東京商工リサーチ「企業の借入金」状況調査
東京商工リサーチが2021年3月期決算「企業の借入金」状況調査を発表した。
新型コロナの影響を受けた2021年3月期の企業決算は、4割の企業で前期より借入金が増えたことがわかった。借入金は、月商比で1カ月分が増加した。
コロナ禍による企業活動への影響は、すでに1年半が経過した。飲食業や宿泊業、旅行業など、直撃を受けた業種を中心に、影響は広範囲に及ぶ。ただ、コロナ関連支援による倒産抑制策の効果は大きく、企業倒産は記録的な低水準を持続している。
とりわけ倒産抑制に寄与したのは総額40兆円に達する「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」だった。貸付による緊急避難で、コロナ禍の影響を受けた企業は信用力に関わらず、有利な条件で借入金を導入できた。業績悪化でも資金調達が可能になり、一次的にキャッシュ・フローが緩和し資金繰りを下支えしている。
一方、ゼロ・ゼロ融資は最長5年間の返済据置き期間が設定された。利用した企業の約6割が据置期間を1年としたが、返済開始と同時にリスケを要請する企業も出ている。
また、コロナ以前から経営悪化が続いていたところに新たな借入金を抱えた企業、本業回復が見通せず返済が難しい企業などを中心に、「過剰債務」が新たな課題として浮上している。
厳しい経営環境が続くなか、本業回復の遅れた企業がどれほど利益償還できるのか。コロナ禍の収束時期と同時に、企業の業績改善がいつ動き出すのか、時間との競争になっている。
4割の企業が借入金増加、13.3ポイント上昇
3月期決算の企業(3万210社)の借入金の状況を前期と比較した。年間を通じてコロナ禍の影響を受けた2021年3月期決算では、借入金が増加した企業は42.2%(1万2,762社)に達し、減少の31.8%(9,634社)を大きく上回った。
2020年3月期は増加28.9%(8,741社)に対し、減少は43.9%(1万3,261社)だった。2021年3月期は、借入金の増加企業が13.3ポイント上昇し、2020年3月期と比べ増加と減少の構成比がほぼ逆転した。
なお、2021年3月期の横ばい(25.8%、7,814社)のうち、6,929社は2期連続で借入金がゼロの無借金企業だった。
中小企業の借入金増加が顕著
2021年3月期決算の借入金の状況を、資本金別で比較した。借入金の増加は、資本金1億円以上(大企業)が31.7%に対して、資本金1億円未満(中小企業)は45.4%で、1億円未満が13.7ポイント上回った。
中小企業ほど資金需要にゼロ・ゼロ融資などの支援策で対応し、借入金が増えたとみられる。
借入金増加は建設業が最大
産業別の借入金の状況を比較した。10産業のうち、2021年3月期決算で借入金の増加企業の構成比の最高は建設業の48.9%で、半数近くに及んだ。
以下、運輸業(増加企業の構成比46.5%)、製造業(同46.1%)、農・林・漁・鉱業(同43.9%)、小売業(同42.7%)、卸売業(同40.1%)までが4割を上回った。最低は、金融・保険業(同27.9%)で、コロナ禍の直撃を受けた飲食業などを含むサービス業他は36.5%だった。
2020年3月期決算との比較では、全産業で増加企業の構成比が上昇した。上昇幅の最大は建設業で、2020年3月期から19.0ポイント上昇した。建設業は好調な受注環境が続いてきたが、今後の市況悪化などに備え、借入金の導入でキャッシュ・ポジションを厚くする動きが強まった。
このほか、運輸業(16.0ポイント)、サービス業他(13.1ポイント)、卸売業(13.0ポイント)、製造業(12.1ポイント)、農・林・漁・鉱業(10.5ポイント)の6産業までが10ポイント以上上昇した。
全地区で10ポイント以上の借入増、最大は北海道
全国9地区の借入金の状況を比較した。9地区のうち、2021年3月期決算で借入金の増加企業の構成比が最も高かったのは北海道の47.7%だった。
次いで、東北が47.0%と僅差で続き、北日本の2地区が上位に並んだ。以下、近畿(増加企業の構成比44.0%)、四国(同43.2%)、北陸(同41.4%)が続き、9地区中8地区が4割を上回った。
最も低かったのは中国(同39.2%)で、唯一4割を下回った。最も高い北海道と中国の差は8.5ポイント生じ、地域差が出た。
2020年3月期決算と比較すると、全9地区で増加企業の構成比が上昇し、上昇幅も10ポイント以上となった。上昇幅の最大は東北で、2020年3月期から20.0ポイント上昇した。
以下、上昇幅は北海道(18.6ポイント)、四国(16.7ポイント)、近畿(13.6ポイント)、中国(13.1ポイント)、九州(12.9ポイント)、北陸(12.4ポイント)、中部(11.0ポイント)と続き、最も低かったのは関東(10.9ポイント)だった。
借入金月商倍率、全企業平均で1カ月分増加
月商に対する借入金の比率を示す「借入金月商倍率」(借入金総額÷年間売上高÷12)の直近3期推移を比較した。全企業では、2019年3月期と2020年3月期はともに4.7倍と同水準だったが、2021年3月期は5.7倍に跳ね上がった。
借入金の標準的な比率は、業種や業態などにより異なるが、全企業を平均すると2021年3月期はおよそ1カ月の月商分と同額の借入金が増加したことになる。コロナ禍を受けた売上高の減少と、銀行借入の積極的な利用で借入金月商倍率が高まった。
宿泊業の借入金 年間売上高を上回る増加
2021年3月期と2020年3月期の借入金月商倍率を業種別で比較した(1業種あたりの母数が100社以上を対象)。最も増加したのはホテル・旅館運営の宿泊業で、2020年3月期の8.4倍から2021年3月期は22.7倍に上昇し、ダントツだった。
宿泊業は典型的な装置産業のビジネスモデルで、設備投資などで従来から借入依存度が高い。2021年3月期はコロナ禍の直撃で、活況だったインバウンド需要がなくなり、国内旅行の自粛や出張などのビジネス利用も低迷し、売上高の大部分が消失した。資金繰り維持のため借入金を増加させた宿泊業者も多く、増加幅は平均して月商の14.3カ月分に及んだ。
単純計算では、宿泊業はこの1年間で年間売上高を上回る借入金を新たに抱えたことになる。次いで、道路旅客運送業(4.8倍→13.3倍)が続く。物流関連はコロナ禍での需要増を背景に業績を伸長させた企業も目立つが、車両購入や人員増に対応して借入金を増やしたとみられる。
このほか、4番目には酒類のメーカーを含む飲料・たばこ・飼料製造業(6.5倍→13.4倍)、5番目には旅行業や結婚式場など冠婚葬祭業を含むその他の生活関連サービス業(4.6倍→11.3倍)、6番目に飲食店(4.1倍→9.1倍)などが入り、コロナ禍の影響を大きく受けた業種が上位に並んでいる。
有利子負債構成率 全企業平均33.1%に上昇
財務の健全度合いを示す「有利子負債構成率」(有利子負債÷総資本)の直近3期推移を比較した。全企業を対象とした平均値では、2019年3月期(31.0%)から2020年3月期(31.4%)にかけて0.4ポイントの上昇にとどまったが、2021年3月期は1.7ポイント上昇し、33.1%となった。
借入金の増加に伴い、財務に占める有利子負債の負担も重くなっている。産業別では、2021年3月期で最も高いのは不動産業(45.1%)で、以下、農・林・漁・鉱業(44.3%)、小売業(39.3%)、情報通信業(36.1%)、運輸業(35.1%)などが続く。
借入金月商倍率と同様に、標準的な比率は業種や業態によって大きく異なるが、2020年3月期と比較して、増加幅が最大だったのは情報通信業の8.8ポイント増(27.3%→36.1%)、以下、農・林・漁・鉱業の3.2ポイント増(41.1%→44.3%)、建設業の2.5ポイント増(32.2%→34.7%)、運輸業の2.0ポイント増(33.1%→35.1%)までが前年比2.0ポイント以上上昇した。
また、地区別では2021年3月期は四国が最も高く36.3%、次いで東北の35.2%、北海道の34.5%と続き、最も低かったのは関東の31.8%だった。前期との比較では九州が2.7ポイント増(30.2%→32.9%)と最も上昇幅が高かった。
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構成/DIME編集部