■連載/ヒット商品開発秘話
シュークリームはクリームに注目してしまいがちだが、現在、独特の食感を持つシュー生地を使ったものが人気を集めている。ローソンストア100の『もこもっ』のことである。
もこもこもっちりを略したという『もこもっ』は2021年1月に発売。薄皮でもっちりとした食感のシュー生地が特徴で、今までにミルククリーム、チョコクリームを発売し、現在はレアチーズ&清見オレンジを発売している。これまでに50万5000個以上が売れているという。
選んでもらうには差別化が不可欠
開発は2020年11月にスタート。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い在宅ワークが進んだことなどから家で過ごす時間が増えたことを受け、休憩時に簡単・手軽に食べられるスイーツをつくることにしたことがきっかけだ。
「新しいシュークリームをつくる構想は以前からあり、今までにない新しい食感のものができたら、と考えていました」
このように話すのは、『もこもっ』の開発を担当した商品本部商品開発グループ生鮮・デイリー部デイリー担当 マーチャンダイザーの浅野智宏氏。在宅時間が増えたことにより生まれた、家で過ごす時間を充実させたいというニーズに応えるべく開発に取り掛かった。
ローソンストア100
商品本部商品開発グループ
生鮮・デイリー部デイリー担当
マーチャンダイザー
浅野智宏氏
しかし、なぜ新しい食感のシュークリームだったのであろうか? それは、すでにコンビニやスーパーで売られているシュークリームと競合しないようにするためであった。シュー生地の食感は、大きく分けて柔らかめか硬め。今までにない食感のシュー生地を用いれば、差別化が図れる。シュークリームはスイーツ市場で一番シェアが高いことから、選んでもらうには差別化は重要な要素だった。
新しい食感としてもっちりしたものをつくることにしたのは、多くの人に好まれているため。これは調査からも明らかになっていることで、とくに女性にもちもち、もっちりした食感を好む傾向が見られた。
1か月以上、毎日のように試作と試食を繰り返す
シュー生地には、もっちりした食感が出しやすい材料を使用。その中には、普通のシュー生地をつくるときにはほとんど使われないものも少し使われているという。
薄いシュー生地でもっちりした食感を実現するには、材料だけではなく、材料の配合割合、焼く時間と温度もポイントになった。「試行錯誤を重ねて、もっちりしながらも歯切れのいいシュー生地の実現を目指しました」と浅野氏は話す。
中のクリームはまず、ミルククリームに決めた。シンプルな味わいでシュークリームではなじみ深いこと、女性に好まれる傾向があることなどが理由になった。
開発はつくっては試食と評価の繰り返し。毎日のように試作品をつくって食べることを1か月以上続けた。クリームはいいものができたけど生地を改良したい、逆に生地はいいけどクリームが物足りないなど、生地とクリームの相性を合わせることは簡単ではなかった。
シュー生地については厚すぎる、ふくらみが足りない、コゲのような臭いが気になるなどの問題を解決しなければならなかった。「もっちり食感のシュークリームは世の中にほとんど出回っていないので参考にできるものがなく、1から組み立てていかなければなりませんでした」と振り返る浅野氏。ミルククリームは牛乳、卵、練乳などといった材料の配合を変え何パターンも検証。シュー生地と一緒に食べたときに、味わいがしっかり感じられるものを目指した。
試食と評価は開発に直接関わっていない社員にもモニターとして協力してもらった。社員モニターによる試食は、通常は3回程度だが、『もこもっ』の開発では10回ほど実施。多くの人からシュー生地のもっちり感、クリームとシュー生地の相性などについて意見をもらうため、普段より多く行なった。
試食からも、もっちりとした食感が好まれていることがうかがい知れた。ただ、もっちり感の好みは人それぞれ。「9割以上の人が納得してもらえるものができるまで、試作を繰り返しました」と浅野氏は話す。
発売前に全店舗にサンプルを配布
『もこもっ』は発売開始から10日間で6万個を売り上げた。店舗でも期待の新商品として販売に力を入れたが、これは発売の1週間ほど前に全店舗にサンプルを配布したことが大きく影響している。
2021年1月に発売されたミルククリーム(現在は終売)。発売開始から10日間で6万個を売り上げた
店舗へのサンプル配布はすべての新商品で行なうわけではないが、『もこもっ』は力を入れて売っていきたい商品だったことから実施。店舗では美味しさが実感でき売れると自信が持てたことから、大量に仕入れることにした。
発売後はSNSを活用して情報を発信。Instagramでは新フレーバー発売に合わせて新商品の画像を投稿、Twitterでは新フレーバー発売に関する告知のほか、メディアで取り上げられた『もこもっ』の記事を積極的にシェアし、情報の拡散につとめた。
中のクリーム変更とともにシュー生地を微調整
『もこもっ』のシリーズ化は、ミルククリーム開発の段階から念頭にあったという。ミルククリーム発売後、新フレーバーづくりに着手する。
第2弾は2021年3月に発売されたチョコクリーム。チョコクリームはなめらかでビターな味わいにし、何度でも食べたくなるよう甘さ控えめに仕上げた。シュークリームでチョコクリームはあまり使われることがないが、チョコクリームにした理由は、「お客様が手に取りやすい味を考えたとき、一番わかりやすいのがチョコレートでした」と浅野氏。チョコレート感を出すためにシュー生地もチョコレート色にした。
開発では甘いチョコクリームもつくったが、シュー生地が薄いので甘いとチョコレートの味が勝ってしまう。生地も楽しんでもらうにはビターで甘さ控えめな方がマッチした。
シュー生地には香料などをプラスしチョコレート色にしたことから、材料の配合バランスが変化。これにより生地のふくらみが足りなくなったり、厚みが維持できなくなったりしたことから、シュー生地は材料の配合を見直すことになった。「こうなることは事前にある程度予想できてはいましたが、ミルククリームのシュー生地と同じようなものをつくるのには少し時間がかかりました」と浅野氏は振り返る。
現在販売中のレアチーズ&清見オレンジは第3弾で、2021年5月に発売された。5月は気温が上がってくる頃なので甘いものよりさっぱりしたものとしてレアチーズ、レアチーズと相性がいい柑橘類の中から国産の清見オレンジを選び、組み合わせた。
レアチーズ&清見オレンジはレアチーズクリームと清見オレンジゼリーを混ぜている。「最初は別々に充填する方法にも試しましたが、これだと食べた場所によってはどちらか一方の味しか感じられないことがあります。それなら2つを混ぜて、どこから食べても味わいが同じものになるようにしました」と浅野氏。シュー生地の見た目はミルククリームのそれに近いが、中のクリームとの相性を合わせるため、ミルククリームのシュー生地を微調整した。
取材からわかった『もこもっ』のヒット要因3
1.新食感での差別化
シュークリームの食感といえば、ほとんどが柔らかいか硬いかのどちらか。それ以外の食感はないに等しかったが、新しい食感を採用することで差別化が図れた。
2.商品を具体的にイメージしやすい商品名
商品名は短いが、もこもことした姿形ともっちり食感がイメージしやすい。とくに、多くの日本人が好きなもっちり食感がイメージしやすかったので、手が伸びやすかった。
3.飽きさせない
期間を決めて1フレーバーずつ発売しており、次のフレーバーを待つ楽しみがある。そのため、簡単に飽きられない。
『もこもっ』はこれまで、1フレーバーを決められた期間販売し、時期が来たら新たなフレーバーにスイッチしてきたが、過去のフレーバーも含めた複数フレーバーの同時販売が今後の課題になっている。これに関しては要望する声も挙がっているというが、実現するには工場の生産ラインなどの見直しが欠かせない。新フレーバーを楽しみに待ちながら、複数フレーバーの同時販売も期待したい。
ローソンストア100ウェブサイト
https://store100.lawson.co.jp/
文/大沢裕司