雑談が苦手で職場で浮いてしまったらどうする?産業医が教えてくれる雑談の苦手を解消するコツ
仕事をしていて、ちょっとした雑談がコミュニケーションを良好にすることは誰もが理解していること。でも、その「ちょっとした雑談」がとても難しい。
いつも「なんでこんなことを言ってしまったのだろう」と落ち込むことばかりです。
「人と話すのが疲れる」人はどうしたら良いのでしょう。
ストレスを感じない雑談のスキルアップは可能なのでしょうか?そんな疑問に答えてくれるのが「ストレス0(ゼロ)の雑談」(SBソフトバンククリエイティブ刊、定価1540円)の著者井上智介先生です。
井上先生は産業医として毎月約40社を回っているベテランです。私たちビジネスマンの心と体を知り尽くしている先生だからこそ、苦手意識に寄り添ってくれました。
雑談に関する認識の違い
―井上先生、ビジネスシーンの雑談について、私たちはどんな間違いを犯していますか?
井上 まず、雑談というものを、芸人さんのような『面白い話をするトーク』と誤解している人が多いですね。あれは話芸という芸術であり、簡単に素人がマネできるようなものではありません。
さらに雑談を『他愛のない会話』と思い込んでいる人もいます。ただ、これはそれだけ雑談を簡単に考えている節があり、結局上手くできなかった時に落ち込むというループになってしまいます。すると余計に『人と話をするのが疲れる』と感じてしまいますよね。
努力して得意にしなくて良い
井上 そして一番の問題点は、雑談に苦手意識をもつ人の多くが、努力をすることで『得意』になろうとしていることです。雑談が苦手なのは決して欠点でもないし、無理して得意になろうとしなくても構いません。
得意と感じるまではかなり時間のかかる道のりがありますから、まずは人と話すのは『そこまで苦手じゃない』・『ストレスを感じることはないかな』くらいまでに変わっていければ十分ではないでしょうか。
―先生の新刊「ストレス0(ゼロ)の雑談」はこれまでの「雑談」に関する本に比べると、読む人の心に効く内容となっています。特に雑談が「技術ではなく、人の心が土台になっている」という部分にハッとさせられました。テクニックではないのですね?
井上 実は、雑談が苦手と考えている人でも、友達や後輩、家族など自分が安心できる相手とは、何も問題なく雑談をこなすことが出来ています。それよりも、初対面の人のような関係が疎遠な人との雑談が苦手だと感じています。その一部分を切り取って『自分は雑談が苦手』と認識してしまっているのです。
たしかに、極端に人見知りをしない人もいますが、多かれ少なかれ、誰もが同じような苦手意識を持っているのです。
テクニックだけ身に着けても上滑りするだけ
雑談といえども、結局は人と人との意思疎通であることは変わりありません。そこに、相手への心理的な配慮は必ず必要になります。心を無くしてテクニックだけを身につけても、それは上滑りするだけなのです。
―この本では「雑談に結論は要らない」や「自分の話は10秒以内」など、わかりやすいだけでなく、具体的でビジネスシーンでもとても役に立つ情報が満載です。
井上 雑談が苦手だと悩む人こそ真面目な人が多く、ビジネスシーンでは『雑談は絶対に必要なもの』と考えていたり、ビジネストークの延長として『結論から話をしないと…』のように考えていたりします。
しかし、そのような自分の中での“決めつけ”がプレッシャーになり、空回りして、より自分自身を苦しめることになってしまいます。
雑談となれば、相手があまり話を聞いてくれないこともあるし、残念ながら相手が自分に興味を持っていないことも往々にしてあります。だからこそ、「あれこれと語ってもしかたないかな」くらいに肩の力を抜きながら、そのなかで自分が過剰にプレッシャーを感じないように出来るお話を書かせていただきました。
無理に雑談しなくても良い環境に
―コロナ禍の働き方改革で、WEB会議が導入され、無理に雑談しなくてすむとホッとしたのですが、実際には逆に雑談のハードルが高くなってしまいました。ネットでの雑談のやり方は、対面とは違いますか?
井上 違いはありますね。私たちはWEB上でのやり取りは、所属するコミュニティでの関係性が色濃く反映されます。コロナ禍の前は、職場であれば、やはりWEBでのやり取りはほぼ全てが業務内容で埋め尽くされていました。なので、急にそこで、一見業務とは関係がない雑談をするようになると、心理的に大きな抵抗を覚えてしまいます。
さらに、人の話を聞くには、相手をよく観察したり関心を持ったりする必要があります。しかし、対面と比較すると、WEB上ではどうしても相手のからの情報が少なくなってしまいます。
ただ、逆に言えば、これこそ“無理に雑談をしなくてもいい環境“とも言えますから、焦らずに自分自身がストレスを感じないような話の組み立て方を重視して欲しいですね。
ストレスを感じないところを目標に
―最後、ラフドクターを自称する井上先生から、@ダイムの読者の皆さんへ、メッセージを!
井上 雑談を得意になりたいと思っている方は多いのですが、まずは自分自身が誰かとのコミュニケーションにストレスを感じないところを目標にしてみてはいかがでしょうか。ちょっとだけ視点の切り替えるだけで、それは十分に可能になります。
それはテクニック以前の問題で、やはりコミュニケーションは人と人とのつながりであり、心を通わせることが土台になっているからです。ストレス0の雑談をこなすことで、誰かと話をしたり、会ったりする機会を極端に避けることなく、人生の幅を広げてください。
井上先生!貴重なお話を、ありがとうございました。
雑談に苦手意識のある人には、ぜひ読んでもらいたい「新刊「ストレス0(ゼロ)の雑談」」。他の井上先生の著書「職場での『自己肯定感』力がグーンと上がる大全」(大和出版刊)や「ストレス社会で『考えなくていいこと』リスト」(KADOKAWA刊)と併せて読むと、もっと深く理解できるようになりますよ。
著者略歴 井上智介(いのうえ・ともすけ)
井上 智介(いのうえ・ともすけ) 精神科医・産業医。大阪府在住。 島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2 年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3 つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約40 社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。 また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。うつ病、発達障害などを中心に、精神科疾患全般に対応。 すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから「ラフドクター」と名乗り、SNSや講演会などで、心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。
文/柿川鮎子
編集/inox.