グローバル化やシステム化の波を受けて、現在日本では『TQC』から『TQM』へと管理方法のシフトが進んでいます。TQMとは、どのような管理方法なのでしょうか。TQMの概要や目的、プロセスを知り、自社の仕組みについて見直してみましょう。
TQMとは何?
TQMとは経営管理手法の一つです。品質やサービスの向上のために、TQMの意味や役割について理解しましょう。
「総合的品質管理」のこと
TQMは『Total Quality Manegement』の頭文字をとった略語です。日本語では『総合的品質管理』と訳されることが多いでしょう。
TQMにおける「Total」とは、品質向上のための制限を設けないことを指し、あらゆる業務や事象がTQMの対象となることを指します。
企業活動における品質全般に対して、維持と向上を図っていくための考え方や取り組み、方法論など全てのプロセスやコンテンツを指してTQMと呼ぶのです。
TQCとの違い
TQMと似た意味の言葉として、TQCがあります。TQMの考えが台頭してくるまでは、TQCが一般的な品質管理の方法でした。TQMについて知るためにも、TQCについても詳しく知っておきましょう。
「全社的品質管理」のこと
TQCとは『Total Quality Control』の頭文字を取った略語です。日本語では『全社的品質管理』と訳されます。
主に製造業において、製造の不具合を発見して製品に反映したり、製品の資材をよりよいものに変えたりといった、品質の維持・向上のための活動のことです。
そのような活動を経営者、作業者、マネージャーや部門を問わず全社で行う活動のことをTQCと呼びます。
元はアメリカから導入された方法であり、徐々に日本の雇用形態に合わせてアレンジが施されていきました。そして、日本オリジナルのTQCができ上がったのです。
TQMはTQCが発展したもの
バブルが崩壊し、終身雇用制度が個人成果主義に変化していくなどの労働環境の変化において、TQCのシステムはさまざまな問題が浮かび上がってきました。そこで、新たな手法としてTQMに注目が集まるようになってきたのです。
TQCは製造業における品質管理の考え方でしたが、TQMでは品質管理するものの範囲は限定されません。医療や介護、接客業など、物ではなくサービスや業務の質を高めるためにも、TQMによる総合的な管理が重視されるようになってきました。
現場レベルの品質管理の手法であるTQCから、物以外の業務やサービスに至るまでを総合的に管理するTQMへと徐々に切り替わっていったのです。TQMとは、TQCの発展系にあるといえるでしょう。
ISO9000への適用が理由
『ISO』とは『国際規格』のことで、ISO9000は品質管理における国際規格のシリーズです。ISO9000における要件を全て満たすことで、一定以上の品質管理のマネジメントができていると国際的に認められるようになります。
TQCからTQMへ切り替わった理由としては、ISO9000への切り替わりが要因ともいわれています。ISO9000に適用するためには、TQCの品質管理では必要な要件を満たすことができないためです。
TQMの目的は?
TQMを取り入れることによって、企業はどのような恩恵を得ることができるのでしょうか。TQMを導入する目的について解説します。
商品やサービスの質の向上
品質向上という点においては、TQCから引き継いだ部分も多くなります。しかしTQMの場合は、組織で働く人々の満足度やシステムの維持向上も含むことが目的として上げられるでしょう。
単純に品質のみにこだわるのではなく、製造過程についても精度を向上させることで、品質を向上させるという社内環境の改善も含みます。
それによって、物理的に評価が難しい医療やサービス業についても質を向上させていくのが、TQMの目的の一つなのです。
業務の効率化や意識の向上
全社で品質を管理するとはいっても、TQCでは直接商品を製造する部門や品質をチェックする部門が重視されることが多くありました。
その結果、品質を向上させるためにある特定の部門に負荷がかかったり、製造部門や開発部門の改革の余波が他の部門にまで及んだりすることが起こり得たのです。
TQMでは、利益の確保や人間性の重視といったこともテーマとしています。そのため、品質のために従業員に負荷を強いるのではなく、利益を創出するための全社的なアプローチをとることがポイントです。
結果として、業務の効率化と企業で働く人間のモチベーションやエンゲージメントの向上に大きく貢献します。
TQMの進め方
TQMを行う手順について、具体的に解説します。以下の流れに沿ってTQMの計画を立てましょう。
現状を把握して目標設定
品質管理は漠然と進行するだけでは効果も薄く、目標も立てにくいでしょう。そこでまず、現状の把握と目標の設定が重要になります。
現状の把握では『改善すべき課題や問題』と『維持すべき項目』に分けて、それぞれを把握しましょう。TQM活動の出発点となるプロセスなので、正確に行うことが大事です。
次に、把握した現状を土台として目標を設定します。目標は『具体的かつ現実的』に設定しましょう。あまりに目標が現状とかけ離れていると達成が難しくなり、修正を余儀なくされてしまうためです。
目標を立てる際には、評価の基準が明確な数字を使った『定量的目標』と、数値に頼らない『定性的目標』の両方を立てることが望ましいでしょう。
具体的な対策を実施
現状と目標の距離感が正確に測れたら、その距離を埋めるための具体的な対策の立案を行います。重要な点は、立案した内容を企業で働く全員がしっかり共有することです。
TQMは全社による品質管理で、そのためには目標達成の仕組みと同時に社員一人一人の意識も大切になります。対策の意義と役割、予想される成果を社員全員が共有することで、意欲的に業務と施策に取り組めるようになるでしょう。
社員全員が同じ認識を共有できてから、改めて施策を実行します。
成果を評価
対策を実施したら、定期的に成果を評価します。目標に届いたか否か、届かなかったとしたら何が要因なのかを分析して、従業員一人一人にフィードバックするのです。
このときに目標が明確でなければ評価があいまいになり、どこを修正すればよいか分からなくなってしまいます。目標を設定する際には、評価基準についても具体的に設定して社内で共有しましょう。
目標を達成できた場合には、その施策を基準として仕組みを改正していきます。TQMは取り組みの有益性を測るテストの側面もあり、評価と同時にシステムや施策についても改善していくことが求められるのです。
全体に共有
最後に、成果を含めた一連のプロセスを再び社員全体に共有します。TQMは経営者だけでなく管理者や監督者、従業員一人一人が参加した多岐にわたる活動であり、それぞれに対しフィードバックを行うことが効果につながるためです。
PDCAサイクルを回す、問題があった場合は再発防止の取り組みを行う、新たに効率的なプロセスを作り込むといった活動を行い、より品質やサービスの質を全社をあげて向上させていきます。
また、業務や業態によって評価基準や異なる改善策を探すことも重要です。TQMの活動は、企業ごとや業務ごとにそれぞれアレンジして実施しなければならないものといえるでしょう。
構成/編集部