【連載】もしもAIがいてくれたら
第9回:熱海での土砂災害地に対してAIには何ができるのか
豪雨により、日本全土で深刻な被害が生じている。自然を相手に、AIはどこまで予測が可能なのか。そして、”万が一”の事態が起きてしまったとき、被害を最小に留めるためにAIに何ができるのか――AIの専門家で電気通信大学副学長の坂本真樹さんが解説する。
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第8回:八街のトラック交通事故、AIだったら防ぐことができたかもしれない
「災害予知」についてAIに期待できるとと難しいこと
7月3日午前に熱海市伊豆山地域で発生した大規模な土砂災害。土石流の映像は衝撃的でした。被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。
被害そのものについての報道に続いて、災害が予測・予防できなかったのかどうか、といった議論が始まっています。
連載第8回では、危険な道路をAIなら予測できるのではないかという話をしましたが、土石流についてはどうでしょう。様々な条件が重なって発生するため、特定の場所について、どのくらいの雨が、どのくらいの期間に降ったら危ないか、をピンポイントで予測するのは、きっと難しいだろうと思います。一般的に、このタイプの降雨では、土砂災害が発生する確率がどのくらいという予測に留まるのでしょう。
今回の災害では、「盛り土」の問題が指摘されていますが、衛星写真では土砂の詳細な性質まではわからないので、人がデータを収集して報告してくれないことには、AIは、どこでどのくらい土砂災害の確率が高いかを予測することは難しいですね。
では、AIには何もできないのかというとそんなことはないと思います。
今はたくさんのカメラが設置されるようになってきたので、山間部などにもカメラが十分設置されれば、土砂の異常をいち早く検知することはできるかもしれません。
「群知能」が人命救助に活かせるかもしれない
人間を超えたと言えるほど微細な異常まで検知できるAIの目に期待をつなぐ可能性もあるのですが、いまだ行方不明者の捜索が続いている、という状況があるので、災害が発生した後にAIは何かできないのだろうか、について考えてみたいと思います。
今回の土砂災害では、ドローンが災害状況把握に使われているのを見ました。ただ、ドローンでは、土砂に埋もれてしまって見えないところにいる人を見つけるのは困難です。そこで、人の捜索では、警察犬が使われていましたが、犬や人が入れるような安全な場所しか捜索できないので、危険な場所での捜索可能なロボットに期待が膨らみます。
日本は地震も多いので、いつ大地震が起きてもおかしくない東京に住んでいる人間としては、建物の倒壊などで、もしも動けなくなって、救助を待つことになるという事態は、身近に感じる恐怖です。以前から、大型予算などでは取り組まれている災害救助ロボットが、早く実用化されることを願っています。
災害時に活躍する救助ロボットの研究は、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに加速しました。地震で倒壊した建物の中で、生存者を見つけて助け出すロボットとして、ヘビ型のロボットなどがあります。細長いヘビのような胴体と動きで、すき間にも入っていくことができるものです。人がリモコンでコントロールするタイプのロボットでは、大規模な災害の時には手が回らないので、小さいアリのようなロボットで、群れとして最適活動ができるロボット群にも期待しています。もし人間の匂いや心拍を情報として動くことができれば、今回のような土砂災害でも人の捜索で活躍できるかもしれません。
群れでロボットが活躍できるようにする技術として、「群知能」というAIがあります。
アリ一匹一匹の能力は小さいのですが、大量に集まって情報交換し合うことで、群れとしてすごい能力を発揮する、という原理によるAIです。
どこはもう仲間が通ったかなど、アリが匂いを残すのと同じような方法で情報を共有できるようにすれば、他の仲間が通ったところではないところに向かうようにしたり、人の匂いや心拍がわかるセンサーを取り付ければ、他のアリが通っていない道を選んで最短ルートでたどることができるでしょう。
がれきなどに埋もれて動けなくなって救助を待つ間に、小さいアリロボットがやってきて、居場所を救援隊に伝えてくれたら、すごく心強いのではないかと思います。アリロボットそのものは救助活動できなくても、アリロボットが外との繋がりを作ってくれれば、救助への希望が持てますよね。たくさんのアリロボットたちが災害現場を走り回って、人が入れないようなところにどんどん潜入し、人命救助に貢献してくれるようになる日が早く来ますように。
次回は、新型コロナ問題についてAIで解決できそうなことについて、考えてみたいと思います。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。
※配信日は変更になる可能性があります。