外資系企業に勤務するKさんの趣味は、磁器の絵付け。
熱意が高じて、「いつか自分のブランドを作りたい」という夢にまで発展した。
しかし、具体的にどうするかわからず悶々とする日々。
ある日、願望実現につながるという簡単なメソッドを知り、試しに始めてみたという。
すると間もなく、エリサという友人ができ、彼女の助力でパリのギャラリーで個展を開く話に進展。それからも機会がいろいろと舞い込み、ついには自分のブランドを立ち上げるのに成功した…。
発案者自身も活用して無職脱出
Kさんの夢が、とんとん拍子に叶っていくのに役立ったそのメソッドは「ミーニング・ノート」という。これは、基本的には「ノートにその日あったチャンスを3つ書く」という、非常なシンプルなやり方。発案者は、(株)ダイジョーブのCEO・山田智恵さんだ。
山田さんは、リーマンショックの余波で無職になるという苦境から、わずか数年で一部上場企業の部長と外資系企業の役員に登りつめた体験の持ち主。その成功をつかむまでのプロセスで、ミーニング・ノートの原形を生み出し、改良しながら現在の形にまでリファインした。
ビジネスパーソンなら誰もが興味をそそられるこのメソッド。はたしてどんなものなのか? これからそのエッセンスを紹介しよう。
ノートにチャンスを3つ書く
ミーニング・ノートを始めるにあたって必要なのは、A5またはA5変型のノートだけ。罫線はあってもなくてもOK。ただし、使って「気持ちが上がるノート」であることが重要。となれば、おそらく100円ショップにあるものより、文具店にあるちょっと上等な1冊をセレクトすることになろう。ちなみに、山田さんが現在愛用するのは「ロイヒトトゥルム」。「紙質が良くて書きやすいのと、キレイさを保ったまま、使い込んだ雰囲気が出てくる」というのが、お気に入りの理由だそう。
ノートが決まったら、さっそく書いていこう。何を書くかといえば、「今日起きたチャンスを3つ」だ。
チャンスといっても、なにも「本社への栄転が決まった」というような華々しいものでなくてかまわない。「自分の心が動いた」出来事は、どれもチャンスになりうる。例えば以下のは、山田さんが実際に書いたもの。
・田中さんが、声がいいねとプレゼンを褒めてくれた。
・ひのさんが、ランチに誘ってくれた。
・小川ちゃんと、本音で話しあえて嬉しかった。
誰でも毎日でも起きているような事柄ばかりだが、こうしたものでOK。ともかく心が少しでも動いたものであれば、この日のチャンスの候補になる。山田さんは、それを「わらしべチャンス」と呼んでいる。
対して、嬉しさやワクワク感が半端ない、まぎれもなくチャンスと言えるものは「キラキラ・チャンス」。しかし、これには注意が必要で、山田さんはこう説いている。
「世の中のほとんどの人は、このキラキラ・チャンスだけを、いわゆるチャンスだと思ってしまっています。その考えこそが、チャンスに対する大きな誤解です。
この誤解はチャンスと無縁の人生を送ってしまう最大のトラップともいえます。『チャンスは私に来ていない』と思っている人は、まさしくこの誤解をしています」
むしろ注目すべきは、わらしべ・チャンス、そして「スパイシー・チャンス」だという。スパイシー・チャンスとは、心が動くといってもネガティブな方向性。例えば―
・みんなの前で昔の失敗をバカにされた。
・体調を崩して入院することになってしまった。
・告白したら、フラれてしまった。
そのほか、太ってしまったとか、親と口喧嘩したとか、基本的に起きてはほしくないことが該当する。できれば、さっさと忘れたいことを、あえて書くのはなぜか?
「このスパイシー・チャンスには、人生を大逆転させる大きなパワーが秘められているのです。
ガラっと生き方を変えるきっかけになったり、人生をかけるほど大きな使命が見つかったり、自分にとって本当に大切な人は誰かが見えてきたり……。
だからあなたも、スパイシー・チャンスが来たら、その後の大逆転を楽しみにしながら、『お! きたな!』と堂々とノートに書いてください」と、山田さんは説明する。
もう1つ重要なのは、どのチャンスであっても、できごとを単に書くのではなく、それに対する「気づき」や「学び」などを書き足すことだという。
例:取引先の接待に出席した。仕事だけでなく、プライベートでの共通点が見つかると、グッと距離が近くなって、信頼関係を築けるって気づいた。
この例では、最初の一文がわらしべ・チャンス。続く文が気づきとなっている。
こうしたチャンスを1日に3つ書く。それより多くても、少なくてもダメ。たくさんあったら、心の動きが大きいものから順に選ぶのがポイントだ。
1週間分のチャンスを見返す
こうして日々3つのチャンスを書いていくと、1週間で21のチャンスがノートに列記されることになる。
次のステップとして、これらを見返す。そして、特に大切なチャンスを3つ選んで印をつける。
こうする目的は、自分の優先順位が何なのかを見極めるため。それが仕事なのか、家族なのか、余暇の過ごし方なのかが、まず可視化される。
「優先順位がはっきりしてくると、それに関わるチャンスのアンテナがより高くなり、チャンスをつかむスピードも高まってきます」と、山田さん。
1週間の振り返り作業でもう1つ必要なのが、「つながりにラインを引く」。21のチャンスを俯瞰して、「これとこれが、つながりがあるな」と思ったら線でつなげる。例えば以下のように。
・炭水化物を食べないよう食事制限した → 体重が300g減った
・体調がよくなかった → 恋人に八つ当たりしてしまった
・親に大学院でまた勉強することをすすめられた → 大学時代のゼミの先生から久しぶりにメールが来た
3つめのつながりは何の因果関係もないが、実はこれもアリ。山田さんは、これを「不思議なつながり」と呼んでいるが、「なんとなく、つながっている気がする」と思えば、引いておく。
この作業は、「チャンスはつながっていく」ものであることを、肌感覚で実感することに役立つ。それはやがて、「自分の未来、自分の可能性を信じる」ことへとつながっていくという。
チャンスから戦略を立てる
さて、1週間分のチャンスの見返しで、もう1つ重要なことがある。
それは「戦略」。
…と言われると、何やら一気にハードルが上がる感じだが、心配はご無用。要は、チャンスの中から、「自分自身」「縁」「チャンスのつながり」の3テーマについて新たな気づきがないか探し、それをどうするかノートに記すだけだ。
具体例を挙げよう。テーマが「チャンスのつながり」の場合、なぜつながったのか、その理由を考える。その時、「自分はいつもとは違う行動をしたのだろうか?」「誰かの助けがあったのだろうか?」などと、自問自答してみる。その結果、「大切な人に近況報告を続けると、新たなチャンスにつながりやすい」というふうに、なにかしら気づきがあるはず。気づいたら、それを使える機会が他にないか考えを進める。こうして成功パターンが連鎖していくという。
ミーニング・ノートの戦略を活用して、国交省の「中国地方観光振興アワード」とグッドデザイン賞を受賞したTさんという男性がいる。Tさんは、会社の仕事と大学院の勉学をこなしながら、インバウンド観光案内のNPO法人の運営に参画。大学院で学んだビジネスプランの知見を取り入れることで、NPO法人は注目の存在となり、受賞に至ったという。
Tさんのミーニング・ノートには、仕事も学業もNPO法人の活動もチャンスとして一緒くたに入っているが、それゆえ「インスピレーションが起きやすくなる」と、山田さんは言う。
「いつもは、『仕事は仕事』『プライベートはプライベート』と無意識に頭の中で垣根を作ってしまうものなのですが、それがごちゃ混ぜに1冊のノートに書かれていると、新しい組み合わせを考えやすくなるのです」
ここまで、ミーニング・ノートの書き方を手順に沿って紹介してきたが、あくまでも概略的なものだ。本格的に「初めてみたい!」と思ったら、山田さんの著書『ミーニング・ノート』(金風舎)をひもといてみよう。また、山田さん主催の月1回のワークショップを含むオンライン・コミュニティもある。日ごろ見過ごしがちなチャンスをもとに人生を飛躍させたいという方には、おすすめのメソッドだ。
写真提供/山田智恵
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)