2021年2月18日、歴史に刻まれるニュースが流れた。アメリカ航空宇宙局NASAの火星探査機Perseverance(パーシビアランス)※1が、火星の大地の着陸に成功したのだ。筆者も当日の朝方、眠気眼でスマホを見ていた一人だ。
NASAの火星探査機パーシビアランスとは?
紅白の着陸用のパラシュートが開いている様子、そして、茶色い火星の大地へと徐々に落下していく様子が映像として全世界に配信され、誰もが熱狂、感動したに違いない。
火星の大地に着陸したことを確認した際、歓喜に湧くNASAのスタッフの様子も言葉では言い表せない素晴らしいシーンだ。この様子は、以下のYoutube動画に見ることができるので是非ご覧いただきたい。
では、火星探査機パーシビアランスとは、どんな探査機だろうか。
火星探査機パーシビアランスは、火星における生命の痕跡などを調査するため2020年7月30日に打ち上げられた。NASAのジェット推進研究所JPLにより開発された探査機だ。この探査機には、7つのScience Instrument(科学機器)※2が搭載されているという。火星を科学的に分析するためだ。どれも高い技術が使われている。
では、この7つの科学機器を簡単に説明しよう。火星探査機パーシビアランスのロボットアームに取り付けられている、「SHERLOC」は岩などに含有される鉱物や有機化合物を調べることができるという。また、同じくこのロボットアームに搭載されている「PIXL」は、岩や堆積物の科学的組成を測量することが可能だ。他にも、ズーム機能のあるパノラマ、立体画像機能のあるハイスペックカメラ「MASTCAM-Z」、レーザーを岩に照射しそこから発生する蒸気から岩の組成を調べる「SUPERCAM」、地下の地理的特徴を調べる「RIMFAX」、火星のダストと大気を調査する「MEDA」、二酸化炭素大気から酸素を生成する「MOXIE」の科学機器が搭載されていて、今回も火星を科学的に解明する情報が世界へ発表されることだろう。
火星探査機パーシビアランスの科学機器などが説明されている動画がYoutubeにアップされている。ぜひご覧いただきたい。
さて、火星探査機パーシビアランスがこれだけ盛り上がっていると、今回火星に初めて着陸したのではないか、そんなことを思った方も多いのではないだろうか。実は、人類が、火星の大地に探査機を送るのはこれが初めてではない。実は、人類で初めて火星に到達したのは、旧ソビエト連邦だった。1973年に旧ソビエト連邦のマルス3号が史上で初めて火星の大地に着陸を成功させた探査機である。しかし、1分も立たないうちに通信が途絶えてしまったようだ。
それ以降の火星探査計画は、アメリカ主導の時代が続く。1997年以降、NASAは火星探査機バイキング、マーズパスファインダー、スピリット、オポチュニティー、フェニックス、キュリオシティ、インサイトが火星の大地へと着陸を成功させている。
今回、着陸に成功した火星探査機パーシビアランスは、搭載された科学機器によってさらに火星の謎が解明されることだろう。
※1 https://mars.nasa.gov/mars2020/
※2 https://mars.nasa.gov/mars2020/spacecraft/instruments/
実は、火星探査機パーシビアランスの着陸用パラシュートにTEIJINのすごい技術が活用されていた!
そんな火星探査機パーシビアランスの着陸には、日本のある企業が大きく関与している。その企業の名前は、TEIJIN(帝人)※3。 誰もが知っている大企業だ。「DAKEJA NAI TEIJIN」、こんなフレーズもCMも聴いたことがある、見たことがある、そんな方も多いだろう。TEIJINは、マテリアル、ヘルスケアの事業を軸として2019年度には、売上高8537億円を計上している大企業だ。
では、TEIJINは、NASAの火星探査機パーシビアランスのどんなところに関与しているのだろうか。それは、火星の大地へと着陸する際に開かれたパラシュートだ。このパラシュートのサスペンション・コードという吊り下げ用のコードとライザーというサスペンション・コードなどを連結させる帯の素材にTEIJINの製品が使われているのだ。この製品は、「テクノーラ」※4といい、パラ系アラミド繊維だ。繊維であるにもかかわらず、鉄の8倍の強度を持ち合わせているというすごい素材だ。このテクノーラは、耐衝撃性、耐熱性に優れているため、他には、ロープ、エンジンのタイミングベルト、航空宇宙関連などの分野で広く活用されている。
NASA火星探査機パーシビアランスに搭載された着陸用パラシュートにTEIJINのアラミド繊維「テクノーラ」が使用
NASA火星探査機パーシビアランスに搭載された着陸用パラシュートにTEIJINのアラミド繊維「テクノーラ」が使用 (出典:TEIJIN)
では、なぜ、TEIJINの「テクノーラ」が火星探査機パーシビアランスに採用されたのだろうか。実は、2012年に打ち上げられたNASAの火星探査機キュリオシティの着陸用パラシュートのサスペンションコードにも使われていたのだ。この実績を買われて、火星探査機パーシビアランスにも採用されたのだ。実は、宇宙ビジネス分野では、惑星探査機、人工衛星、ロケットなどに実際に搭載されて宇宙空間で正常に機能したという実績がとても重要になるのだ。
もう少し、このテクノーラのすごさをわかりやすく説明すると、火星探査機パーシビアランスに搭載されたパラシュートは、30トンを超える荷重、-63℃、砂塵嵐、大気電気という過酷な環境にも耐えることができるという。
このようなニュースを耳にすると、多くの日本企業は、興味を持つに違いない。いや、羨ましいと思うだろう。今回の火星探査機パーシビアランスで活躍したTEIJINのように、自社の製品、技術を宇宙ビジネスの分野へ売り込みたい、そう思うからだ。実は、筆者のこれまでの経験から、部品・部材、素材、加工などに強みを持っている企業の多くは、次の新規事業として宇宙分野を視野に入れているケースが多いと感じる。
しかし、NASA、宇宙航空研究開発機構JAXA、宇宙関連企業などとどのように繋がったら良いのか、どのように売り込んだら良いのか、自社の製品、技術が宇宙に使われるためには何をしたら良いのかなど、このような点で悩んでいる企業は多い。
筆者は、TEIJINの「テクノーラ」という素材のすごさを紹介したいのはもちろんだが、上記で申し上げたような多くの日本企業が宇宙市場の新規参入において悩んでいる点を先んじて昔から実施し、しっかりと火星探査という分野で実績を積み、火星探査機パーシビアランスへと継承し、成功している、このビジネス面でのすごさも読者に伝えたい、そんな思いで、この記事を執筆した。
※3 https://www.teijin.co.jp/
※4 https://www.teijinaramid.com/ja/products/technora/
文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。現在は各メディアの情報発信に力を入れている。