製薬業界におけるマーケティング用語であり、自動車関連、金融業界の専門用語としても使われる略語「DTC」。3つの分野で使われるいるが、それぞれに意味が異なっている。そこで本記事では、各業界で使われている略語「DTC」のそれぞれの意味を詳しく解説していく。
製薬業界で使われるDTC/DTCマーケティングとは?
はじめに、製薬業界のマーケティングで使われるDTCについて紹介する。この業界で使われるDTCは、日本では「DTCマーケティング」とも呼ばれ、もとはアメリカの製薬業界から生まれた言葉。医療用医薬品の広告手法を指す。詳しい内容を見ていこう。
Direct To Consumerの略で「企業が顧客と直接コミュニケーションすること」
製薬業界のDTCは「Direct To Consumer(顧客直結)」の略で、企業が直接、顧客とコミュニケーション取ることを指す。アメリカでは製薬会社が医療用医薬品を宣伝することが認められており、1980年代に製薬企業が患者に対して、直接自社の医薬品の宣伝を始めたことから生まれた考え方だ。
日本に初めてDTCを紹介したのは、古川隆氏の著書『DTCマーケティング(日本評論社)』。この本のタイトルから、日本では「DTCマーケティング」の言葉が広く使われるようになった。日本では医師の処方が必要な医療用医薬品の宣伝広告が規制されているため、アメリカのDTCを日本では「疾患啓発活動」または「疾患啓発広告」と呼ぶこともある。
日本におけるDTC
日本のDTCには、「疾患啓発広告」「治験広告」「製薬産業広告」の3種類がある。基本的に、広告の中で商品名を出すことは薬事法で禁止されているものの、新薬の特許が切れた後に販売されるジェネリック医薬品だけは例外で、医薬品名を出しての広告が可能だ。
具体的にはタレントなどを起用し、疾患啓発や受診推奨、治療への理解促進、早期発見、治験の被験者の募集などを目的として、テレビや雑誌、折込チラシ、小冊子、オンラインなどで宣伝を行う。
自動車関連の専門用語DTCとは
自動車関連の専門用語としてのDTCには、2つの意味がある。1つ目は、BMWやミニに装備されている「車両制御装置」のこと。2つ目は、自動車に関するエラーコードで、アルファベット1文字+4桁の数字で表される。
Dynamic Traction Controlの略
BMWやミニに装備されているDTCは「Dynamic Traction Control」の略で、路面とタイヤ間の摩擦を最適な状態に保つための機能を指す。Dynamic Traction Controlとは、トラクション(駆動力)を最適化する装置のこと。タイヤが雪に埋まった場面などでDTCをオンにすれば、左右のタイヤへの動力配分が均等になり、脱出しやすくなる。また、同じ理由で滑りやすい砂利道でもこの機能が役立つ他、スポーティーな走りを楽しむことも可能だ。
Diagnostic Trouble Codeの略
2つ目の自動車分野におけるDTCは、「Diagnostic Trouble Code」の略語。自動車に搭載された故障診断装置が知らせるパワートレインやシャーシ、ボディ、ネットワークに関するエラーを表すものだ。電子制御装置に記録されるエラーコードは、整備工場でスキャンツールを使って読み取られ、故障の内容を調べるのに使われる。
エラーコードとしてのDTCは、1文字目のアルファベットが故障の部位を、続く4桁の数字が不具合の内容を表す。アルファベット部分は世界共通だが、数字部分は各国共通の定義と、各メーカー固有の定義の2種類がある。
金融業界におけるDTCとは
金融業界におけるDTCは、1973年にニューヨーク証券取引所の証券管理・決済部門から独立したアメリカの「証券預託機関」のこと。その後1999年にDTCは、証券清算機関である「NSCC(National Securities Clearing Corporation)」とともに、証券の決算と清算に関わる持株会社である「DTCC(Deository Trust and Clearing Corportion)」の完全子会社となる。
Depository Trust Companyの略
DTCは「Depository Trust Company」の略。先述した通りアメリカの証券預託機関を指す。証券会社や銀行、投資会社、保険会社、年金基金などから株式や社債、地方債、米国預託証券などの証券を預かり、管理を代行する機関だ。
DTCの役割
アメリカにおける証券取引の決済は、「投資家と証券会社の間の取引」と「証券会社同士の取引」の2つに分けられる。各投資家の取引を、取引ごとに証券会社間で決済するのではなく、一定期間の取引をまとめて相殺することで、証券会社間の資金の移動回数や移動額、為替手数料などを抑える仕組みだ。
アメリカの証券決済は現在、99%以上がDTCCのシステム内で行われている。各取引の内容が証券会社ごとに相殺(ネッティング決済)され、NSCCから各証券会社に対して取引内容に関する清算を指示。さらにNSCCからDTCにも各取引の詳細が示され、それぞれの証券取引が成立する。
文/oki