ハードセルツァーの発売が相次いでいる。アメリカの若者の間で大ブームを引き起こし、今、世界のアルコール市場の一大マーケットになりつつあるというハードセルツァー。国内産を飲んでみた。
ハードな炭酸水、アルコール飲料としてはソフト
Hardとはアルコール入り、 Seltzer(セルツァー)とは炭酸水のこと、ハードセルツァーは「アルコール入りの炭酸水」という意味である。アルコール入りの炭酸水といえば、チューハイやサワー、ハイボール、みなそうなのだが、ハードセルツァーは何が違うのか。
コロナ禍が長引いて家飲み需要が増え、低アルどころか微アル化が進むお酒市場だが、ハードセルツァーは“炭酸水”のようにさわやかで、甘くない、健康志向の低アルコール飲料。ざっとこんなくくり方ができる。国内で手に入った3種類を紹介しよう。
今年3月、オリオンビールがビールメーカーの先陣を切って「DOSEE<ドゥーシー>」を発売している。
「DOSEE <ドゥーシー>」左からグレープフルーツ、シークヮーサー、アセロラ。沖縄限定でパイナップルフレーバーも。250ml缶。アルコール分2%、32.5kcal。公式通販9缶アソートセット1,990円。
サトウキビの醸造アルコールを使用、ただしスピリッツ。フレーバーがシュワッと立ち、特にシークヮーサーは沖縄らしさを感じさせる。250mlという小ぶりな缶が手にすっぽり入り、炭酸水と同じ気分で飲み干せそうな1本。
人気を博しているのは、「お酒は飲みたいが体型が気になる方、お酒が弱いと自覚のある方」だという。「糖質ゼロ、低カロリーという機能的な側面も見えるため、気軽に楽しんでいただける」(オリオンビール・マーケティング本部)と分析している。
糖質ゼロはハードセルツァーの重要なキーワードだ。昨年はビールにも糖質ゼロが登場して話題を呼んだ。家飲みで酒量が増えがちな中、糖質量を気にする人は増えている。
8月24日にサッポロビールから発売されるのが「サッポロWATER SOUR」。こちらも無糖。アルコール分3%で、「炭酸水テイスト」と謳う。
「サッポロWATER SOUR」左レモン、右オレンジ。350ml缶、アルコール分3%、66.5kcal、参考小売価格155円。
サッポロビールはハードセルツァーの特徴として、「サトウキビの糖蜜由来のアルコールを使用」「低アルコール」「甘くない」「低カロリー」「スタイリッシュなデザイン」を挙げる。「低アルコール×甘くないお酒」市場の潜在人口は500万人以上と推計している。
このスタイリッシュさはハードセルツァーは、既存の低アル商品とのもっとも大きな差別化ポイントかもしれない。日本には数十年も前から缶チューハイがあり、甘くない、低カロリーのRTDが市場にあふれる。その中で、ハードセルツァーはSNSに挙げたくなるようなスタイリッシュさが絶対条件なのだ。従来品との違いにはジェンダーフリーもある
「従来の低カロリーでフルーティーな低アルコールは、どちらかというと女性向けのイメージが強かったが、ハードセルツァーは男女問わず、だれが手にしていてもスタイリッシュ」(サッポロビール・マーケティング本部市川昇平さん)
「サッポロ WATER SOUR」はレモンとオレンジの2フレーバー。アルコールにはサトウキビ由来の醸造酒ではなく、ウオッカ系スピリッツを使用。「日本人の好むすっきりした味わいを追求したため」と話す。
試飲した印象は、無糖ながら微かな甘さを感じさせ、それゆえ飲みやすさを感じた。缶チューハイより炭酸水に近いのは実感できた。
コカ・コーラもグローバルブランドを展開中
ビールメーカー以外の参入も見られる。清涼飲料メーカーの日本コカ・コーラは7月、地域限定で「トポチコ ハードセルツァー」を発売(現在はイベント会場などでの限定販売のみ)。コカ・コーラ社は2020年、南米でアルコール飲料として初のグローバルブランドとして発売、アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランスなどヨーロッパと販路を広げ、今年7月、日本に上陸した。
「トポチコ ハードセルツァー」左からアサイーグレープ、タンジーレモンライム、パイナップルツイスト。355ml缶、アルコール分5%、100kcal、希望小売価格165円。
こちらはアルコール5%だが、アメリカ人からすると十分低アルである。アサイーグレープは日本限定のフレーバーである。ほとんどフルーツフレーバー付き炭酸水と間違えてしまいそうな香りとシュワシュワ。しかしアルコール分5%入っているので気をつけないと、と思わせるスムーズな飲み心地だ。
クラウドファンディングでつくられた製品もある。クラフトビール「CRYSTAL IPA」で知られるCRAFT Xはこの夏、目標金額を越える403万円を調達し、「PULEMO(ピュレモ)」を発売。「人工甘味料や香料などの添加物不使用、瀬戸内産のノーワックスのレモンを使用」と、原料のこだわりが特徴だ。
「PULEMO」355ml缶。アルコール分5%。6缶1,700円(オンライン販売のみ)
グラスに注いで飲むスタイル提案は、ハードセルツァーとしてはやや異色。「甘い野菜が入ったサラダ」「シーフード入り生春巻き」「パイナップル入り酢豚」「ローストチキンやポテト」「トマトパスタ」「シーフードグリル」など、食事との合わせやすさもアピールする。
原材料にレモン、ミント、ローズマリーを使い、華やかな清涼感を感じさせる。ドリンカブルだし食事にも合わせやすいと思う。
さて、まだハードセルツァーを飲んだことのない人は、「で、チューハイと何が違うの?」と思われるかもしれない。実際、無糖でフルーツフレーバーの低アルコール飲料はこれまでもあったし今もある。それらと比べると、ハードセルツァーは限りなく炭酸水に近づけたお酒、というのが筆者の印象である。
検索サイトで「ハードセルツァー」を調べると、ハードセルツァーと缶チューハイやサワーの違いとして、前者はサトウキビの醸造酒を用いた「醸造酒」、後者は焼酎やウオッカなどスピリッツを使った「蒸留酒」という説明に出会うだろう。しかし、上に紹介してきた商品はすべてスピリッツを使用した蒸留酒である。これは日本産ハードセルツァーの特徴なのだろうか。本場アメリカの事情を聞いてみた。
→クラフトビールブーム第2波?アメリカ発ハードセルツァーの波が到来
取材・文/佐藤恵菜