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パワハラ防止法の陰で横行する「無自覚パワハラ」の問題

2021.09.01

パワハラ防止法の施行から1年余り。

これで職場のパワハラも終息に向かうと思いきや、実態はそうでもないらしい。同法の中小企業への適用が来年4月からというのもあるが、既に防止対策が義務付けられている大企業でも、パワハラ対策の意識に温度差があり、「対策しているが不十分」な企業も少なくないという。

目をかけて指導した部下に告発される

さらに看過できない問題は、自分の言動がパワハラだとは認識していない「無自覚パワハラ」の横行。

特にバブル世代~団塊ジュニア世代の男性管理職にみられるという。そう指摘するのは、近畿大学教授・ジャーナリストで、労働問題に詳しい奥田祥子さんだ。奥田さんは、著書『捨てられる男たち 劣化した「男社会」の裏で起きていること』(SBクリエイティブ)の冒頭で、無自覚パワハラの当事者の1例を挙げている。

その人物は、都内の大手メーカーに勤める40代後半の営業部長。総務部門から異動してきた27歳の男性社員に目をかけ、「懸命に指導」した。部長目線では、その部下は「メキメキと腕を上げていった」という。

ところが、異動半年で部下はうつ病に。そして、原因は部長のパワハラにあると、部下は上司を告発してきたのである。

社内調査の結果、まぎれもなくパワハラであると認められ、懲戒処分に…。一方、部長としては、寝耳に水のまったく身に覚えのないことであった。この食い違いは何なのか?

奥田さんの著書には、くだんの部下がひそかに録音したという部長の発言が記されている。

「お前、大人し過ぎるぞ。やっと営業に来れたんだから、死ぬ気で頑張れよ」
「昨日の夜の態度は何だ。せっかく取引先を紹介してやったんだから、もっと食いついていけよ」
「……休日で遊び呆けているのか。明日の商談に備えて、ちゃんと準備しておけよ」

今の若手社員からすれば、一発でアウトなセリフのオンパレードかもしれない。だが、部長自身が若手であった当時は、上司からこれくらい言われるのは、むしろ当然というのが企業風土としてあったのも事実。

奥田さんは、こうした無自覚パワハラは「巷に溢れている」という。さらに、テレワークでのオンライン会議などICT(情報通信技術)を活用したコミュニケーションでは、「相手の気持ちや考えを読み取りにくく」、このタイプのパワハラの増加に拍車をかけているとも。

懸命に指導したつもりがパワハラとみなされることも

結婚間もない部下への一言が致命傷に

もう1つ、「古くて新しいハラスメント」として奥田さんが挙げるのが「セクハラ」だ。

パワハラ防止法の施行にあわせ、セクハラ防止対策の強化が規定された。しかし、「職場でのセクハラはいっこうに収まらないどころか、その状況や内容はますます多様化、複雑化している」と、奥田さんは記す。その中には、よく知られるようになったマタニティハラスメント(マタハラ)やパタニティハラスメント(パタハラ)だけでなく、女性上司から男性部下へのセクハラなど、「かつては想定していなかったケース」も増えているそうだ。

そいて、セクハラにおいても、告発を受ける側が無自覚な事例が多々ある。その1人が、ゼネコンの施工管理部長のケース。男社会の気風が強い建設業界において、女性登用を推進していた当の人物が、セクハラで訴えられたのである。訴えたのは、会社初の女性現場監督となった部下。いったい何があったのか。

当初は、「その女性部下が配置されている現場に足繫く通い、所長に彼女の様子を聞いて指導・育成を促す」など尽力。部下も感謝の言葉を絶やさなかったという。

雲行きが怪しくなったのは、部下が結婚してから。部長の目には、部下の仕事へのやる気がなくなってきているように見えたという。そのことが影響したのだろうか、つい発した言葉が致命傷となる。

「せっかくチャンスを与えてやったんだ。育児で仕事がおろそかにならないよう、当分は出産を控えて仕事に専念してくれよ」

その後、この部長は上司の本部長に呼び出され、部下からセクハラの訴えがあったことを知らされ、減給の懲戒処分を受けた。それから3ヵ月して、部長は自主退職している。

実は、部下は結婚する前から部長に、「出産すると、キャリアが中断して出世に響く」などと言われ続けていたという。言っている本人にその自覚はなくても、セクハラの種は既にまかれていたといえそうだ。

今もいっこうに収まらないセクハラのトラブル

無自覚パワハラを防ぐには

言っている本人に自覚はなくても、はたから見ればパワハラそのものの言動。これが絶えない理由として「中年の管理職男性たちは、画一的な男性優位社会の価値観に囚われる」点を、奥田さんは指摘する。その価値観は、ゆとり世代以降の若手には受け入れられるものでなく、このままでは「そうした男たちは職場、社会から取り残され、さらには社会的排除」されることもあると、奥田さんは警鐘を鳴らす。

では、どうすればいいのか? 奥田さんは、いくつかのヒントを提示しているので、一部紹介したい。

その一つが、「ローコンテクストなコミュニケーション」。外国人部下を持ったことがあるならご存知かもしれないが、異文化の人との意思疎通には、阿吽の呼吸のような言語を介さないやりとり(ハイコンテクストなコミュニケーション)は、極力排することが重要になる。これを外国人部下だけでなく、同じ日本人の部下にも適用する。つまり、「伝えたい内容を詳しく、わかりやすく、その背景も含めてしっかりと言葉で説明」するよう努める。

また、コミュニケーションについて「相手に多くのことを求めすぎない」ことも大切。例えば、部下は自分の指示を無批判に受け入れて当然と期待するのは禁物。「こうあるべき」という、昔ながらの価値観の押しつけになりかねないからだ。

こうしたアドバイスは、団塊ジュニア世代以上の人には耳が痛いかもしれないが、できるところから地道に実行することが肝要。パワハラと訴えられないためにも、上司の側の心の変革は絶対不可欠だ。

奥田祥子さん プロフィール
京都生まれ。1994年、米・ニューヨーク大学文理大学院修士課程修了後、新聞社に入社。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。2017年から近畿大学教授。ジャーナリスト。博士(政策・メディア)。専門は労働・福祉政策、ジェンダー論、メディア論。日本文藝家協会会員。2000年代初頭から、社会問題として俎上に載りにくい男性の生きづらさを追う。取材対象者一人ひとりへの最長で20年に及ぶ継続的なインタビューを行い、「仮面イクメン」「社会的うつ」「無自覚パワハラ」など、斬新な切り口で社会病理に迫る。著書にベストセラーとなった『男はつらいらしい』(新潮社、文庫版・講談社)、『男性漂流 男たちは何におびえているか』(講談社)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社)のほか、『社会的うつ うつ病休職者はなぜ増加しているのか』(晃洋書房)、『夫婦幻想』(筑摩書房)、『男という名の絶望 病としての夫・父・息子』(幻冬舎)など。

文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)

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