【連載】もしもAIがいてくれたら
第14回:AIに歌詞は書けるけど、小説となると結構難しい、という話
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第13回:猛暑到来!だけどAIに地球温暖化が防げなかったら…他に何ができる?
「仮面女子」の歌詞をAIに書いてもらってみたら……
2017年4月に、初めてAIで創作した歌詞をアイドルグループに提供しました。アイドルグループ「仮面女子」のメンバーが曲をイメージした絵を描き、その色合いからAIに歌詞を創作させてみました。
AIで作曲したり、絵を描いたりと、創作系のAIはすでに流行り始めていた時期でしたが、作詞はあまりされていませんでした。まして、実際にアイドルに提供したという出口が新しかったのか、話題になりました。私が当時出ていた早朝の情報番組でも、そのいきさつなど含め、紹介する機会もありましたし、その話題でスポーツ紙や数多くのテレビでも取り上げていただきました。
歌詞に限らず、創作活動は、生みの苦しみを伴い、新しい作品を人だけの力で生み出すのは大変だと思います。描きたい世界観を表す絵や写真などからAIが文章を生成したら、多少支離滅裂でも、人の創造力を増幅することができるのではないかと思いました。
目標は人の「創造力」の増幅でしたが、発表してみたら、面白いことがわかりました。「僕のくるみが頑張りそうで」というAIが生成したフレーズについて、スポーツ紙の記者からも、テレビ番組のキャスターからも、「下ネタですね!」と言われました。下ネタ系の文章はAIに学習させていないので、AIはそのつもりはなかったと思いますが、人が自由に「想像」したようです。日本テレビの「月曜から夜ふかし」では、マツコ・デラックスさんの写真から、「ハーピロー胸にともる炎」というフレーズをAIが創作し、「ハーピローってなんだろう」と、ネットで話題になりました。
創作系のAIは、人の「創造力」も「想像力」も増幅する力があります。AIというと、人を滅ぼす、人の仕事を奪う、といった怖いイメージを持たれますが、使い方次第で、良い武器にも悪い武器にもなります。
AIで「星新一賞」に挑んでみよう!
作詞するAIは、少し不思議な感性的な表現を生み出すことで役に立つ可能性がありますが、ストーリー性が重要で、支離滅裂は許されない小説を書くAIは格段に難しいです。
2013年に始まった日本経済新聞社が主催する「星新一賞」は、理系的な発想に基づいたショートショートSF作品で知られた作家の星新一さん名を冠した文学賞です。AIによる作品の応募も可能ということもあり、2019年に星新一賞の最終審査員を務めたことをきっかけに、2020年に電気通信大学人工知能先端研究センター(別名AIX)で、「星新一賞に挑戦!AIで小説を書いてみよう」というセミナーを開催しました。今年も2021年8月30日と31日に開催されます。
昨年は直木賞作家の石田衣良さんと対談しましたが、絵のようなインパクトのあるイメージから小説を書き始められることがあるとうかがいました。もしそうだとすると、絵や写真から歌詞を創作するAIと共通する創作過程がありうるのかな、と思いました。
人が何かを生み出す時に頭の中で行っていることは、創作活動をしている本人でもわからない部分はあると思います。AIの創作過程もブラックボックスなところが多いのですが、何を、どのように学習させるか、いろいろなモデルを組んでみることはできるので、どんなモデルでやってみると、どんなことが起きるのか、いろいろ試してみることで、人の創作活動の神秘にも迫れるかもしれません。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。