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『デマンド』を重視した考え方が、近年多くの業界で注目を集めています。デマンドの基本的な意味を知っておけば、業界ごとに異なる使われ方をしていても理解しやすくなるでしょう。言葉の意味や各業界での意味の違い、主な実用例を紹介します。
デマンドとは?
デマンドとは、消費者や顧客の要求を指す言葉です。具体的な意味や、間違えやすいニーズとの違いを解説します。
意味は「要求」「需要」
デマンドは、英語の『demand』を語源とする言葉です。『要求』『需要』の意味を持ち、「こうあればいいのに」「こうなっていれば便利だ」という人の欲求を指します。
従来の商品やサービスには、企業の理論が強く反映されていました。「この点が便利です」など、作る側の主張を重視していたことが特徴です。
しかし近年は、顧客側の要求をより重視する傾向にあるため、デマンドの概念が注目され始めています。
デマンドを重視する考え方は多くの業界に存在し、分野や業種ごとに少しずつ意味が異なります。ただし、消費者の要求を把握して企業が対応を検討する点においては、どの業界でも意味は同じです。
「ニーズ」との違い
デマンドと混同しやすい言葉に『ニーズ』があります。ニーズとは消費者が求めていることを指し、『要求』の意味を持つデマンドと意味を間違えやすい言葉です。
デマンドとニーズは、必要性の度合いが異なります。『なくてはならないもの』を意味するニーズに対し、デマンドは『なくてもよいがあったらよいもの』を意味する言葉です。
例えば、介護の現場におけるニーズは、利用者の状態に合わせた不可欠なサポートを指します。一方、利用者が自分でできることのうち、あれば便利だと思えるものがデマンドです。
考えられる全てのデマンドを満たすことが、顧客満足につながるとは限りません。ニーズを優先的に充足させた上で、デマンドへの適切な対応を考慮することが大事です。
よく耳にする「オンデマンド」とは?
動画配信サービスで近年増えている方式が『オンデマンド』です。ユーザーのリクエストに応える形でコンテンツを提供することをいいます。
要求に応じてサービスを提供すること
オンデマンドとは、利用者の要求に応じてサービスを提供する方式です。主にオンラインでの動画配信や、eラーニングのサービスで採用されています。
例えば、従来の動画配信はあらかじめ決められたスケジュールで配信されるのが基本です。一方、オンデマンド方式の動画配信では、利用者が決めた好きな日時に動画が配信されます。
ただし、動画をダウンロードして視聴するサービスは、オンデマンドとはいえません。需要があるタイミングで、端末にデータが保存されない動画提供の方式がオンデマンドです。
近年はオンデマンド方式を採用する動画配信サービスが増えているため、『オンデマンド=動画配信』と思われがちです。間違えないように注意しましょう。
各業界で使われる「デマンド」の意味
デマンドの考え方は、さまざまな業界で採用されています。業界ごとにデマンドの意味が違うことを押さえておきましょう。
医療・介護業界
医療におけるデマンドとは、『患者の精神的・肉体的な要求』を指します。「痛みを和らげたい」「自宅で診察してほしい」などが挙げられるでしょう。
ただし、医療の本来の目的は症状の改善です。必要な治療とは関係のないデマンドを満たすことで、症状の悪化を招く恐れもはらんでいます。
一方、介護業界のデマンドは『利用者が自分や家族でもできること』をいいます。デマンドを提供しすぎると、利用者や家族が自分でしたいことまで奪いかねません。
介護の現場では、デマンドの中からニーズをきちんと見極めた上で、適切なサービスを提供することが重要です。
リハビリにおけるデマンドとニーズ
リハビリでのニーズとは、専門家が客観的に必要と判断する回復プログラムを指します。一方、『患者の主観的な要望や欲求』がデマンドです。
例えば、足に痛みを抱えている患者のニーズは、痛みを軽減できる回復プログラムです。デマンドは「荷物を持って歩けるようになりたい」などの要望が考えられます。
デマンドをそのままニーズと捉えてしまうと、リハビリの専門性を放棄することになりかねません。デマンドの奥にあるニーズを探し出し、適切なプログラムを組むことが求められます。
電力業界
契約電力を決める際には、『デマンド値』と呼ばれる数値が使われます。デマンド値とは、30分間に使用した電力の平均値です。『需要電力』とも呼ばれます。
デマンド値は継続的に計測されているため、1日に48回分のデマンド値が記録されます。1カ月の中で最も数値の高いデマンド値が、電気料金の請求書に記載される『最大需要電力』です。
契約電力が500kW未満の場合、契約電力は最大需要電力の数値により上下します。契約電力が500kW以上なら、最大需要電力が契約電力を超えると違約金を支払わなければなりません。
最大需要電力は、1年間の基本料金を決める数値です。直近の最大需要電力を1年間超えなければ、次のピーク値次第では電気料金を下げられる可能性があります。
マーケティング業界
マーケティングにおけるデマンドとは、『支払能力を伴った需要』を意味します。
ニーズを反映した商品やサービスに購買意欲を持ってもらい、予算を考慮したデマンドに変化させる一連の流れがマーケティング活動の基本です。
消費者のニーズを満たし、購買意欲を喚起する商品やサービスを生み出せても、消費者に支払能力がなければ実際の購買行動は起こりません。消費者の購買力を考慮し、ニーズをデマンドまで導く必要があります。
消費者にデマンドを発生させるためには、適切な情報発信が欠かせません。商品やサービスの金額に見合った価値を、情報発信により消費者に分かってもらう必要があります。
IT業界
インターネットを利用すれば、さまざまなデマンドに対応できることがIT業界の特徴です。動画配信を始め、多くのオンデマンドサービスが存在します。
ITシステムを構築する際、必要な機能を随時利用できる環境が『オンデマンド・コンピューティング』です。従来のパッケージ型システムと異なり、即時性や柔軟性がより高まっています。企業の成長や時代の変化に合わせて、社内システムを柔軟に変化させられることが魅力です。
『オンデマンド経営』や『オンデマンド・エンタープライズ』などの経営戦略にもつながると考えられています。
デマンドサービスの実用例
利用者の要望に応えることを重視したデマンドサービスは、多くの分野で導入されています。主な実用例として『デマンドバス』と『オンデマンド印刷』を紹介しましょう。
定期路線を持たない「デマンドバス」
マイカーの普及や人口減少により、路線バスの利用者が減っている状況において、『デマンドバス』を導入する自治体が増えています。デマンドバスとは、利用者の状況に合わせて路線が変わるバスです。
デマンドバスでは、運行ダイヤや発着地をある程度自由に組み合わせられるため、さまざまな運行形態が存在します。
利用希望者が自宅や外出先からセンターに連絡し、その時点での最適な発着時間と場所が決まるものや、乗車時に降りる停留所を指定することで、降車客がいる停留所のみを最短距離で運行するものなどがあります。
デマンドバスは、利用者の少ない路線バスにかかるコストを削減する目的で導入されるサービスです。主要な公共施設にタッチパネルを設置したり、高齢者に予約用のスマホを貸与したりしている自治体もあります。
小ロットに適したオンデマンド印刷
印刷用の版を使用せずに印刷する技術が『オンデマンド印刷』です。デジタルデータを直接出力できるため、印刷時間やコストを大幅に削減できます。
小ロットで印刷したい場合や、印刷物が多種類ある場合に向いた方式です。単価を抑えつつ、納期も短縮できるでしょう。
色ムラが起こりやすいことや用紙に剥離や割れが生じやすいことが、オンデマンド印刷のデメリットです。1000枚以上の印刷なら、オフセット印刷の方がコストを大きく削減できます。
構成/編集部