近年、人材採用や社員教育において注目される「コンピテンシー」という言葉。「会社が求める成果を達成するために必要な特性」を表すもので、時代の流れに伴い、学歴やスキル以上に重要視されつつある。
そこで本記事では、コンピテンシーという言葉の意味や、注目されるようになったきっかけなどについて解説する。今まで意味をきちんと知らずに使っていた人は、これを機に意味を理解してほしい。
「21世紀スキル」とも言われるコンピテンシーとは何か?
かつての日本は「年功序列型」の人事評価を行う企業が多く、年齢によって蓄積されたノウハウやスキルが評価に直結していた。しかし近年、「成果主義」を導入する企業が増えたことで、これまでの業績や成果だけでなく、そこにつながる特性としてコンピテンシーが注目されるようになった。
高い成果につながる行動特性のこと
コンピテンシーは、英語の「competency」が由来となった言葉だ。英語では「適性、資格」などを表すが、日本語の場合は「業務で高い成果を出す人の行動特性」という意味で使われることが多い。
業界や業務ごとに必要とされるコンピテンシーは異なるが、共通して求められるものとして、「冷静さ」や「仕事への誠実さ」、「ストレスへの耐性」などが挙げられる。
注目されるようになった背景は?
コンピテンシーという概念が初めて登場したのは、1970年代。アメリカ、ハーバード大学の心理学教授マクレランド氏が、「同等の学歴や知能レベルの外交官に業績の差が出るのはなぜか」を解き明かすための研究を行った。
その結果、高い業績を挙げた人には「環境対応力の高さ」や「人的ネットワークの構築力に優れている」など、いくつかの共通した特性があるということが判明。それを発表したのが始まりとされている。その後、1990年代にはアメリカの人材活用の場で活用されるようになり、時代の流れと共に日本の企業でも広く取り入れられるようになっている。
また、ビジネスの分野だけでなく教育においても、コンピテンシーはこれからの時代を生きるために必要な「21世紀型スキル」として注目され、何を理解するかだけではなく、得た知識をどのように生かし、活用するかに重点を置いた学習方法が増えつつある。
スキルやアビリティとはどう違う?
コンピテンシーと似た使い方をする言葉に「スキル」や「アビリティ」がある。これら二つの正しい意味を知れば、さらにコンピテンシーを理解できるはず。
スキルは、個人が持っている専門的や技術や技能そのものを指す。例えば、特定の分野の専門知識やパソコンの技術、英語力などがこれにあたる。
アビリティも意味としては技能や能力を表すが、スキルに比べて専門的な意味合いは弱く、身体的・精神的な能力や生まれ持った資質などもここに含まれる。
コンピテンシーは、こうしたスキル、アビリティを活用し、成果を上げるために必要な特性のこと。わかりやすく言うと、アビリティやスキルが車の性能、コンピテンシーがドライバーの技術のようなものだ。
様々な業界で注目されているコンピテンシー
一般企業だけではなく、看護や福祉、保育など専門性の高い業界においてもコンピテンシーの重要性は注目されており、今後も活用の場面は広がっていくと考えられる。では、具体的にどのような形でコンピテンシーが利用されているのだろうか。2つの例を紹介しよう。
コンピテンシー面接とは?通常の面接とどう違う?
一つ目が、企業の新卒採用や中途採用、国家公務員の採用試験などでも行われることが増えた「コンピテンシー面接」。従来の面接では、面接官の主観や第一印象によって偏った採用基準になることもあり、入社後に会社が求めるスキルや能力と乖離が生じてしまう点が課題として挙げられていた。
コンピテンシー面接では、すでに会社で業績を挙げている社員をサンプルとし、その社員の行動特性を指標として設定する。実際に活躍している人物の特性を指標とすることで、その組織が求める人材に合致するかを判断するものだ。
中途採用におけるコンピテンシー面接の質問として代表的なのは、「過去にどのようなかたちで社内トラブルを解決してきたか」「大きな業績を挙げた時の体験談」のように、特定の状況下で具体的にどういった行動を取ったのかを詳しく問われるもの。
こうした質問の対策としては、自分が困難や課題をどのように乗り越え、その後の経験にどう生かされたかをストーリー仕立てでわかりやすく話すこと。自分の持つ行動特性によって前向きな結果がもたらされたことを、きちんとアピールすることが大切だ。
実際の現場において大切なコンピテンシーモデルとは
コンピテンシーを実際の現場で活用するためには、まず「コンピテンシーモデル」として、理想となる行動特性の設定が必要。業界や職種によって求められる成果の内容は大きく異なるため、コンピテンシーにも定型はなく、現場ごとに独自のコンピテンシーモデルを作成するのが一般的だ。
コンピテンシーモデルの作り方は、大きく分けて3種類。企業側が理想とする人材に基づき、そこから細かい行動特性を設定していく「理想モデル」、企業の中で実際に高い業績を挙げている人材をモデルにして作成する「実在型モデル」、この2つの良いところを組み合わせた「ハイブリッドモデル」だ。
どのモデルの場合も、理想とする成果を導くための行動特性を正確に推測し、具体的な指標として設定することが効果的な運用の鍵となる。
文/oki