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【開発秘話】累計38万足以上売れているワークマン「アスレシューズ ハイバウンス」シリーズ

2021.06.27

■連載/ヒット商品開発秘話

 いま、マラソンやジョギングで履くシューズを選ぶとしたら、厚底シューズを選ぶ人が多いのではないだろうか? 有名スポーツブランドがこぞって発売しているが、スポーツのイメージがあまりないところから発売されたある厚底シューズが現在売れている。

 その厚底シューズとは『アスレシューズ ハイバウンス』シリーズ。作業服などでおなじみのワークマンのオリジナル商品だ。カジュアル路線が定着した感があるワークマンとはいえ、さすがに厚底シューズには驚いた人も多いことだろう。

 同社は2020年4月に『アスレシューズ ハイバウンス』、2021年2月に『アスレシューズ ハイバウンス ドリブンソール』を発売。『アスレシューズ ハイバウンス』は2020年度に29万足ほど販売し、この4月からスタートした2021年度は5月下旬時点で9万足強が売れている。

『アスレシューズ ハイバウンス』。発売時は写真のブラック(左)、ライトグレー(右)のみだったが、現在はレッドダリアとホリゾンブルーが追加され計4色で展開している

楽な履き心地にするため厚底を活用

『アスレシューズ ハイバウンス』は発売の9か月ほど前に企画。一般ユーザー向けの商品が増えてきたことを受け、スポーツやウォーキング向けの靴をつくることにした。

 企画に当たり注目したのが、トレンドになっていた厚底。厚底をスポーツシューズではなく、普段履きの靴に生かすことにした。同社で『アスレシューズ ハイバウンス』を発案した商品部 フットギアマネジャーの青木正志氏は次のように話す。

「スポーツブランドから発売されている厚底シューズは速く走ることをコンセプトにして開発されていると思いますが、同じコンセプトは採用しませんでした。現場作業で1日中歩き回るような人は足が疲れていますので、そういう人たちが履いてもストレスを感じない普段履き用の靴をつくるのに厚底を活用することにしました」

専門家の力を借り独自の高反発素材を開発

『アスレシューズ ハイバウンス』は楽な履き心地を実現するために、独自開発の高反発ソール素材『Bounce TECH(バウンステック)』をミッドソール全面に採用している。『バウンステック』の開発は海外の専門家の力を借りて実施。取引先の中国企業を通じてその専門家に要望を伝えて材料であるEVA(エチレン酢酸ビニル)の配合を検討してもらい、専門家と取引先企業の間でサンプルづくりに関するやり取りをしてもらった。サンプルが完成したら日本で検証し、結果を取引先にフィードバック。そのフィードバックを元に、専門家が材料の配合や硬度などを見直すことを繰り返す、といった具合で開発は進んだ。

 サンプルを履いて行なうライフテストで履きつぶしたのは6足ほど。少ないように思えるがやり直しを相当繰り返しており、ライフテスト前に要望が反映されていないことも珍しくなかったという。

 また、滑らないようにするため、靴底全面にラバーを貼った。これはワークマンの靴でよく求められる機能が滑らないことに由来する。作業靴や厨房靴をつくってきた経験を生かし、水をきちんと切ると同時にグリップさせたり、切った水をうまく逃したりできるパターンを設計した。

全面ラバーで滑りにくい『アスレシューズ ハイバウンス』の靴底

 当初は多くの新店舗がオープンする3月に全店舗で発売する予定だった。新店舗の目玉商品として考えていたが、開発に時間がかかったこと、生産準備に時間がかかること、中国で生産したものを送り届けてもらうことから予定がずれ込んだ。ひとまず3月オープンの店舗で先行販売し、4月から全店舗で販売することにした。

1足1900円で販売できた理由は何か?

 ワークマンでは商品をつくるに当たり、先に売価を決めてから開発する。青木氏は「商品の価格設定が全般的にすごく低いんですよ」と笑いながら話すが、安くするために不要なものや機能を削り、それでも無理な場合は開発途中でも諦めることは珍しくないそうだ。

『アスレシューズ ハイバウンス』は1足1900円(税込)と低価格。この価格で販売できた理由の1つが、縫製工程を徹底的に削減、簡略化し製造コストを削減したことである。縫製したところは1か所だけな上に、編み機で自動的に編み込むので人件費もかかっていない。アッパーも普通なら、ベロをはじめとした複数のパーツを縫い合わせるところ、伸縮性のあるニット素材1枚でできている。そのため紐なしでスリッポンとしても履けるほどだ。このほか、かかとの補強などに使う副資材も、機能が満たせる最低限の価格のものを使用するようにすることで製造コストを抑えている。

ランナーに向けた走りに適したモデルの開発

 発売後、芸能人によるレビュー動画がYouTubeにアップされたことなどによりクチコミが拡散。店舗では入荷するそばから売れていき、売り切れるとなかなか入荷しない事態が続いた。多くの人に注目されたこともあり中にはランニングで履く人もいたが、これは同社にとって想定外のこと。速く走るために開発されたものではないので、フィット感が弱い、履き心地はいいが走るにはソールが柔らか過ぎて戻りがよくない、といった不満がランナーから聞かれた。

 そこで2020年5月頃、ランニングで履きたい人向けの『アスレシューズ ハイバウンス ドリブンソール』が企画される。最大のウリは、履くだけで前に進むこと。ソールを見直し、つま先をそり上げたことにより、かかとで着地しつま先で蹴って走る際の体重移動をスムーズにし、高い推進力を生むことをできるようにした。

厚底に加えつま先が上がっているのが特徴的な『アスレシューズ ハイバウンス ドリブンソール』

 ソールは全体的に、『アスレシューズ ハイバウンス』より少し固くし、走っているときの安定性強化と横のねじれ防止を実現。『バウンステック』も『アスレシューズ ハイバウンス』と異なり、かかとと前部の2か所への分散配置とし、硬度も配置場所によって変更した。どちらも、『アスレシューズ ハイバウンス』より固めだが、かかとには衝撃吸収性の高い柔らかめのもの、前部には反発力を生むために硬めのものを採用している。『バウンステック』の硬度はなかなか決まらず、試作をつくっては社内・社外を問わず、主にフルマラソンを経験したことがある人などに履いて走ってもらい、意見を聞いて改良を繰り返した。

『アスレシューズ ハイバウンス ドリブンソール』のミッドソール。かかと(赤)と前方(青)の2か所に、硬度の異なる『バスンステック』を配置している

 足先が当たって痛くならないようにすることなどを考慮すると形がなかなか決まらず、試作を繰り返した。商品部 フットギアバイヤーの堀篭耕司氏は「いろんな要素が集まっているので、最適なバランスを実現するためにサンプルを何十個もつくって検証しました」と振り返る。

ワークマン
商品部 フットギアマネジャー 青木正志氏(右)
商品部 フットギアバイヤー 堀篭耕司氏(左)

 コストがかかること、靴が重くなり走り続けると足に負担がかかることから、ラバーは靴底全面に貼っていない。「靴底でよくすり減るところや、摩耗に強くあってほしいところにだけラバーを使い、そのほかのところはEVAを使っています」と堀篭氏。こうした工夫などにより、これも1足1900円(税込)と低価格だ。

『アスレシューズ ハイバウンス ドリブンソール』の靴底。『アスレシューズ ハイバウンス』と異なりラバーを限定的に使用しており(黒色の箇所)、軽量化している

 現在の売れ行きは週平均で4000足強。同社としては、まだまだ伸びると見込んでいる。

取材からわかった『アスレシューズ ハイバウンス』シリーズのヒット要因3

1.トレンドやユーザーの声に即座に反応

 ランニングシューズのトレンドであった厚底を、普段履き用の靴に採用。ランニングにも使われ不満の声が聞こえると対応モデルを開発した。トレンドやユーザーの声に即座に反応し、商機を逃さなかった。

2.コストパフォーマンスが高い

 これまで発売した2種類とも1足1900円(税込)。コストをかけて高反発ソール素材『バウンステック』を独自開発しつつも圧倒的な低価格を実現し、コストパフォーマンスが高いものに仕上がった。

3.手を出しやすい

 ウォーキングやジョギングを始めたいと思っても、長続きするかどうかわからないので道具類にお金をかけたくないと思う人もいるだろう。そういう人からすると、1足1900円は手を出しやすかった。

 最近ではあまり言わなくなったが、ワークマンでは以前、よく「値札を見なくても買えるぐらいの安心感」と言っていた。いい商品が値段を気にすることなく買えるほど安いことを表したものだが、『アスレシューズ ハイバウンス』シリーズはまさに、このひと言を象徴した商品といってもいいものである。

製品情報
https://workman.jp/shop/g/g2300053552159/
https://workman.jp/shop/g/g2300053549050/

文/大沢裕司

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