そうめん
昔から「気温が30℃を超えるとそうめんの消費が急速に伸びる」と言われているそうで、そうなると、いよいよそうめんの季節が到来、ってことになりますね。
そもそも、そうめんは湿気のない冬に作り、春に熟成させ、5〜8月で生産量のほとんどを売り尽くす夏場の季節商品。中でも売り上げが一番大きいのは、お中元が行き交う7月。昔の中流家庭では、そうめんはお中元でいただいたやつを家でひと夏かけて食べたものでしたからね。ところが、中元文化の衰退とともに、売り上げも右肩下がり。
考えてみれば、これまで日本人がそうめんの正しい食べ方と信じ込んできた、氷水と一緒に器に入れて食卓の真ん中に置き、それをおのおのが箸で取って自分のタレ椀につける食べ方は、涼し気ではあるけど、麺は伸びきってグダグダ。しかもタレの味しかしないうえ、それがどんどん薄まるだけなので、全然おいしくない。そこで、正しい食べ方を知って、中元だけじゃなく自分でも買ってもらおうと、そうめん業界は2016年頃から業界を挙げて啓蒙を始めました。
例えば、ゆでる時に梅干しをひとつ鍋に入れる(こうするとクエン酸の働きで麺のグルテンが流出しにくくなりコシが増すそうです)とか、ゆでたら氷水で締め、水を完全に切ってザルに盛って出す、とか、新しいレシピで言えば、タレにツナ缶を汁ごと入れてつけて食べる、とか、タレにつけるのではなくオリーブオイルと塩だけで食べる、とか、カレー粉をまぶした納豆を麺にのせてタレを直接かけて「ぶっかけ」で食べる、とか——今や「そうめん」というワードで検索すれば、新しいメニューがごまんと出てきます。
こうした努力が奏功し、売り上げは2017年から上向きに転じ、特にコロナ禍の昨年は、巣ごもり需要で(そうめんって、自宅以外ではほとんど食べませんからね)、さらに上昇したそうです。
ところで、そうめんには、機械で生地を薄く延ばして裁断する機械麺と、よりをかけながら生地を延ばし、それをさらに細く延ばして熟成させる手延べ麺、の2種類があります。「手延べ麺」と言うと100%手作りみたいな感じですが、よりをかけながら生地を延ばす前段の工程は機械で行なっても、その後、手で延ばす作業が加わればOK。それでも、手延べ麺は熟成という工程を必ず経るため、機械麺に比べてコシが強く、違いはシロウトの我々でもすぐにわかる、と言います。そして、手で延ばすとすべての麺が均一の太さにはならないため、左のマンガに描いたとおり、機械麺は直径1.3mm以下でなければそうめんとは名乗れないのに対し、手延べ麺は1.3mm以上でもそうめんを名乗っていいことになっています。
そうめんの生産地は全国に15か所。どのエリアも、製麺所が組合を組織していて、組合に所属する製麺所はその地区で決められた均一な製法・品質のそうめんを作り、まとめて出荷しています。安定的生産のために組合が必要なのはよくわかりますが、組合に納めさえすればある程度の販売量が約束されるわけで、これまで各製麺所が個別の新商品開発や新メニューの開発を怠ってきたのも、また事実。それに気づいて、そうめん業界も新しい食べ方の啓蒙活動に乗り出したわけです。
組合として最も大きいのは、兵庫県の播州そうめんの協同組合。ここには430もの製麺所が所属し、揖保乃糸という共通した商品名のそうめんを作っています。揖保乃糸って、一企業の商品名ではなく、430の製麺会社の統一ブランドだったんですね。
皆さんがご存じの揖保乃糸は、スーパーでも売られている、赤い帯の1束123円前後の「上級」でしょうが(これが生産量全体の80%を占めています)、実際には下図のとおり、7種類のランクがあり、高い商品になるほど、原則、麺は細くなります。
最近人気の「生そうめん」。賞味期限は短いのですが、モチモチ感が違います。
揖保乃糸は、安いほうから帯の色が、明るい紫→赤→金→緑→濃い紫→黒→黒。一番高い「三神」で、1束270円前後です。