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アーティスト、レーベル、権利者、ユーザー、全ての人にメリットがある音楽ストリーミングの収益分配方法とは?

2021.07.14

音楽業界向けのイベントで交わされたストリーミングの未来

コロナ禍を契機に、日本でもYOASOBIに代表される夜好性アーティストなど、これまであまり見られることがなかったSNSでのバイラルヒットを起点にした、数百万から数億再生を突破するような音楽ストリーミングサービスでのビッグヒットが生まれることも決して珍しくないようになってきました。それによって、かつての"ストリーミングでは稼げない"という以前の認識も今では改まりつつあります。

しかし、そのようにストリーミングを取り巻く環境が変化を見せる中でも、日本では現在もストリーミングの収益支払いモデルに関する議論はあまり進んでいません。

現行のストリーミングサービスでは、ファンベースの大きいアーティストがどうしても"勝ち組"化してしまいがちな収益支払いモデルであるプロラタモデル(比例按分方式)が主流になっています。しかし、海外ではそういった支払いモデルに対する議論も盛んに行われており、いかにしてアーティストがフェアに収益を得ることができるかについての答え探しが日々続けられています。

6月30日(水)、音楽業界専門のデジタルマーケティングやグローバル戦略などを支援するコンサルティングサービス「Music Ally Japan」が月イチで開催している、音楽業界の課題を議論するトークイベント「Music Ally Japanチャンネル」が行われました。今回は「音楽ストリーミングと収益分配~アーティスト、レーベル、権利者、ユーザーに最適な方法とは?」をテーマに、モデレーターであるデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミさんと、ゲストであるアーティストのタカハシヒョウリさんが登壇。タカハシさんは以前、ユーザー主体の新決済システム「UCPS(User-Centric Payment System)」について、m-floの☆Taku Takahashiさん現在UCPSによる収益支払いモデルを提唱するDeezer社のChief Content and Strategy Officerを務めるAlexander Holland氏と対談を行っています。そのタカハシさんとコウガミさんが、現状の日本におけるストリーミングの収益支払いモデルに対する認識について、意見を交わしました。

トークセッションでは、UCPSに代表されるファンがアーティストを収益面で支える"Fan-Powered"システムに対する現時点での日本人アーティストによる認識や、どのようにそれとアーティストが向き合うかについて議論。ほか、プロラタモデル、UCPSに続く第三の収益支払いモデルとして現在イギリス議会で提唱されている「アーティストグロース(初期ステージにある新人アーティストのストリーム単価の価値が最も高く、達成したストリーム数が多くなればなるほど、そのアーティストのストリーム単価が下がっていく支払いモデル)の可能性などについても語られました。

「選択肢が多い」ということは文化が成熟している証

ジェイ・コウガミ(以下、ジェイ):UCPSについてDeezer社からお話を聞いた際の率直な感想は?

タカハシヒョウリ(以下、ヒョウリ):自分も現場レベルで活動しているミュージシャンですが、依頼があるまでUCPSのことを知らなかったんですね。UCPSのようなサブスクの収益システムの新しい選択肢が出てきているという情報がミュージシャン的にはまだ全然認知されていないし、話題にもなっていないことに驚きがありました。

やっぱりミュージシャンがマーケティングや支払いシステムの話をとやかく積極的にするのってダサいよねっていう空気は、どこかに未だに残っている印象があるんですよね。

でもUCPSについての対談の中でm-floの☆Taku Takahashiさんが「かっこいいかっこ悪いの話じゃなくて、好きな音楽を続けるために避けられない道になっている」と言われているように、クリエイティブだけに集中したい感覚は僕もすごくわかるんですが、それだけで音楽を続けて食べていけるミュージシャンはごく一部になります。ロマンのない言い方に聞こえるかもしれないけど、あえて言うと、それが事実なんです。でも、そういう話題を取り上げた記事も日本にはあまりないし、ないのであれば自分が現場レベルの目線で書いてみようと思いました。

ジェイ:UCPSだと例えば一部のファンのみが支えるマイナーなジャンルでもストリーミングで収益が得られるとか、大規模なファンベースは持っていないけど熱量があるファンがいるインディーズバンドに対してフェアに収益が分配されることが、ヒョウリさんの記事をきっかけに日本のアーティストさんにも身に染みてわかっていただけたんじゃないでしょうか?

ヒョウリ:僕が今回のUCPSの記事を書くときに一番意識したのは、距離のあるニュースリリースではなく、実用的なものにしたいということですね。それを見たらミュージシャンや音楽関係者の方も理解できて「なるほど、じゃあ自分はどうしよう」と考えられるものにしたかったので、Deezer社への質問も「自分がUCPSのことを全く知らないミュージシャンだったら何を聞きたいか?」という視点を大事にして考えました。

ジェイ:UCPSに関する取材を経てご自身の視野が変わった点は?

タカハシ:新しい選択肢が増え続けている中、クリエイター活動に関わる収益を受け取る選択肢をどれだけ自分が知っているかどうかが、これからは音楽に限らずクリエイターとして活動していく上ですごく重要なんだと実感しました。「その選択肢を知っている」ということ自体がメリットになるので、それを伝えるメディア側の働きかけも大事だとも思います。

それと音楽もやはり産業だな、という部分で、 UCPSやSoundCloudのFan-Poweredのような"ファンが直接アーティストを応援できるような形式の課金形態"って、自分が思っているよりも普及に向けての業界的なハードルが高いということもわかりましたね。

タカハシヒョウリ

ジェイ:ミュージシャンが活動を続けていく上で"選択肢が増える"ということはすごく大事な要素になり得ますか?

ヒョウリ:なり得ると思います。僕は、「選択肢が多い」ということは文化が成熟している証であり、「豊かさ」だと思っています。でも、誰もがそれを享受できて初めて成熟した文化だと思うので、その数ある選択肢の差についても、もっと広く伝われば、何かを選択する手助けになると思います。

ジェイ:今の日本の音楽シーンでアーティストが活動する上での選択肢って、実際にはどうなっているのでしょうか?

ヒョウリ:自分の場合は、2010年にソニーミュージックアーティスツからデビューしたんですけど、ライブハウスでの活動から、全国ツアーや海外ツアー、夏と冬は大型フェスに出演の機会があって、1年に1枚アルバムを出して、お店に並んで、MVを撮って…というような、昔から続いているいわゆるバンド活動のルーティーンで事務所やレーベルにサポートしてもらったと思っています。

でも今は、それが「ルーティーンだった」時代とは違いますよね。ライブの意味合いも変わってきているし、音楽を発表するフォーマットも多様化してきている。

その発表するフォーマットひとつ取っても、それぞれの選択肢に親和性が高い音楽があると思っています。

例えば、いま注目されているNFTの場合、デジタルやバーチャルと結びつきが高い音楽性の方が親和性が高い。これまでは無かった選択肢が、音楽性と結びついて跳ねるという例です。本質はコンテンツ自体の魅力にあるわけですが、その自分のコンテンツと発表フォーマットを結び付ける能力も、ミュージシャンにとっては今後無視できない要素になってくると思っています。

ジェイ:選択肢が増えたとしても、それがちゃんとアーティストに伝わっていなければ、増やしたところでも...ということはありますよね?

ヒョウリ:選択肢に関する議論が活発になれば、もっと多くのミュージシャンの耳に入ると思いますが、今はまだ大部分の人にとってはそういう議論が存在すること自体に意識が行かない段階ですね。なので、Music Allyさんのように、キュレーションする役割も重要になっていくんだと思います。音楽と、最新のフォーマットを結びつけるマネージメント的な業種も必要になるかもしれません。

ジェイ:選択肢が増えるということはその分、アーティストがクリエイティブな部分以外に、例えばマーケティングをするとか、見なければいけない領域も必然的にだんだんと増えていきますよね?

ヒョウリ:「どう活動を続けていくか?」という意味で求められているものは、今はどんどん多様化してきているんだと思います。メジャーレーベルと契約したからといって、レーベルがプロモーションに大金をかけてくれるわけではないし、それよりもSNSで自分のキャラクターを発信する能力が高い方が音楽を聴いてもらえる可能性が増える、ということもありますよね。

ただ勘違いしないで欲しいのは、自分のやりたい音楽をやって、若い頃にそれが大ヒットして、死ぬまでずっと大物アーティストでいられたら、それは素晴らしいことなんです。ただやっぱり、そうならなかったとしても魅力的な音楽やミュージシャンはいるわけだし、もっと言えばそうならないのが大部分です。じゃあ、その音楽を発信することを「売れなかったね」で手放してしまうのか。もっと別の目線で、自由に発信していく可能性も見つけられるんじゃないかと。

アーティストはファンにどんなリターンができるのか?

ジェイ:UCPSに関する☆Takuさんとの対談の中では、ファンとどうやって友好関係を構築していくかという話をされていたことが印象的でした。UCPSのようなモデルになるとファンの力がアーティストにすごく影響を与えることになりますが、その関係設計についてはどのようにお考えでしょうか?

ヒョウリ:ファンが直接クリエイターを応援できて、それがアーティストをより高めていく"Fan-Powered"と呼ばれるようなモデルがあらゆるジャンルで今広がっていますよね。その対談では、そういったファンの支援に対して「アーティストがどんなリターンを用意できるのかがすごく重要になる時代が来る」という☆Takuさんの言葉が一番心に残りました。

ファンが直接アーティストを応援してくれることで、アーティストが活動を継続できる。大部分のアーティストは自分たちが活動を継続できるなら、うれしいよね、という認識で止まってしまっているんです。

以前は、みんなが同じ金額を払って同じものを買って、それが集まって数になるっていう時代でした。その感覚って、実はまだ僕自身も全然抜けてない感覚なんですよね。

でも、Fan-Poweredに本気で向き合うなら、1万円の支援をしてくれたファンと、1000円の支援をしてくれたファン。その差を何で示すべきか、ということを本気で考えていないといけない。Fan-Poweredが主流になっていく上では、アーティストがファンの支援に対して、どういうインセンティブを提供できるのかを示す力が重要になっていくという☆Takuさんの意見は、なるほどなー!と唸りました。

ジェイ:音楽業界でUCPSを導入する上で課題になっているのはどのような部分が論点なのでしょうか?

ヒョウリ:UCPSはファンが直接アーティストを支援できるだけでなく、ある程度限定的なジャンルであっても熱心なファンがそこにいれば、ミュージシャンがより大きなリターンを得ることができるので、ひとつの理想的なシステムではあると感じました。

ただ、最大の問題はメジャーレーベルのようにカタログやアーティストの数を持っている場合にはメリットがあまりない。要するに、ちょっと言い方は悪いですが「勝ち組文化」に対してはそこまでメリットがあるものではないんですよ。

今は、怪物級のファンベースを持っているミュージシャンと、そうではないミュージシャンとの間ではポッカリ穴が空いているので、その中間で活動している魅力的なミュージシャンも音楽で生計を立てながら活動を継続していくことが難しいという段階です。その意味ではUCPSは、そういう人たちにとってはプラスになり得るかもしれない。しかし、業界的なメリットがないと、システムとして普及していく上での協力が得られないという問題があります。やっぱりレーベルというのは企業なので、根底には数字があって、どうしても利益を追求することが必要になりますから。そのハードルをどうクリアするのか、既存の業界とはまったく別の物として再構築するのか、その辺が今後の課題だろうと。

ジェイ:レーベルとアーティストの利害関係や、企業の稼ぎ方、音楽活動で何を追求するかは、今後はストリーミング分配の議論の的になってきそうですね。

ジェイ・コウガミ

ヒョウリ:そこのハードルを縮めるような要素は、まだそんなに積極的に出てきてないかなという気がしています。ただ、日本のインディー音楽業界団体、IMCJ (Independent Music Coalition Japan)の解説コラムに出てきた「アーティストグロース」は、すごく理にかなっているモデルだと思います。

「アーティストグロース」は、アーティストの規模感に対して反比例的に収益を変動させるシステムです。メジャーレーベルであっても新人アーティストを抱えているわけで、このモデルだとそういった新人に対するリターンも大きくなります。だから、自社の売れているアーティストの収益を新人に回しているというふうにも捉えられるので、業界との融和性という意味では単純に可能性を感じました。文化の循環する土壌という観点からも、健全なのかなと思いましたね。

ジェイ:UCPSも理想的なモデルではありますが、例えばSNSにすごく強いアーティストに対しての比重が必然的に多くなったりするため、どうしても収益分配が均等にならないという問題もありますよね。そういう意味では全ての解決とは言えない部分がありますね。

ヒョウリ:立場によって求める物は違いますから、完全にフェアな方法というのは無いでしょうね。でもUCPSを選ぶメリットがあるアーティストは確かにいて、そういう人たちの選択肢として存在するというのは意味あることだと思います。ただ、先ほどもいったとおり、一般的な選択肢になるかには色々なハードルがあります。

ジェイ:アーティストも色々な収益分配方法の中から自分にあったものを選べた方がよいのでしょうか?

ヒョウリ:選択肢があることを知っていて選ばないのと、知らなくて選べないのはまた全然違う話です。だから、やっぱり選択肢があるということと、その選択肢を知ることができるということは、すごく大事だと思います。

プロラタモデル、UCPS、アーティストグロースそれぞれの可能性

ジェイ:「プロラタモデル、UCPS、アーティストグロースの3つの収益支払いモデルが共存できるのか?」という視聴者からの質問がありますが、それについてはどうお考えでしょうか?

ヒョウリ:う~ん、たとえばニコニコ動画、YouTube、TikTok、Instagram、ライブチャットといった動画SNSが多数ある中で、プラットフォームを利用する側もそれぞれの場所で適した活動をしているので、3つの支払いモデルも同じように共存できるんじゃないかと思います。

それと、ゲーム実況の世界ではあるプラットフォームだけで配信するというスポンサー契約がありますよね。音楽の世界も今後はある特定の収益支払いモデルを提示するプラットフォームとアーティストが専属契約するようなことも起こるでしょうね。

ジェイ:「海外ではストリーミングの支払いモデルに関する議論が頻繁に行われている一方で、日本ではあまり行われていないことは問題だと思います」という質問もあります。

ヒョウリ:これは海外の事情に詳しいジェイさんからぜひ、お聞きしてみたいですね。

ジェイ:例えばイギリスにはインディペンデントレーベルのビジネスをサポートするNGO「AIM」などが多数あって、団体や加盟するレーベルやアーティストたちが常にストリーミングの収益支払いがフェアかそうでないかを議論したり、SNSやメディアを通じて音楽業界に問題提起したりしています。

これはアーティストだけでなく、レーベルやアーティストマネジメントに関わるスタッフにも関係する話で、あるアーティストのストリーミングでの一人勝ちが続くことで、ほかのアーティストが活躍できなくなっていくとインディペンデントレーベルの経営やスタッフの収入にも関わってきます。そうなると経済的にも文化的にも業界が縮小せざるを得なくなってしまうんです。

それを避けるためにも、インディペンデントアーティストの活用の幅を広げて、そちら側にも人材を集め、労働力もどんどん流動的にしていこうという目的で、欧米にはインディペンデントシーンを支援する団体がいくつもあります。そういった背景があることでストリーミングの支払いモデルに関する議論が活発化している部分があります。

ヒョウリ:要は、”労働”の問題なんですね。日本だと”クリエイティブ活動"というと、”労働”とは別物として捉えられがちな気がします。でもそこに関わって生きている人がいる以上、労働なんですよね。そういう問題意識や、組合の強さの差が現れているんですね。

ただ、最近だと日本でも映画業界が就労時間に厳しくなってきていたりもしますよね。今後はもっとこういった議論が進む必要があるんですね。

ジェイ:例えば日本でこのような収益分配の選択肢があることを知ってもらうにはいろいろなメディアを活用する以外に、何かアーティストと一緒にできることはあるでしょうか?

ヒョウリ:ちょっと前の部分とかぶるんですけど、YouTubeからYouTuberが、ニコ動からボカロPが生まれてきたように、各収益分配システムからそのフォーマットに適したスターが生まれてくることが早いと思います。そうなれば、それに対するフォロワーは絶対出てくるはずです。UCPSだったら、それを仕掛けている側のDeezerがまずそういったことに取り組む必要があるんだろうと思います。

今の時代は、ある勝ち組文化にみんなが「乗っかっておいて良かった」と思いたいという、ある種のリターンを求める形でコンテンツが消費されている部分があるんだと思います。でも、そこの基準に当てはまらないものでも「すごく面白いよ」と言える人が増えないと、世の中の価値観がどんどん縮小されて一元化されてつまらなくなっていくでしょう。

だから、ストリーミングの収益支払いモデルに関しても、現段階ではまだ現行のプロラタモデルが"勝ち組"ですけど、そうじゃない価値観もあるということは、メディアが声に出して伝えていくべきかなと思いますね。

アーティスト、ファン、メディアでさらに豊かな音楽文化を

日本でもストリーミングからビッグヒットが生まれる時代が到来するとともに、同時にファンがアーティストを支える"Fan-Powered"なプラットフォームやシステムも徐々に浸透し始めています。それに伴い、アーティストも自分の活動の継続に関わる収益を多様な方法で得ることが可能になりつつあります。

そのことを踏まえて考えると、ヒョウリさんが語るようにアーティストも「現在、どのような方法でアーティストが収益を得ることができるのか?」について、興味を持つことが今後の活動をより持続可能なものにしていく第一歩になり得るように感じました。

また、ファンとしても、Fan-Poweredのインセンティブを模索するアーティストにどんなものを求めているかを伝え、アーティストがその声を拾って形にすることを支えることも、新たな両者の友好関係を生むきっかけになるようにも思いました。

そういった新たなアーティストとファンの関係性が生まれる中でこそ、これまで日本ではあまり行われてこなかったストリーミングの収益支払いモデルに関する議論も進展していくのではないでしょうか?

関連サイト

Music Ally Japan
音楽ストリーミングサービスの原盤使用料の収益分配計算の問題点を解説

構成/Jun Fukunaga
編集/福アニー

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