ホラー映画や小説が好きな人は、「カニバル」「カニバリズム」という言葉を聞いたことがあるはず。「共食い」を意味するこの言葉は、映画や小説ではグロテスクな題材として扱われることが多い。
しかし、ここから派生した言葉である「カニバライゼーション(カニバリゼーション)」はマーケティング業界などで一般的に使われているビジネス用語だ。本記事では、このカニバライゼーションがどのような意味を持ち、どんな場面で使われているかを詳しく解説する。
カニバライゼーションとは何を表す言葉?その由来と関連語
最初に、言葉としての「カニバライゼーション」に注目し、語源や意味、関連語について紹介しよう。もっともよく使われるマーケティング業界以外でも使われることがあるので、この機会に覚えてみては。
「共食い」を意味する英語が由来
冒頭で触れたように、カニバライゼーションの語源となっているのは「共食い」「人食い」を意味する英語の「cannibalization」。この言葉は、スペイン語でカリブ族のことを表す「Canib」がもとになっており、16世紀頃のスペイン航海士の間でカリブ族が人を食べる人種として認識されていたことに由来する。
ビジネス用語でカニバル、カニバるは「自社競合」の意味
ビジネス用語としてのカニバライゼーションは、自社の製品が他の自社製品の売り上げに影響を与えてしまう「共食い現象」や「自社競合」のことを指す。「cannibalization effect(カニバリゼーション効果)」と呼ばれることもあり、新商品の発売によって既存商品の売り上げが落ちてしまうケースがそれにあたる。カニバライゼーションを略して「カニバリ」、カニバライゼーションが起きることや回避することを「カニバる」「カニバらない」のような形で使うこともある。
カニバライゼーションと併せて覚えておきたい関連語
カニバライゼーションは、自社の2つ以上の製品がシェアを奪い合うことだが、これとまったく反対の意味を持つ言葉が「シナジー効果」だ。シナジー効果は相乗効果とも言い換えられ、2つ以上のものが互いに作用し合い、より大きな利益を生みだすことを表す。
一方、シナジー効果とは反対に相互にマイナスの影響を及ぼしてしまうことを「アナジー効果」と言い、意図せず起きてしまったカニバライゼーションはアナジー効果を生み出すとも言える。
ビジネスにおけるカニバライゼーションの問題点と対策とは?
では、カニバライゼーションが起きてしまうと具体的にどういった問題があり、それを防ぐためにはどうしたらいいのか、また、あえて意図的にカニバライゼーションを起こす「戦略的カニバライゼーション」についても解説していこう。
カニバライゼーションが引き起こす問題点
カニバライゼーションが企業にもたらすデメリットは、大きく分けて2つ。一つは、経営資源を効率的に利用できなくなるという点だ。一般的に、企業がシェアを拡大していくことは商品開発やプロモーション、仕入れなどの点で競合する他社よりも有利になるため、コスト効率が高まるメリットが生じる。そのため、特に小売りや飲食業界では次々に出店を行い、規模の拡大を積極的に行う傾向があるが、規模の拡大を重視して単純に店舗数を増やすだけでは同エリア内の顧客を取り合うかたちになったり、差別化されていない同じような店舗を複数展開するなど、無駄が生じやすくなってしまう。
もう一つは、カニバライゼーションが資源の浪費を招いた結果、企業としての競争力が低下する点。自社同士のシェア競争やバランス調整で時間や労力がかかり、積極的な経営が難しい状態に陥っている間に、他社が消費者のニーズを重視した事業戦略を展開した場合、シェアが奪われてしまう可能性がある。
カニバライゼーションを起こさないための対策
こうしたカニバライゼーションを起こさないために必要なのは、自社商品や店舗のターゲット層を明確に設定することだ。ターゲットの異なる商品を販売することで、競合を回避することができる。ただし、商品や店舗を展開していく上で、当初は想定していなかったターゲットに支持され、既存のものと被ってしまう可能性も否めない。そうした場合はターゲットの再設定、リポジショニングが効果的。
カニバライゼーションとは少し異なるが、清涼飲料水のポカリスウェットは当初スポーツドリンクとして販売されていたが、スポーツドリンクの市場が飽和状態になった際、新たに熱中症などの対策となる健康飲料としてプロモーションを行ったことで新たに売上を伸ばした例もある。
企業内で意思疎通を徹底することもカニバライゼーションを回避する上で重要なポイント。特に、日本に多いカンパニー制の会社は横のつながりが弱く、意図しないカニバライゼーションを起こす可能性がある。そのため、定期的な組織の見直しや情報共有を活発に行うなどの対策が有効だ。
戦略的カニバライゼーションとは
これまで紹介してきたカニバライゼーションは、意図せず起こってしまい企業にマイナスの効果をもたらすものだが、あえて意図的に起こす戦略的カニバライゼーションも存在する。自社製品同士で競争させることで企業全体の売上向上を目指す場合や、少しずつ異なった製品を複数販売してシェアの独占を狙う場合がこれに該当する。
コンビニチェーンなどでよく見られる、狭い地域に複数同じ店舗を出店し、その地域のシェアを拡大する「ドミナント戦略」も戦略的カニバライゼーションが起こった状態と言える。
文/oki