テレワーク下は、上司と部下のコミュニケーションも希薄になり、信頼関係の構築もしづらい状況だ。日々、部下への声がけの仕方に頭を悩ませていないだろうか。そこで今回は、話し方のプロ、1分トークコンサルタントの沖本るり子氏の新刊「人を動かしたければ1分以内で伝えろ!」の中から、テレワーク下での部下への声がけ術を紹介する。
信頼関係を構築するために部下に声をかけよう
沖本氏は、上司は常日頃から部下に声をかけることを推奨している。その理由と声がけのメリットについて、次のように話す。
【取材協力】
1分トークコンサルタント 沖本るり子氏
聞き手が「内容をつかみやすい」「行動に移しやすい」伝え方を研究。現在、企業向けコンサルタントや研修講師を務め、台湾(労働部)の講演会でも登壇。人を動かす伝え方講座が人気である。TBS報道番組Nスタで“プレゼンの達人”と紹介された。著書に「期待以上に人を動かす伝え方」(かんき出版)、「人を動かしたければ1分以内で伝えろ!」(三笠書房)他がある。
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「部下に声をかけることを推奨する理由は、上司部下との信頼関係の構築のためです。
ただ、長時間同じ職場にいれば信頼関係が築けるかというと築けません。部下にとって声をかけられることで自分の存在価値を認められたと解釈できます。人は、嫌われることよりも、無視されることに恐れを感じる生き物です。声をかけられるということで自分の存在意義につながり、安心していられる場になります。その存在を認めてくれるのが、声をかけてくる相手です。
何度も気にかけて、声もかけられるから、部下は『自分は必要とされている人間なんだ』と認識し、次第に信じられて頼られていると感じ、逆に相手に対して信じて頼れる関係につながります。こうやって、信頼関係が構築されるのです。信頼につながると、ちょっとむずかしい要求にも応えてもらえるようになるし、この人のためならと、部下が自ら進んで、動きも期待以上となり、高い成果も出してくれるようになるのです。
部下をよく見守ることにもなり、相手の変化にも気付きやすく、失敗も予防しやすいため、損失も小さく済みます」
部下のやる気を引き出す上司からの声かけ術
実際に、上司が部下に声がけする際には、ポイントがある。気をつけないとかえって部下のやる気をそぐなど、逆効果になってしまうこともあるからだ。
ここでは声がけ術の中から5つをピックアップして紹介する。いずれもテレワークでも使える方法だ。
1.主語は「あなた」ではなく「私」に
「上司が部下に声をかけることは、部下のモチベーションのために重要なことですが、声をかけることでかえって部下のやる気をそいでしまったということはありませんか?
例えば、部下が普段と比べて元気がなさそうに見える場合、『元気がないなぁ。もっと元気だせ』と声をかけると、やる気があってもやる気が出なくなってしまいます。ここでよくないのは、決めつけ感です。世の中には、気分がそのまま表情に出る人もいれば、ポーカーフェイスの人もいます。周りの人と比べておとなしく見えるというだけで、元気がないと決めつけてはいけません。
決めつけ感を防ぐポイントは、主語を『あなた』ではなく、『私』に置くことです。『(あなたは)元気がないなぁ。もっと元気だせ』ではなく『(私には)元気がないように見えるけど、大丈夫?』にすれば、言葉のニュアンスが『決めつけ』から『確認』に変わります。あなたの気配りが、ストレートに部下へ伝わるのです」
2.「部下が何を頑張っているのか」を感じ取る
「忙しくて『あの仕事はできた?』と、リーダーから結果しか問われないと、部下は寂しい気持ちになります。部下は、自分の頑張りを見てもらえると、存在を認められている気になります。部下の頑張りを見て声を掛けるだけで、部下は与えられた仕事以上のことをこなしていくことになるのです。
オンラインでも部下の頑張りを認めましょう。オンラインでもオフラインでも、上司と部下のかかわりで一番大事なのはお互いの信頼です。テレワークでは離れていてお互いが見えないからこそ、部下が日々一人でも頑張って仕事をしているのだと、さらに信頼することが大事です。
オンライン会議で話をするとき、こんなふうに声がけをしてみましょう。『今日も、○○さんと顔を見て話ができてよかったよ』『今日も、○○さんから報告が聞けるので助かるよ』『○○さん、オンライン会議、一番にログインしてくれてありがとう。△△さん、今日は音声よく聞けるようになったよ、ありがとう』」
●「頑張り」と「結果」を取り上げるバランスについて
「部下の頑張りを取り上げることで、結果がおろそかになるのでは、と思うかもしれません。私の考えは、頑張りだけを取り上げるのでもなく、結果だけにこだわるのではなく、別々に分けて考えて両方を大事にしましょうということです。
仕事をしている限り、報酬という対価をもらうので、結果は出さなければだめです。しかし、結果が絶対出せるかというと出せないこともあります。結果だけを見ていると、ダメなとき、さらにやる気もなくし、またダメになり結果が出せないという負のループに陥ります。また、結果ばかりを見てしまうと、どんな手を使ってでも結果を出すことにこだわってしまいます。人の足を引っ張ってしまい、組織全体にプラスにならない上に、コンプライアンスにひっかったり、犯罪に手を染めて結果を出すことになったら本人だけではなく、上司も、会社もマイナスになります。
逆に、頑張りだけにこだわると、『頑張っていれば結果が出せなくてもいいや』とポーズだけになる人も出てきます。そのため、何を頑張っているかまでじっくり見てあげることで、本当に頑張っているところが見えてきやすくなります。
つまり、結果も見るし、特に何に頑張っているのかまで関心を持って見てあげることが、より頑張りやすくなるのです。どんなに頑張っても、結果が出せず、結果しか見られないのであれば、頑張らず結果が出せなかったほうが気楽だと気付き、頑張ることも放棄してしまいます。頑張りだけを見るのではなく、結果も大事だということがわかるように、両面を分けて伝えていくのが一番良いと思います」
3.「あなたならできるよ」と肯定的な言葉をかけ、一緒に解決していく
「あなたの部下が、悩んだ挙げ句、ようやくあなたのもとに相談に来たとします。そこであなたがもし『こんな問題も解決できないのか? できて当たり前のことだろう』などと感じ、そのまま声に出してしまうと、部下は自信を失い、次からは相談することもなくなり、さらに問題を抱え込むことになってしまいます。
ここで大事なのは、自分基準でものを考えないこと。リーダーができることを部下ができるとは限りません。むしろできないことのほうが多いでしょう。自分基準で考えると失敗します。
『どうしたの?』と問題を冷静に聞き、『大丈夫、○○さんならできるよ』と励ましながら、一緒に問題を解決していきましょう。肯定の元気づけはスムーズに伝わり、お互いの気持ちをプラスに変えていきます」
4.あいさつは自分からする
「あいさつは、自分から先に部下に行いましょう。リーダーには部下の育成という大切な役割があります。自ら先にあいさつをして、『あいさつのできる部下と職場を育てていく』という気持ちを持ち、リーダーがあいさつのお手本を見せましょう。
あいさつを浸透させる上で効果的なのは、一人ひとりの名前を呼ぶこと。大勢に向かって言うのではなく、『○○さん、おはよう』と言い、さらにできるリーダーは最後に一言添えます。『○○さん、おはよう! スーツ、新調したの?』『○○さん、おはよう! 風邪が流行っているけど、お子さん大丈夫?』。職場が明るくなりますし、部下の反応で、部下の状況を知る手段にもなります」
5.オンラインでは名前を呼ぶとコミュニケーションが深まる
「名前を呼ぶということは、テレワーク環境下では特に重要です。人との接触が減り、会話も激減しています。わざわざ雑談や打ち合わせをする時間でも設定しない限り、ばったり会って話すという機会はなく、よりコミュニケーションが希薄になっていきます。お互いの信頼のためにも、できるだけ濃いコミュニケーションをとっていきたいものです。かといって、無駄にわざわざオンライン会議の時間をとる必要はありません。
おすすめなのが、相手の名前を呼ぶこと。その都度、名前を呼び、話しかけることで、個人の存在価値を認めることができます。
一対一の話し合いの場合は、一つ一つの行動に相手の名前を呼びかけます。例えば『山田さん、こんにちは。山田さんは、連休どうすごした?』『今日は問題点について聞かせてください、山田さん』などです。これはテレワークにおけるリーダーとしての声がけの基本のキです」
普段から部下への声がけに戸惑いがちな上司は、テレワーク下ではさらに戸惑いが大きいことだろう。これらをヒントに、テレワークだからこそ効いてくる声がけ術で、部下のモチベーションアップや信頼関係構築を実現しよう。
【参考】
沖本るり子「人を動かしたければ1分以内で伝えろ!」(三笠書房)
取材・文/石原亜香利