2021年5月25日、ヤフーグループで外国為替証拠金取引(FX取引)を提供するワイジェイFXが、GMOグループに買収されることを発表。今回の買収で、FX業界一位の座をDMMグループと争っているGMOが一歩抜きんでる構図になる。売却したヤフーグループの思惑は、やはりLINEとの関係を考えたものなのだろうか。
■買収内容のまとめ
・譲渡金額は約289億円。契約締結日は2021年5月28日
・譲渡先はGMOフィナンシャルホールディングスで、GMOグループの金融持株会社
・2021年9月下旬予定で社名が「ワイジェイFX」から「外貨ex byGMO」となる
■各社プレスリリース
●GMOフィナンシャルホールディングス
GMO フィナンシャルホールディングス、ワイジェイ FX の全株式を取得/GMOフィナンシャルホールディングス
●ワイジェイFX
ワイジェイFX株式会社の株主変更に関するお知らせ
GMOは今回の買収で「業界No.1」の地位を確立
プレスリリースによれば「これまで培ってきた知見、ノウハウ、経営資源の共有等による連携を強化し、サービスの価値を高めるとともに、さらなる成長を通じてFX業界をリードし、その持続的発展に貢献していきます。」としている。
FXサービスでは、GMOとDMMの覇権争いが続き、取引額の拮抗が続いている。今回の買収で、GMOは取引高の規模がDMMの1.3倍以上となる(下図)。FXビジネスでは、取引高に応じて収益が比例する構造なので、GMOが業界No.1の地位を確立したことになる。
■業界内の取引高の割合比較
2019年度の取引高を比較してみると、GMOグループの金融サービスを行うGMOクリック証券とDMMグループのそれを行うDMM.com証券で取引高が拮抗。ワイジェイFX(以下、YJFX)は取引高3位集団の中にいて、GMOクリック証券の約3分の1程度なので、買収の規模は小さくないといえる。
ヤフーがYJFXを売却した理由はLINE FXの成長性を評価したからか?
引用元:2020年度決算説明資料/Zホールディングス
LINEとの統合が完了したヤフーグループの視点では、FXサービスには、YJFXとLINE FXの2つが競合する。合併後の事業の枠組みでは「決済、金融」の領域の中に両社が含まれている。
■YJFX買収の適時開示情報抜粋/GMOフィナンシャルホールディングス
プレスリリース関連の資料にあるYJFXの当期純利益額は3年連続右肩上がりで、ヤフーグループへの収益に貢献している。その貢献を差し置いてもYJFXを売却した理由は、LINE FXの方が、ヤフーグループが掲げる「スーパーアプリ構想」に適しているためだろう。
■決済を軸にあらゆるサービス提供を目指すPayPayのスーパーアプリ構想
引用元:中長期ビジョン(決算説明資料)/ソフトバンク
スーパーアプリとは1つのアプリの中で様々なサービスをシームレスに利用できる機能が統合されたアプリのこと。ヤフーグループでいえば決済アプリ「PayPay」である。本記事作成時点でPayPayの中にYJFXへの誘導は見当たらない。FX取引のようにリスクが高いサービスを。生活に寄り添っているアプリPayPayに含めるのかどうかという議論はさておき、グループ企業のサービスとして何かしらの誘導があってもおかしくないのだが・・・。
LINE FXも2020年3月にリリースしたばかりで、まだPayPayの中に組み込まれていなものの、リリース約1年で顧客獲得数が成果として現れてきた。
取引口座数で比べてみるとYJFXが約40万口座なのに対してLINE FXは約10万口座と4倍の開きがある。
口座数の増加率を比べてみるとYJFXは1年で約2万口座の増分に対してLINE FXはサービス開始後8カ月で10万口座を獲得している。またLINE FXはコミュニケーションアプリ「LINE」の中にすでに組み込まれており、スーパーアプリの操作性で、YJFXより顧客を誘導しやすそうなので、増加は今後も続くだろう。
これらの情報を判断材料として、よりビジネスの成長性があるLINE FXに軍配を上げたといえる。
(参考)LINE FX口座開設数10万口座突破ニュースリリース
オンライン金融事業としては異なる道を歩むヤフーとGMOの戦略をおさらい
■ヤフーグループの「シナリオ金融」
引用元:統合報告ポータル/Zホールディングス
ヤフーグループが掲げる金融事業の構想「シナリオ金融」は、検索サービス「ヤフー」が持つメディア機能を軸に、「ユーザーの生活シーンで起こる様々な行動に対して、金融商品を提案する」事業だ。
■GMOフィナンシャルホールディングスの金融事業の業況
GMOは「グループDNAを受け継ぐNo.1戦略」として、銀行、証券、FX取引などに対して「より自由で開かれた次世代金融取引サービス」を提供することとしている。とりわけFX取引では業界No.1の地位を確立して、市場を牽引している。CFD、暗号資産、海外領域での事業を拡大。
コロナ禍でオンライン化、デジタル・トランスフォーメーション化が加速すると共に、金融企業の再編は今後も続くのだろうか。
文/DIME編集部