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【開発秘話】累計1万着以上売れているAOKIの「アクティブワークスーツ」

2021.05.14

■連載/ヒット商品開発秘話

 いま、各社から機能性スーツが発売され盛り上がっている。このような中、お値打ち価格で話題を集めているのが、AOKIの『アクティブワークスーツ』である。

 2021年2月からこれまで5回にわたり発売されている『アクティブワークスーツ』は、価格がジャケットとパンツのセットで5970円(税込)。第1弾から第3弾まではさらに安く4800円(同)だった。

 低価格だが機能は妥協していない。丸洗いできるほか、風合いとストレッチ性を重視した独自素材の採用で動きやすい、立体縫製により長時間着ても疲れない着心地、といった特徴を持っている。同社公式オンラインショップのみの販売だが、4月に予約販売を開始した第4弾までで、1万着以上が販売されている。

スーツはもっと自由に。スーツはもっとアクティブに

 同社が機能性スーツに着目したのは2016年頃から。それ以前から洗えるスーツやストレッチ性の高いスーツを販売しており売れ行きが好調だったことから、本格的に機能を追求することにした。

 手本にすることにしたのが、機能を追求しているスポーツウェア。そこで、競技団体やスポーツイベントへのオフィシャルスーツ提供を皮切りにして、スポーツ界との関わりを深めていくことにした。アスリートと接点ができることを生かし、機能性スーツづくりのヒントを得ることにしたのである。

 スポーツ界との関わりから機能性スーツに求められる要件を模索してきたのが、『アクティブワークスーツ』の企画・開発に関わった執行役員商品戦略企画室の本田茂喜氏。本田氏がアスリートと接するなかで得た機能性スーツにとって大切な要件が「気軽」であった。アスリートはスーツを着る機会が限られ着慣れていないこともあることから、カチッとした印象を与えることができつつ、プライベートシーンでカジュアルに着こなせるものをつくることにした。

 一方、普段からスーツを着るビジネスパーソンを俯瞰したことで、これからのスーツには動きやすさが求められると思うに至る。スーツを着ていてもデスクワークだけではなく、商品を運んだり何らかの作業をしたりすることがある。ビジネスパーソンの多能工化が顕著になってきていることから動きやすさが今後望まれると考えた。

 以上のことを踏まえ、「スーツはもっと自由に。スーツはもっとアクティブに」をコンセプトに『アクティブワークスーツ』を開発する。そして「気軽」に買えることも大切だと考え、シャツ1枚程度の価格で販売することにした。

副資材の使い方、サイズ展開を見直す

 気軽な着心地を実現するカギを握ったのが素材。2018年春頃から、素材の開発に着手する。本田氏は素材開発の経緯をこのように振り返る。

「スポーツウェアの素材でつくると、着心地は楽だがカジュアル感が強すぎてフォーマルなシーンでの着用は難しい。逆に、ウール混でストレッチ性を持たせたり丸洗いできたりするものだと、副資材プラスされカッチリとした印象になりすぎ、気軽さが感じられません。この2つの間に位置する、スーツだけどスポーツウェアのように着られる素材が必要でした」

 新素材はまず、見た目を重視。スポーツウェアの質感にならないようツヤツヤ、ピカピカしない風合いを目指した。これに加え、丸洗いできること、タテ/ヨコの2方向に一定の割合で伸びる2wayストレッチも採り入れることにした。納得いく素材ができたのは2020年のことであった。

 コストダウンするに当たっては、まず副資材の削減に着手する。芯地、肩パッド、裏地、袖ボタンの使い方を見直した。

 ジャケットの場合、左胸ポケットに芯地を使い一般的なスーツと同じようにつくっているが、その代わり内ポケットは右のみとし左は省略。裏地は背中と袖には当てず、ソフトで軽い着心地とした。袖に裏地を当てていないと腕が滑らず通しにくく思えるが、生地をつくるときに滑りやすい質感に仕上げ、裏地を不要にした。

ジャケットの内ポケットは右側のみとし、左側はナシ。裏地も写真のように背中には当てていない。ただ、生地を縫い合わせたところは繰り返しの洗濯に耐えられるようパイピング加工を施した。コストダウン一辺倒ではなくコストをかけるところにはかけている

 袖の飾りボタンも通常は3つか4つのところ、2つに削減。表示類も品質表示だけだ。商品説明がECサイトで完結するので、下げ札も用意していない。

袖の飾りボタンは、デザインのバランスがギリギリ取れる2個に

 サイズ展開も見直した。『アクティブワークスーツ』はS,M,L,LLの4サイズしかない。通常、スーツは1品番で十数種類のサイズが用意されているが、誰でも気軽に、カジュアル感覚で購入・着用できる4つに絞ったことでサイズの機会ロスが防げるほか、1サイズを大量につくる方が効率的であり、コストダウンも図れる。

 サイズが4つに絞られると、サイズが合うかどうかが気になるところだが、サイズはこれまでに得た顧客の体型データなどを生かすと同時に、デザインやつくり方を工夫した。

 例えばパンツは、裾上げ済みのテーパードスタイルとし、丈が長すぎたらロールアップで調整すればいいようにしている。ウエストについては伸縮するシャーリングを採用し、1サイズで幅広いサイズに対応できるようにした。「シャーリングはどこにどれだけ入れるかでシルエットが変わってきますが、後ろに入れすぎるとカジュアル寄りになるので、入れ方を工夫しました」と本田氏。パンツにはベルトをせず履けるようスピンドル(紐)を設けたが、通し方を変えることで外側からだけではなく内側からも結ぶことができるようになっている。

パンツのシャーリング

パンツにプラスされたスピンドル。結べばベルトなしに履くことができる。カジュアルに着こなしたいときに便利だ

スピンドルは通し方を変えれば、内側から結ぶことができる

販促せずとも予約が殺到

 こうして『アクティブワークスーツ』は完成の域に達した。あとは商品化のタイミングを待つだけとなったが、そのタイミングは2020年12月に訪れた。

 きっかけは新型コロナウイルス。同社は感染拡大を受け世の中の役に立てることを模索し、新生活様式に対応する商品を次々と発表してきたが、この一環で企画された。

「店舗でお客様にヒアリングし、新生活様式から生まれた新たなニーズにいち早く対応してきましたが、『アクティブワークスーツ』もこの流れから商品化が具体化しました」

 このように話すのは広報室 室長の飽田翔太氏。企画と同時に生産に移行した。

AOKI
執行役員商品戦略企画室 本田茂喜氏(右)
広報室 室長 飽田翔太氏(左)

『アクティブワークスーツ』は予約開始から2週間で、初回生産分が公式オンラインショップからの予約で完売。当初は一部店舗でも販売する予定だったが、想定を上回るペースで予約が入ったことから見合わせることにした。

『アクティブワークスーツ』の予約販売スケジュールと商品発送状況(2021年5月10日時点)

 とくに販促は行なわなかったが、それでも予約が殺到したのは、話題性が高かったからだ。多くのメディアが話題に取り上げたほか、SNSなどでクチコミが拡散した。

 4月に予約販売を開始した第4弾は、それまでより生地を軽量化しストレッチ性も約1.2倍高めた。また、2パンツスタイルも発売(税込7950円同)。第1弾と第2弾はジャケットとパンツが別々に購入できるようになっており、パンツの売れ行きが好調だったこともあり、2パンツスタイルも販売することにした。

取材からわかった『アクティブワークスーツ』のヒット要因3

1.シチュエーションに縛られない

 普通のスーツ同様のカチッとした着こなし、ラフでカジュアルな着こなしの両方に対応。シチュエーションに縛られず気軽に着ることができる。

2.機能に対して割安

 丸洗いできる、ストレッチ性が高いという機能性スーツらしい機能を備えただけでなく、立体縫製により着心地がよくシルエットもいい。それでいながら、テーラードスーツでは考えられない安価を実現したので、機能に対する割安感が高い。

3. 気軽に買える

 スーツはこれまで、店舗でサイズを測り購入するのが普通でやや面倒。しかし、自社のECサイトで販売することにしたことから、サイズ展開などを工夫。カジュアルウェアを選ぶ感覚で気軽に買える。

『アクティブワークスーツ』はいまのところ、普段からスーツを着ている人だけではなく、ほとんどスーツを着ない人も購入しており、これまでAOKIを利用していないユーザーの開拓に一役買っている。60数年にわたりテーラードスーツをつくってきたAOKIにとっては異色の商品だが、将来を見越し来たるべきときに備えて準備をしてきた結果が実を結んだ。

製品情報
https://www.aoki-style.com/feature/activesuit/

文/大沢裕司

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