日本で最も有名な絵巻、国宝「鳥獣戯画」は、その名は知らなくとも教科書やモチーフとしてなど、何らかの形で一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。国宝「鳥獣戯画」は、今からおよそ800年前、 平安時代の後期から鎌倉時代につくられた絵巻物です。
東京・上野の東京国立博物館 平成館では、2021年4月13日(火)から5月30日(日)まで特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」を開催しています。その名は知らずとも、誰もが一度は目にしたことのある、日本で最も有名な絵巻、国宝「鳥獣戯画」。京都の北西、栂尾にある高山寺に伝わった「鳥獣戯画」は、2014年、2015年、2016年に京都、東京、九州の各国立博物館でそれぞれ公開されています。そのなかでも実現しなかったのが、4巻ある「鳥獣戯画」を一同に公開すること。本展では、これまでの展覧会では実現し得なかった、国宝「鳥獣戯画」4巻の全場面を一挙公開するとともに、かつて国宝4巻から分かれた断簡、さらに原本ではすでに失われた場面を留める模本の数々も集結し、まさに「鳥獣戯画のすべて」を知ることができる貴重な機会になっています。
実は本展覧会、当初は2020年7月14日(火)から8月30日(日)の開催予定でした。コロナ禍により会期が変更になり、本当にどうなることかと思っていました。@DIMEでも開催されずに終わった東京国立博物館の特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」をご紹介していますが、その無念を知っているだけに感動はひとしおでした。
会場は第一会場・第二会場に分かれています。こちらは第一会場の入り口です。
トーハク史上初! 博物館に動く歩道を設置して絵巻物を鑑賞する試み
今回の展示では、最初に「模本」というオリジナルの本を模写したものから展示。住吉家に伝わる安土桃山時代に作成された絵巻物でまず全体像を紹介。
「鳥獣戯画模本(住吉家旧蔵本)」は実は5巻に分かれています。
「鳥獣戯画」といえば、お馴染みの擬人化された蛙や兎が登場するのが「甲」巻です。
そこからいよいよ、オリジナルの4巻とのご対面の部屋となります。今回、絵巻物をスムーズに鑑賞してもらうため、導入されたのが「動く歩道」。展示で1つの場所でじっくり見たい気持ちはわかるものの、絵巻物はストーリーが横に繋がっていくため、途中で立ち止まっている人がいると昨今の状況を考えるとあまり好ましくないですね。そこで、広く知られている兎や蛙を擬人化したお話が描かれている4巻のうちの第1巻「甲」の絵巻物の展示の場所には、巻広げながら見るという絵巻物本来の鑑賞方法に加え、作品を間近で見られるように動く歩道を設置し、密を避ける工夫がされています。
足元の注意を促す表示にも、鳥獣戯画の動物たちが描かれています。
残りの3巻については、広く取られた展示室の壁面に沿って展示されているので、空いているところから行くのがおすすめです。
「鳥獣戯画」は、知名度が高いにも関わらず、作者も不詳、成立の背景やその登場についての文献も存在していません。その謎の多い絵巻物について、修理の過程で発見された事実についても紹介されています。
動く歩道はないとはいえ、後ろが詰まらないよう配慮はお忘れなく。
「鳥獣戯画 丁巻」の流鏑馬をする絵。紙の継ぎ目には「高山寺」の印が押されています。
高山寺でも普段は公開していない「明恵上人坐像」も展示
今回の展示では、「鳥獣戯画」を守り続けた高山寺の中興の祖である明恵上人の魅力に迫っています。明恵上人が華厳宗の道場として再興したのがいまから約800年前。自然豊かな京都の山中にある古刹ですが、2018年の台風で約300本もの境内の木が倒れるなど、大きな被害を受けています。昨年春よりようやく入山できるようになったものの、まだまだ復興はこれからだそうです。
今回は明恵上人が半生を通じて自身の夢を記録した「夢記」や貴重なゆかりの品を展示。また、高山寺内の開山堂に安置され、年に数度山内の法要で開帳するのみで一般には公開されていない重要文化財「明恵上人坐像」も特別に出品しています。展示でその貴重なお顔を拝見し、また気軽に旅ができるときがくれば、高山寺をゆっくりと訪れ、「鳥獣戯画」がなぜ高山寺に保存されていたのかなど、想いをめぐらせてみたいものです。
「明恵上人坐像」の展示室には、高山寺の山林を墨絵風のデザインで演出。
本展限定グッズは動物たちを大胆にデザインしたものが豊富
「鳥獣戯画」のグッズは高山寺での販売のほかにも、一般に流通しているものも多々あります。今回はこの展示のために制作されたものをご紹介します。本展のポスターもあえて強いイエローに動物たちを描き出しているように、従来のものよりも大胆なデザインが多い印象です。また、マスキングテープなど、絵巻物の魅力をたっぷり楽しめるグッズもおすすめです。本展限定グッズは数量限定のため、売り切れの可能性があるので気になる方はお早めに会場を訪れてください。
雲母唐長 扇子 ¥5500(税込)。こちらは裏で、表面には麒麟が描かれています。
鳥獣戯画×すみっコぐらしのコラボグッズも6品登場。こちらはトートバッグ(M)で、価格は¥1540(税込)。
混雑緩和のため、本展は事前予約制(日時指定券)です。入場にあたって、すべてのお客様はオンラインでの日時指定券の予約が必要です。予約可能な日程については公式サイトを確認してください。
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」
https://chojugiga2020.exhibit.jp/
取材・文/北本祐子