2021年5月31日に暗号資産取引所コインチェックが、国内では初となるIEO(Initial Exchange Offering)の実施を発表(プレスリリース)した。
IEOとはそもそも何か。ICOやSTOと何が違うのか。詐欺被害にあう可能性はあるのか。キーワードとともに解説しよう。
■コインチェック発表内容まとめ
・Hashpalette社が構築したブロックチェーン「Palette」のトークン「PLT」をコインチェックに上場する
・上場日は2021年夏予定。本記事掲載時点で日付は未確定
・PaletteとはNFTに特化したブロックチェーンで、PLTはPaletteのユーティリティ・トークンである
■キーワードまとめ
・IEO:
Initial Exchange Offeringの略称で、企業やプロジェクトなどの発行体がユーティリティ・トークンを発行して資金調達する際、暗号資産取引所が主体的にユーティリティ・トークンを売り出すこと。
・ユーティリティ・トークン:
いわゆる暗号資産(仮想通貨)のひとつで、何かしらのサービスを利用するために使う暗号資産のこと。
・トークン:
ブロックチェーン上で実現した「何かしらの価値」をデジタル化したもの。
参考:仮想通貨と何が違う?最近よく聞く「トークン」のメリット・デメリット/@DIME
・ICO:
Initial Coin Offeringの略称で、企業や組織が暗号資産であるトークンを新規発行して投資家に売り出すこと。売り出す際はIEOと違って暗号資産取引所の介入はない。
・STO:
Security Token Offering」の略称で、「セキュリティ・トークン」という株式や不動産などを裏付けにした暗号資産の売出しを行うこと。
・NFT:
Non-Fungible Tokenの略称で、偽造不可能な鑑定書、所有証明書付きのデジタルデータと言われる暗号資産の一つ。つまり、デジタルデータが“1点モノ”であることやその所有者を証明してくれる暗号資産。デジタルアートや、ゲーム内のレアアイテムなどに利用の期待が集まっている。
ICOの欠点「発行元と投資家との直接取引」
IEOを理解するのにICOの理解が欠かせない。
ICOとはInitial Coin Offeringの略称で、企業や組織が暗号資産であるトークンを新規発行して投資家に売り出すこと。トークンは「コイン」と呼ぶほうが一般的なので、「Coin」が名称に使われている。
2017年頃にブームとなり、雨後の筍のようにICOが乱立した経緯がある。
ICOの欠点は、トークンの発行元となる企業や組織が投資家と直接やり取りすること。
投資家は、調達した資金の使いみちやプロジェクトの内容などが書かれた「ホワイトペーパー」を投資判断の材料にしていたが、ホワイトペーパー通りに事が進む保証はなく、詐欺の温床となった。詐欺ではなくとも、プロジェクトが頓挫したため、投資で得たトークンが全く価値の無いものとなり、涙を飲んだ投資家が多くいた。
IEOでは暗号資産取引所がトークン発行の支援や審査を行うことで詐欺を排除
IEOでは暗号資産取引所が発行元と投資家の間に入り、信用を担保する。プロジェクトの内容や発行元の身元審査を暗号資産取引所が行って、詐欺の可能性を排除し、取引の安全性を高めてくれるのが特徴だ。
■IEOのイメージ
引用元:コインチェックIEO/コインチェック
実行するプロジェクトの実現可能性を、発行元とともに高める施策を打ち、将来の成長性を評価し、優良なトークンだとお墨付きを与えて、投資家に安心を届ける。
■上場審査を必ず行うことを宣言
発行元視点でのメリットは、暗号資産取引所の顧客に対して資金調達のアプローチができるし、取引所が介入した審査の実施が、詐欺の印象を排除できる。
それでも投資には失敗がつきまとう。どんなに優秀な人材がプロジェクトを運営したとしても、トークンの価値を上げることができずに、無価値になってしまう可能性はある。
結果的に詐欺となってしまうこともあるだろうが、ICOに比べて発行元の信頼度が高く、投資判断に必要な情報も多く手に入るはず。
コインチェックではIEOの特設サイトを構えて投資家を呼び込む。より多くの情報をわかりやすく提供しようと意欲を見せているようだ。
IEOとSTOの違いは金融資産との裏付け有無と投資契約の有無
IEOと似ている仕組みにSTOがある。STOは「Security Token Offering」の略称で、「セキュリティ・トークン」というトークンへの投資を募る。
■違い(1):金融資産との裏付け有無
セキュリティ・トークンは、株式や不動産などを裏付けにした暗号資産。
対してIEOで扱う暗号資産は、株式や不動産の裏付けがない。
代わりにさまざまなサービスが利用できたり、そのサービスから付加価値を生み出したりなどの機能があり「ユーティリティ・トークン」と呼ばれる。
■違い(2):投資契約の有無
また、セキュリティ・トークンの場合は、投資した結果「分配金」を受け取れる投資契約が結べる。
ユーティリティ・トークンでも「スマートコントラクト」によって分配金が受け取れるのでは?と思うかもしれないが、サービス利用などの「実用性」が伴っているため、セキュリティ・トークンと区別される。
法規制の観点では取引の提供者に対する規制法令の違いがある
法規制の観点でも、ユーティリティ・トークンとセキュリティ・トークンに違いがある。
セキュリティ・トークンの場合は、取引の提供には金融商品取引業、すなわち証券会社でなければならないという制約がある。
ここでいう取引の提供とは、トークンの売買の場の提供のこと。
制約は金融商品取引法や関連する法令によって、整備されている。
ユーティリティ・トークンでは、金融商品取引法ではなく資金決済法の制約を受ける。
言い換えると、ユーティリティ・トークンの売買ができるのは証券会社ではなく、暗号資産取引業者ということになる。
いずれの場合でもトークンの発行元自身が、トークンの販売を行わない場合には、金融商品取引法や資金決済法による登録は不要となる。
■ユーティリティ・トークンとセキュリティ・トークンの法規制の違い
引用元:金融技術進展等を踏まえた対応策/国土交通省
金商法は金融商品取引法の略称。セキュリティ・トークンは同法だと「電子記録移転権利」と定義されている。
IEOで取引所の介入があることと、価格の値動きが激しいことは別問題
IEOによって上場したトークンの取引で、発行元やプロジェクトの内容が審査されているとはいえ、一攫千金を狙う暗号資産投資家たちのマネーが集まってくると、取引価格の値動きの激しさは他の暗号資産と同じように乱高下する恐れがあること。
そして、暗号資産のみならず、全ての投資にはリスクがつきまとうことを肝に命じておきたい。
文/久我吉史