人事管理手法の一つとして日本でも多くの企業が取り入れている、「HRM」。見聞きはしたことがあるものの、具体的な内容まで理解している人は少ないかもしれない。
そこで本記事では、HRMの意味を基本的な部分から解説する。他の人事管理手法との違いを意識しつつ、基礎的な概念を理解しておこう。
HRMとは?
前提として理解しておきたいのが、HRは「Human Resource」の略であること。日本語では、一般的に「人事」を意味する。では、「HRM」のMとはどのような意味なのだろうか。具体的な内容を見ていうこう。
HRMとは「Human Resource Management(人的資源管理)」の略
HRMとは「Human Resource Management」の頭文字を取った略語で、日本語では「人的資源管理」や「人材マネジメント」などと訳される。人材を有効活用するための仕組みを構築・運用していく管理体制で、1990年台半ばに台頭した。
「人材はコスト」という従来の考え方を改め、従業員を「経営資源」として捉えるのが特徴。近年日本では、少子高齢化や労働力の不足から、医療・看護業界における人事ソリューションとしてもHRMが注目されている。
HRMが「人」に焦点を当てる理由
HRMが人材を経営資源と捉える理由は、’’人の可能性’’にあると言われている。「モノ」や「カネ」の価値は、景気の動向など外的要因の影響を受けやすく、必ずしも将来価値が上昇するとは限らない。一方、「人」のスキルや成果は、研修や業務を通して成長する可能性が高い。このような理念を前提に、HRMでは人事制度を構築・運用していく。
HRMのメリットは?
HRMは、個人単位で適性や成果を一元管理し、各従業員に最適な人事体制を構築するシステム。従来からの横並び的な評価や配置とは異なり、’’個’’を重視するため、従業員の意欲向上につながりやすい。また、採用・配属・育成・評価・報酬などの人事的要素を、経営戦略の観点から管理することで企業目標の達成にも寄与する。
HRMにおける2つのモデル
HRMは、構成要素と目的の違いから「ハーバードモデル」と「ミシガンモデル」の2つに分類される。各モデルの概念と特徴を見ていこう。
1.ハーバードモデル
ハーバードモデルは、ハーバード大学の経営大学院「ハーバード・ビジネススクール」で提唱されたHRMモデル。企業から従業員への一方的な管理体制ではなく、協調的な労使関係を築くことに重点を置く。
従業員のモチベーション向上から生産性・品質の改善につなげる仕組みで、「従業員からの影響」「人的資源のフロー」「報酬システム」「職務システム」という4つの要素で構成される。
2.ミシガンモデル
ミシガンモデルは、ミシガン大学・コロンビア大学・ペンジルベニア大学などで構成される「ミシガン・グループ」が実施した研究に基づくHRMモデル。企業の戦略的経営は「使命と戦略」「組織構造」「HRM」の要素で構成されると定義し、HRMの経営戦略的な側面を重視する。
また、HRMの「採用・選抜」「人材評価」「報酬」「人材開発」の4機能に注目し、これらのマッチングを図ることで組織全体のパフォーマンス向上を目指す。ミシガン・グループが発表した著書『Strategic Human Resource Management』から、「SHRMモデル」と呼ばれることがある。
類似の管理手法との違い
人材マネジメントには、HRMの他にもいくつかのフレームワークが存在する。似たようなシステムでも、それぞれ趣旨や目的を異にする。HRMと比較しつつ特徴を比較してほしい。
タレントマネジメントとの違い
タレントマネジメントとは、1990年台にアメリカで考案されたマネジメントシステム。自社の優秀な人材(タレント)が持つスキルを把握し、そのパフォーマンスを最大化させる取り組みを指す。タレントマネジメントとHRMは、従業員の能力を管理する点で共通するが、前者は特に優れたタレントのみを対象とする傾向がある。
PM(人事労務管理)との違い
PMとは「Personal Management」の略語で、日本語で「人事労務管理」と訳される。ビジネスの安定性と業績向上に焦点を当て、人事労務の整備・管理を行う従来型のマネジメントシステム。PMの概念において「人」はコストであり、経営資源としての性質は重視されないことが多い。つまり、人材を重要な資源と捉えるHRMとは対照的な手法。
HCM(人的資本管理)との違い
「HCM(Human Capital Management)」は、人材を経営資源と捉え企業内の人材情報を一元管理する経営手法で、日本語では「人的資本管理」と訳される。教育経済学における「ヒューマン・キャピタル」の理念をもとに、人材育成を行い業績の最大化を図るのが目的だ。HCM とHRMは類似する部分も少なくないが、前者は「人」そのものではなく、従業員の能力やスキルを資源と捉える点に特徴がある。
文/oki