こだわったのは自然に手が伸びる快適な着心地
機能性を付与することが当たり前になったスポーツアパレルに、新たな価値を創出する動きが加速。特に顕著なのがスマート化だ。2019年頃から東レ、クラボウ、ミツフジといった繊維大手がスマホなどと連携したスマートウエアの開発を表明する中、東洋紡は今年6月末より『COCOMI®』を活用したサイクリング用アンダーシャツの一般販売を発表。先行する帝人フロンティアを追従したことで、新たな競争軸が生まれつつある。
『COCOMI®』は東洋紡が2015年より展開している生体情報計測ウエア用素材。競走馬の健康管理・調教に用いる腹帯、トップアスリート用のトレーニングウエア、産後うつ研究向けマタニティーウエアなど、これまで様々な専門分野で評価を積み重ねてきた。一般消費者向けのスポーツアパレル商品は今回が初。なぜサイクリングウエアなのか? これについて東洋紡STCの表 雄一郎さんは、海外市場を例に挙げる。
「ヨーロッパのロードレースチームでは当たり前のように生体情報を計測していますし、計測領域は筋肉の動きにまで及んでいます」
一方の日本では心拍センサーが普及したにもかかわらず、スマートセンシングウエアの市場は未成熟。これをチャンスと捉えた。
「『COCOMI®』は導電性の高い銀を導電剤に使ったフィルム状の電極なので、計測時に濡らす必要はありません。また、曲がるディスプレイなどに使う材料の技術を応用し、自然な伸縮性と0.3mmという薄さを実現しました。洗濯耐久性や吸水速乾性といった実用的な機能性も兼備。通常のスポーツウエアと同じ感覚で着用いただけることも大きな魅力です」
『COCOMI®』の特徴
・ジェル電極と同等の計測精度
・曲面にもフィットする優れた柔軟性
・厚さ約0.3mmという圧倒的な薄さ
・導電繊維と一線を画す伸縮性
『COCOMI®』のアンダーシャツは胸部部にガーミンやポラールなどが市販する心拍センサーを取りつけて使用する。導電繊維のように濡らすことなく、医療機器同等の精度で計測できる。
東洋紡STC 技術開発部 表 雄一郎さん
約30年にわたって機能性ウエアの技術開発に従事。『COCOMI®』の開発プロジェクトでは、競走馬の心拍数測定用腹帯製品開発など、技術構築から販売計画まで幅広く担当。
取材・文/渡辺和博