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故事やことわざには、見たり聞いたりしたことはあっても意味がよく分からないというものが少なくありません。
慢心を省み、行動を改めるときなどに使う『好事魔多し』もその一つでしょう。正しい読み方や言葉の意味、例文や類義語について解説します。
「好事魔多し」の意味とは
書物などに『好事魔多し』と記載されているとき、正しく読み、的確に意味を理解しているでしょうか。
分からない言葉と出合ったら、素通りせずに、知識を定着させておくことが大切です。読み方や意味について解説します。
読み方は「こうじまおおし」
『好事』は『こうじ』、『魔』は『ま』、『多し』は『おおし』と読み、続けて『こうじまおおし』と読みます。
発音する場合は、続けて読まず、間で短く一拍置くようにします。言葉の感覚を空けるところを読点で示すと『好事、魔おおし(こうじ、まおおし)』という要領です。
言葉の間隔を空けて読むことわざの場合、場所を間違えると思わぬ恥をかくこともあります。適切に間を空けて、口にするようにしましょう。
言葉の意味
『好事』は、自分にとってとても調子のよい状態を指しています。何をやってもうまくいくような、上昇気流に乗っているようなときを表しているのです。
『魔』は、よからぬことを意味しています。妬みによる誰かからの邪魔や、慢心による気の緩みなどがそれにあたります。そして『多し』で、そのようなことが起きがちであることを示唆しているのです。
つまり、調子がよいときほど、邪魔をされたりミスをしたりして痛い目にあうもので、気を付けるべきだということを、戒めとして伝える言葉なのです。
出典は「琵琶記」
出典は、元末明初(げんまつみんしょ)と呼ばれる古い時代に書かれた『琵琶記(びわき)』にあります。中国の高明(こうめい)という劇作家が創作した戯曲に出てくる言葉といわれています。
『戯曲』とは、演劇の内容を構成する台本や、元となる文学作品のことを表します。琵琶記は、遠く離れた場所にいる夫と会うために、妻が遥か彼方へと訪ねていく苦労をつづった長編の物語です。
漢文で書かれた本作中において記述された『好事多磨』が語源となっています。それを口語では『好事魔多し』ということから、次第に口語通りの表記となっていったと考えられています。
「好事魔多し」の使い方と例文
- (出典) pexels.com
中国の古い書物に由来する『好事魔多し』は、どういった状況において、どのように使用するものなのでしょうか。分かりやすいシチュエーションと、例文について紹介します。
「好事魔多し」の使い方
利用シーンを紹介しましょう。例えば、企業において、営業成績が好調な社員がいたとします。扱う商材とその社員の波長が合うようで、次々と顧客を獲得し、売り上げを伸ばしています。
しかし、次第に行動に粗さが目立つようになり、仕事振り全体に不安定さも見られます。そのようなときに注意喚起するための言葉として適しています。
また、他人についてだけでなく、自分に対しても使うことができます。資格試験の合格を目指しているときに模擬試験の結果がよいと、つい有頂天になりがちです。
しかし、出来不出来には波があるものだと肝に銘じ、自制することは大切です。浮かれてしまっている様子を自戒するようなシーンにも有効なことわざといえるでしょう。
「好事魔多し」の例文
ここではビジネスシーンで使える例文を紹介します。セールスが好調だけれど、どこか周囲への感謝が足りないと感じる部下に対して、次のように伝えましょう。
Aさん「同僚の売り上げが伸びていないようなので、彼の担当する企業も私が受け持ちましょうか?」
Bさん「確かに今の君はとても頑張っていて素晴らしいね。しかし、好事魔多しで思わぬ落とし穴があるかもしれない。うまくいっているときほど細かい点にも配慮して、周囲への気配りを怠ってはいけないよ」
このほか、一緒にある資格を取得しようとしている友人と、模試の結果について話し合っていたとき、評価がよかったときの自分について次のように使用します。
Cさん「あなたの結果は素晴らしいですね。努力が確実に実っているようです」
Dさん「ありがとう。でも好運だっただけでまだまだです。好事魔多しというし、コツコツ勉強し続けないとすぐに成績は落ちてしまうから気を付けたいです」
「好事魔多し」の類義語
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『好事魔多し』のほかにも、慢心を注意する言葉はあります。代表的な2例について紹介しましょう。
「月に叢雲花に風」
『つきにむらくも、はなにかぜ』と読みます。叢雲とは『光を遮るようなとても厚く暗い雲』を表現している言葉です。
『群れ集まった暗い雲がかかると輝く月が見えなくなり、風が吹けば美しい花が散ってしまう』という意味を表しています。このことから、どんなによい状態だったとしても、一瞬の出来事でその価値は下がってしまう可能性があることを指している言葉です。
好調なときほど邪魔が入り、ミスをしがちであることを戒める『好事魔多し』に通じる言葉といえるでしょう。
「花に嵐」
『はなにあらし』と読み、『月に叢雲花に風』の『花に風』とほぼ同じ意味を有することわざです。『いくら美しい花だとしても、嵐がくれば吹き飛んでしまう』と諭しています。
このように、今はよい状態だからといって気を抜くと、何が起こるか分からないことへの注意喚起を促す言葉が多々あることが分かります。それだけ、いつの時代も常に自制することが大切だということでしょう。
構成/編集部