『減価償却』という言葉を聞いたことはあっても、意味がよく分からない方も多いのではないでしょうか。減価償却は必要経費の計上に関する概念で、対象となる資産や関連用語をきちんと理解することが必要です。減価償却のメリットや注意点も解説します。
減価償却の意味とは?
減価償却とはとのような理由で行われるのでしょうか。また、行う理由だけでなく、減価償却に関連する用語についても覚えておきましょう。
会計用語として使われる
減価償却は、会計処理の必要経費に関する重要な用語です。時間の経過で価値が減少する事業用の固定資産のうち、使用可能期間が1年以上で取得価額10万円以上のものを『減価償却資産』と呼びます。
減価償却資産には耐用年数(使用可能期間)が定められており、費用を購入時に全額を計上するのではなく、耐用年数に応じて分割して経費として計上します。この会計処理の考え方や方法が減価償却です。
例として耐用年数が5年の貨物自動車を300万円で購入したならば、5年間に渡って毎年60万円を経費計上します。
減価償却を行う理由
減価償却は企業の利益を守るためにあるルールです。高額な資産を購入時に全額計上してしまうと、売上と経費のバランスが取れない可能性があります。
例えば、不動産賃貸業を営む企業が1億円のマンションを事業用に購入して、一度に経費計上したとしましょう。この企業の売上が1年間で500万円だとすれば、購入した年度は少なくとも9500万円の赤字です。
これでは赤字が大きすぎるので、金融機関から融資を打ち切られたり、新規の融資が不利になったりする恐れがあります。減価償却をすることで売上と経費のバランスが取れ、企業の利益を正確に表せます。
減価償却の関連用語
減価償却にはさまざまな関連用語があります。主な関連用語は以下の通りです。
- 減価償却資産:使用期間中に価値が減少していく事業用の資産
- 減価償却費:減価償却資産の費用を毎年経費計上する際の勘定科目
- 取得価額:減価償却資産を取得する際にかかった費用の合計
- 耐用年数(法定耐用年数):減価償却資産の使用可能期間を指し、税法によって各資産の耐用年数が定められている
- 償却方法:減価償却費の計算方法を指し、基本的に定額法か定率法のいずれかを用いる
- 残存価額(残存簿価):耐用年数経過後に残っている減価償却資産の資産価値
- 減価償却累計額:減価償却費の累計額を指す勘定科目
- 帳簿価額(未償却残高):取得価額から減価償却累計額を差し引いた残額
減価償却で得られるメリット
減価償却資産を取得した際、企業は減価償却をするかどうかを選択します。減価償却を選択するとどのようなメリットがあるのか、主なメリットを三つ紹介しましょう。
法人税の節税
一つめのメリットは、法人税の節税効果です。減価償却費は、減価償却資産の取得時に一括ではなく耐用年数の間に少しずつ経費計上するので、長期間に渡って節税できます。
例えば、取得の2年目以降に大きな利益が見込まれる場合、減価償却費によって利益を圧縮し、高額な法人税を回避できるでしょう。
手元に資金が残る
取得年度だけでなく2年目以降も継続的に経費計上する減価償却資産は、実際に現金支出が発生するのは取得年度のみです。支払いは取得時に完了しているため、2年目以降は減価償却資産に関する現金支出はありません。
経費として計上しても実際には現金支出がないので、2年目以降は減価償却費分の現金が手元に残っていることになります。あくまで会計上の処理であるため、現金が増えるわけではありませんが、少なくとも財務状況をよく見せる効果が見込めます。
また、2年目以降は現金支出のない資産によって法人税の節税効果が生まれることもポイントです。
企業の損益の実態が把握できる
減価償却をすると企業の業績は実態に近づきます。
例えば、事業用に1000万円・耐用年数10年の資産を購入し、減価償却しない場合を考えてみましょう。その資産によって毎年200万円の売上を生むとしても、固定資産の購入経費を取得年度に一括計上してしまうと、資産と利益の関係を把握するのは困難です。
一方、減価償却をすれば減価償却費は100万円なので、10年間で差し引き100万円の利益を生んでいると分かります。業績が実態に近づくことで経営状態や損益を把握しやすくなり、事業計画が立てやすくなるのもメリットです。
減価償却の対象になる資産は?
減価償却の対象となる固定資産には条件があり、全ての固定資産が対象となるわけではありません。固定資産のうち、減価償却の対象になるものとならないものを説明します。
対象になる資産
減価償却の対象は、時間の経過によって資産価値が減少する事業用の固定資産のうち、『使用可能期間1年以上・取得価額10万円以上』の固定資産です。固定資産には『有形固定資産』と『無形固定資産』があります。
有形固定資産は、実体のある固定資産です。減価償却の対象となる有形固定資産は、建物・工場・設備・自動車・PC・工具・備品などがあります。牛・馬・豚といった動物や、リンゴ・ミカンなど植物も有形固定資産です。
無形固定資産は、物的な形のない固定資産です。減価償却の対象となる無形固定資産は、特許権・意匠権・商標権・営業権・漁業権といった各種権利の他、ソフトウェアも含みます。
参考:【確定申告書等作成コーナー】-減価償却のあらまし 減価償却の概要
対象にならない資産
減価償却は使用期間中に資産価値が減少する固定資産を対象とするので、時間の経過で価値が変動しない固定資産は対象になりません。
例えば、書画・骨董品・土地・借地権などがあります。これらの固定資産は、時価の変動はあっても時間の経過による価値の減少はないので対象にならないのです。
また、業務に使う固定資産であることも減価償却資産の条件になります。稼働できない状態にあるか、現在使っていない固定資産は対象になりません。「使えるが使っていない」状態の固定資産なら減価償却の対象です。
他にも、建物は建築が完了すると減価償却の対象ですが、建築中は対象になりません。商品や原材料といった棚卸し資産も対象外です。
減価償却する際の注意点
減価償却で注意したい点は、減価償却資産の内容ごとに耐用年数が異なることです。同じ種類の減価償却資産でも、構造や用途が違えば減価償却の期間も異なることに注意しましょう。また、中小企業には特例も認められています。
資産ごとに耐用年数が違う
耐用年数は減価償却資産の種類・構造・用途によって細かく定められており、一部の特例を除いて耐用年数通りの期間に渡って減価償却する必要があります。企業の都合で耐用年数を延長することはできません。
例えば、国税庁による資料『主な減価償却資産の耐用年数表』によれば、RC造の建物の耐用年数は事務所用なら50年ですが、住宅用なら47年、店舗用・病院用なら39年です。木造の建物は事務所用でも24年、公衆浴場用なら12年と記されています。
耐用年数は固定資産を使用可能と考えられる期間なので、基本的に構造がもろく、劣化が激しい用途のものは短期間になるのです。
中小企業向けには特例がある
従業員数1000人以下の個人事業主や中小企業が青色申告をする場合に限り、『少額減価償却資産の特例』という制度があります。取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産を取得年度に一括で減価償却費として計上できるのです。
例えば、取得価額25万円・耐用年数5年の減価償却資産なら、通常は5年間毎年5万円を計上します。ところが特例の条件を満たすと、取得年度に25万円の一括計上が可能です。
なお、取得価額10万円未満の固定資産に関しては、特例の条件にかかわらず一括で経費計上できます。