています。企業がインフルエンサーを活用するインフルエンサーマーケティング市場のみならず、インフルエンサー自身が企業案件以外にも収益を獲得しやすい環境が整いつつあります。
特に、後者の『クリエイターエコノミー』の加速が近年での大きな変化だと考えます。クリエイターエコノミーとは、クリエイター自身が収益化をおこなう経済圏のことを指します。TikTokが3年間で10億ドルのクリエイター基金を設立したり、YouTubeも『Shorts』に注力してクリエイター基金を設立したり、Instagramもクリエイターの囲い込みや、個人が物販できるような機能を実装したりしています。Twitterは、米国で個人アカウントを有償でフォローするサブスクリプション機能の『スーパーフォロー』を開始しました。個人を支援するプラットフォームの動きは加速しています。
この動きによって、インフルエンサーはどんどん存在感を強めていくでしょう。SNSで消費されるコンテンツは、企業発信よりインフルエンサー発信のほうが多くなっていき、企業がインフルエンサーを活用する必然性は高まり続けると思います」
インフルエンサーマーケティング成功のポイント
こうした昨今の状況を受け、企業がいま、インフルエンサーマーケティングにおいて成功するためにはどうすればよいか。ポイントを増岡氏に挙げてもらった。
1.インフルエンサーマーケティングの役割を定めることから始める
「インフルエンサーマーケティングを始める際は、起用するインフルエンサーのリスト探しから始めるのが一般的ですが、それよりも先に、インフルエンサーマーケティングにどんな役割を持たせるのかを先にしっかりと定めることが大切です。
インフルエンサーマーケティングといっても、手法はPR投稿だけではなく、さまざまあります。誰を起用するのかを考える前に、どんなターゲットをどう動かすかを設計することから始め、最適な活用方法を選択することが重要です」
2.「インフルエンサーによるPR投稿は瞬間的な話題で終わってしまいがち」という特性を理解する
「PR投稿は、インフルエンサーのパワーによって瞬間的にアテンションを獲得することができます。ただ、その後、継続的にインフルエンサーが投稿してくれることはほぼなく、単発の成果になることが大半です。
継続的な効果にするためには、一回きりでなく、ある程度の期間で施策を継続展開したり、UGC(一般ユーザー生成コンテンツ)発生などの波及的な効果を狙ったり、自社SNSアカウントとの連動によって自社ファン獲得につなげるなどの設計を考えることが重要です」
3.施策前後にどのような仕掛けを行うかを決める
「インフルエンサーからの投稿だけでは、前後関係がなく効果が最大化できないケースもあります。例えば、新商品発売タイミングでは、インフルエンサーに投稿してもらう前に新商品が出たという認知を取っておくことも大切です。商品の存在をまったく知らない状態よりも、なんとなく知っている状態でインフルエンサーからの推奨を受けたほうが、効果が高い場合もあるためです」
4.リーチ数を重視するなら広告の利用を検討する
「インフルエンサーからの投稿によって、そのフォロワーへのリーチはできます。ですが、リーチ効率は広告配信のほうが圧倒的に高いことが多く、手段として最適なのかは、よく吟味する必要があります。
さらに、インフルエンサーを『広告枠』としてとらえるのではなく、『コンテンツ』としてとらえることで、インフルエンサー投稿を広告配信するなどの施策もアイデアとして浮かぶようになります」
効果の高いインフルエンサーの特徴
インフルエンサーマーケティングを実施する際には、効果の高いインフルエンサーを起用したい。では、効果の高いインフルエンサーとは、どんな特徴を持っているのだろうか?
「効果が高いインフルエンサーというのは、インフルエンサーの発信ジャンルと自社ブランドのカテゴリがマッチしており、そのカテゴリに対するインフルエンサーの影響力が高い場合だと思っています。それらが満たせていれば、フォロワーさんたちが購買行動をとるようになるでしょう」
ホットリンクでは、効果の高いインフルエンサーを発見するために以下の項目を分析しているという。
1.ブランドへの発言回数
2.影響度(親和性の高いフォロワーがどれだけいるか)
「1はインフルエンサー自身のブランドとの相性です。2はフォロワーの質を知るための手段です」
よく、インフルエンサーの影響度を測るのに、フォロワー数が目安になることがある。しかし、フォロワー数には注意が必要だという。
「『フォロワー数』だけで判断することには、様々なトラップがあります。フォロワーを買って水増ししているケースもあれば、フォロワーの大半が古くに獲得したもので、ほとんどがアクティブでない、現在はそのSNSアカウントを利用していないユーザーで占めているケースや、フォロワーがターゲットとずれているケースもあります。
よって、見るべきは、フォロワーがアクティブであり、ターゲットとのマッチ度が高いかどうかです。質は表面的な数字では見えないため、分析が重要となります」
●ブランドとの共鳴度の高さ
「『ブランドとの共鳴度』も効果を大きく左右する要素になると思います。インフルエンサーの中には、紹介する商品を自分で購入して使い込むなどして、商品の良さをしっかり体験してから臨む方もいます。こういう方は本当に良いと思って紹介をしていることが伝わるので、成果が出やすいです。
ただ、こういうインフルエンサーの方ばかりではありません。なので、企業側がいかにインフルエンサーのブランドに対する関心を高められるかということも重要です。
打ち合わせを設定して商品理解を深めてもらうなどもやるべきだと思いますし、なによりも大切なのは、担当者が持つ商品への愛はインフルエンサーにも伝播するので、依頼する企業・代理店がその施策に熱意を持っているかだと思います」
インフルエンサーは、フォロワー数の多さだけがすべてではないことがわかった。
逆に言えば、フォロワーが少なくても拡散されるということだろうか。フォロワーが少なくても拡散されることはあるのだろうか? 増岡氏に聞いた。
「フォロワー数が比較的少ない一般の方の投稿でも、拡散されることがあります。人は、人間関係の中でSNSを使っています。フォロー・フォロワー関係を通じて、鎖のように情報が伝搬していき、結果的に、多くの人に届くケースは数多く存在します」
今後、インフルエンサーマーケティングを行う際には、「フォロワー数が多い」ことばかりにとらわれない見方が必要といえそうだ。
まとめ「戦略立てて実施することが重要」
増岡氏は、インフルエンサーマーケティングを実施する際には、次の点を押さえておくべきだと話す。ぜひヒントにして取り組みたい。
「統計データなどをみても、世界と比べて日本のインフルエンサーの影響力は低いといわれています。そのため、ただ単純にインフルエンサーに商品を紹介してもらっても、効果は想定しているよりも低いということです。どうすれば求める成果を出せるかを、しっかり戦略立てて考える必要があります」
取材・文/石原亜香利
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