コロナ禍により顧客とのコミュニケーションが一斉にオンラインへとシフトした。特にBtoCビジネスについては消費者との接点としてSNSは主要なチャネルであり、ますます重要になってきた。実際、ここ1年余の間に公式YouTubeチャンネルを開設した企業もいるだろう。しかし、思うように再生数やチャンネル登録者数が増えず、運用面に迷いが生じていないだろうか。そこで今回は、企業のYouTube運用方法やそのコツについて、YouTube運用のプロに手ほどきしてもらう。
企業のYouTubeチャンネルの伸ばし方
YouTubeといえば、YouTuber(ユーチューバー)と呼ばれる存在が圧倒的な人気を誇り、その桁外れの再生数には企業チャンネルでは到底、届かないと思ってしまう。そのような中で、企業チャンネルが人気を博するためのコツは?
今回、話を聞いたのは、YouTubeをはじめとするクリエイター支援やコンテンツ制作事業を展開する株式会社BitStarだ。企業のYouTube活用についての解説本「動画マーケティングの新常識 最強のYouTube活用術」を手がけるなど、企業のYouTube運用に詳しい。
BitStarのコンテンツ制作事業を管掌する執行役員・泊大輔氏は、企業チャンネルの伸ばし方のコツについて、次のように話す。
【取材協力】
株式会社BitStar
「100年後に名前が残る産業・文化をつくる」というミッションを掲げ、YouTubeをはじめとするクリエイター支援事業、コンテンツ制作事業を展開。クリエイターエージェント「BitStar Agent」、クリエイタープロダクション「BitStar Production」、コンテンツスタジオ「BitStar Studio」を運営。著書に「動画マーケティングの新常識 最強のYouTube活用術」がある。
https://corp.bitstar.tokyo/
「『企業チャンネル』と言っても、実は目的がそれぞれ異なるので、一概に成功を定義するのはむずかしいですが、共通して言えるのは『コンテンツを作っている』という意識が必要だということです。これは『見る人を楽しませる意識』と言い換えることもできます。例えばテレビCMなどの広告が半強制的に見せる『プッシュ型』であるのに対し、YouTubeは見る人に選んでクリックしてもらう必要がある『プル型』のコンテンツです。視聴者に『見たい』と思ってもらえるコンテンツでない限り、そこに人は集まりません。企業として伝えたいことはあるかと思いますが、自分たちの発信しているものが『わざわざ時間を割いて見る価値があるか』という視点を持てるかどうかが成功の一つの分かれ目になると言えます」
企業がYouTube運用を成功させるポイント
そこで、企業がYouTube運用を成功させるポイントを具体的に挙げ、解説してもらった。
1.視聴者目線でコンテンツを作る
「先述の通り、まずは『見る人を楽しませる意識』が欠かせません。自分たちが言いたいことを伝えつつも、視聴者目線で、視聴者が見たいコンテンツを作ることが重要です」
2.目的を明確にする
「『どういう人に何を伝えたいか』を明確にする必要があります。企業チャンネルも、目的はさまざまです。メディア事業として収益を生むことを目的とするのか、商品やサービスの認知拡大などのプロモーションを目的とするのか、また最近はCSR的なブランディング目的でチャンネルを開設する企業もちらほら見かけます。
さらに、例えばプロモーション目的であったとしても、新規ファンを獲得したいのか、既存のファンのエンゲージメントを高めたいのかによっても作るべきコンテンツは変わってきます。まずはチャンネルの目的を明確にすることが成功への第一歩です」
3.必要以上にバズを狙わない
「人気YouTuberを見ていると、100万回再生数・100万人登録などの数字がよく目に留まるかもしれませんが、そのような数字を、安易に目標に掲げないことです。
YouTubeチャンネルは、それぞれジャンルごとに分けることができます。そして、そのジャンルごとにYouTubeでの市場規模は異なります。まずは、自分たちのチャンネルがどのジャンルに属するのかを確認して、同じようなジャンルで人気のYouTubeチャンネルをチェックし、そのジャンルのYouTubeでの市場規模はどのくらいなのかを把握しましょう。それによって、基準とする数値目標も変わってきます」
4.YouTubeでのトレンドを把握する
「より多くの人にコンテンツを見てもらうためには、人気の動画の『関連動画』や『おすすめ動画』に表示されることも重要です。例えば、ガジェット系のジャンルだと『今月買ってよかったもの』や、ファッションのジャンルだと『カバンの中身紹介』『買ったものの開封動画』などジャンルごとに定番のコンテンツがあるので、そういったトレンドもうまく活用しましょう。
また、最近は『YouTube Shorts』という縦型・短尺のショート動画も注目されています。今年リリースされたばかりの機能でYouTube側も力を入れているため再生されやすいアルゴリズムが設定されていますし、1分以内の短尺動画は制作コストも抑えられます。自分たちと似たチャンネルをチェックしながら、まずはいろいろと試してみるのもおすすめです。
トレンドをチェックするには、急上昇入りしている動画を毎日見て研究したり、弊社BitStarの『IPR(インフルエンサーパワーランキング)』というサービスでは月間の再生ランキングなどYouTube上では調べられないデータを見ることができます。YouTube上でのトレンドを把握し、うまく活用することが成功への近道です」
5. しっかりデータ分析をする
「何を配信するかも大事ですが、配信した後の分析も欠かせません。単に再生回数だけを見るのではなく、平均再生時間や動画のタップ率などのデータも重要です。YouTubeはアナリティクスが充実していてあらゆるデータを見ることができるので、データをもとに仮説を立て、試行錯誤を重ねて地道に改善していきましょう」
ユーザーの目に止まる優れた動画を作るためのコツ
では具体的に、一つ一つの動画を制作する際に、ユーザーの目に止まる優れた動画にするにはどんなコツが要るだろうか。泊氏は次の3点を挙げる。
1.サムネイルにこだわる
「サムネイルをクリックしないとコンテンツを見てもらえないので、サムネイルは非常に重要です。第一にわかりやすいかどうか、そして文字が多すぎないか、人の顔がはっきりと写っているかなどもクリック率に影響します。同じような方向性の優秀なサムネイルを見るなどして、研究することをおすすめします」
2.タイトルにこだわる
「動画のタイトルも、その動画をクリックするかどうかに関わる大きなポイントです。タイトルを見ただけで内容がわかるよう必要なキーワードを入れることはもちろん、検索やSEO対策などを考えた上で言葉を選ぶことが重要です」
3.冒頭の30秒を大事にする
「YouTubeは、最初の30秒で離脱する確率が一番高いと言われています。クリックされた後に継続して見てもらうためにも、冒頭で視聴者の心を掴むことが必要です。自己紹介を短くしたり、見所をちょい出しするダイジェストを入れるなど工夫をしてみてください」
企業のYouTube運用のよくある失敗
ポイントを押さえて実践したいYouTube運用。しかし、いざ実施してみると、つまずきがちなことがあるようだ。例えば、こんな失敗はよくあるという。解決策と合わせて教えてもらおう。
1.PRに寄りすぎている
「PRに寄りすぎるのは避けたいものです。例えばCMの映像素材をそのままYouTubeに載せて保管先のように利用している企業を見かけることがありますが、これは大変もったいないことです。チャンネルの目的が認知拡大であったとしても、テレビCMをそのまま置いておくだけではクリックされる可能性は非常に低いです。繰り返しになりますが『見たい』と思えるコンテンツ作りを心がけましょう」
2. 統一感がない、更新頻度が低い
「チャンネルとして統一感があり、安定して更新されていることは、重要なポイントです。コンテンツの内容をはじめ、編集・サムネイルなどのデザインに統一感があるか、全体をチェックしてみましょう。また、オーガニックでの視聴を増やしたい場合、最低でも週1本以上更新し、半年ほどは運用してみることをおすすめします」
3.専属の担当者がいない
「雑誌に編集長、テレビ番組にプロデューサーがいるように、YouTubeチャンネルにも専任となる責任者を置くことをおすすめします。専任を置くことで、チャンネル自体のブランディングの意識も生まれるので、統一感も生まれやすくなります」
YouTubeチャンネルは、今後、企業にとって顧客とのコミュニケーション上、さらに重要になってくる一つとなるだろう。ぜひポイントを押さえて効率的に運用しよう。また今回、解説されたのはあくまで基本であるため、書籍を読んだり、セミナーを受けたりして詳しく学習するきっかけにしてみてほしい。
取材・文/石原亜香利