【私たちの選択肢】ストリッパー・葵マコ 後編
人生に行き詰まると、わたしたちは目の前の世界しか見えなくなります。そんな時、知らない世界や知らない誰かの人生を知ると、すこし気持ちが楽になったりします。人はいくつもの選択肢をもっている。そして自由に生きることができる。このインタビューは、同じ世界に生きている”誰か”の人生にフォーカスをあてていきます。
前編「自分を確かめる術として足を踏み入れたストリップの世界」はこちら
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身近な人の死
アルコール依存症・摂食障害をカミングアウトし、ストリップ劇場で踊り子をしている葵マコさん。
夢を壊してしまうかもしれない、そう悩みつつも病気をカミングアウトした葵さんのもとには、同じ悩みをもつお客さんからの手紙が届くこともありました。
「お客さんのなかには、お酒を飲みすぎていて心配な方もいるんです。でも、わたしは友達や家族ではないから、「飲みすぎは危ないですよ」とは言えません。だけど、わたしが依存症だと公表をすることで、自分もそうかもと気づいてもらえたり、新しい視点を持つきっかけになるかもしれない」
2021年7月、葵さんの13周年公演が開催されました。タイトルは「you can cry」。泣いてもいいよ。その言葉は葵さんの願いそのものです。
自分自身の記憶が抜けてしまうほどつらい気持ちがあるのに、なぜ他人のことまで想い願っていられるのか聞くと、「取材依頼のメールをいただいたときから考えていて、話そうと決めたことがあるんです」と葵さんは口を開きました。
「周年タイトルを決める時期、妹から「死にたい」って連絡が来たんです。」
「you can cry」は、もともと頭にあったテーマだったそうですが、妹さんとのやりとりでより強くそう思うようになり、決定したそうです。わたしはカウンセラーではないし、誰かを直接助けることはできない。それならばステージで伝えよう。そう思った葵さんは、祈るような気持ちで演目を作り上げました。
「周年公演は7/21〜31までの予定でした。その途中で妹が亡くなってしまったんです。」
自分にできることをやらなくてはいけない
反射的に、葵さんがツイートされていた言葉を思い出しました。
「ああひとりになってしまったと、思う。おんなじ穴を持った人がいなくなってしまった。その穴はもう埋まることがない気がする。もう埋めることなくやっていこうと思う。」「(自殺防止について)わたしにもできることあるかな」
それらの言葉はまさに葵さん自身の心の声でした。
「そういうできごとがあって、あのツイートをしたんです。でも、作品として「you can cry」を伝えようとするのは自己満足だったのかもしれません。わたしは自分の妹を助けることができませんでした。」
自分はなにをやっているんだろう。無力感でいっぱいになると同時に、自分にできることはなんだろうと考えはじめたそうです。
「妹は、わたしに気持ちを話してくれているから大丈夫と思ってしまっていました。それがどれだけ自分勝手だったか……。贖罪にはならないけれど、わたしにできることをもっと探したくなったんです。いや、そうしなくてはいけないと思いました。」
まわりに話せる人がいなかったら、わたしはスリップをしてまたお酒を飲んでいたかもしれない。そう思った葵さんは踊り子として自分ができることを探すようになりました。
「わたしも同じだよ」と伝えたい
「舞台の上で自分をさらけ出すっていうのはどういうことだろう、と考えたんです。ブログやSNSで発信している言葉の表現と、舞台上での身体の表現は、延長線上にあってほしいけれどきっと別のものなんだろうと思っていました。」
しかし、最近はそれがすこしずつ繋がってきた気がすると言います。
「わたしが憧れている踊り子のおねえさんたちは、潔さや優しさ、包み込むような強さを持っているんです。わたしも、ステージにいる16分の間でそのすべてを表現したい。たとえば、「you can cry」って伝えられるようになりたいんです。」
踊り子という職業は舞台の上で表現をすること。ひとりひとりに話しかけたり、抱きしめたりすることはできません。それでも葵さんはその代わりにできることを探しています。自分の存在を通して伝えたいことがあったからです。
「今、生きることが苦しい人にわたしが直接なにかをしてあげることはできません。だけど、ステージに立ちながら「わたしも同じだよ」って言いたい。生きづらいことや依存症への理解も広めたい。そのためにわたし自身が大きくなりたいと思っています」
大好きなストリップを続けながら、もっと自分にできることを増やしたい。そう思い、人の心理について勉強もしたいと語る葵さん。
わたしたちはつらいことや恥ずかしいことはつい隠してしまいますが、葵さんが自分の病気をカミングアウトしながら活動を続ける姿に、自分の苦しみや本音は声に出してもいいし、泣いてもいい、そうする力はあなたにもあるよと教えてもらった気がしてなりません。
「わたしもだよ」と言ってくれる人が劇場にいればいる、というのはとても大きいことです。日常で一緒にいるわけではないけれど、舞台に行けば葵さんはそこにいて、つらいときは泣いたっていいんだよと気づかせてくれるのです。
葵マコ
ストリッパー。高校時代より、裸体の在り方に興味をもつ。彫刻や版画などの表現を経て、自らの身体を動かすことにつながる。2008年、京都のストリップ劇場、DX東寺にてデビュー。休業を経て現在14年目。アルコール依存、摂食障害であることを公表しながら踊り子を続けている。好きなものはスパイスカレーと珈琲。はだかと言葉と心のあり方をいつも模索中。
文・成宮アイコ
朗読詩人・ライター。機能不全家庭で育ち、不登校・リストカット・社会不安障害を経験、ADHD当事者。「生きづらさ」「社会問題」「アイドル」をメインテーマにインタビューやコラムを執筆。トークイベントへの出演、アイドルへの作詞提供、ポエトリーリーディングのライブも行なっている。EP「伝説にならないで」発売。表題曲のMV公開中。著書『伝説にならないで』(皓星社)『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)。好きな詩人はつんくさん、好きな文学は風俗サイト写メ日記。
編集/inox.