同一労働同一賃金のメリット
正社員と非正規社員との間で賃金や待遇の格差がなくなれば、企業はさまざまな恩恵を受けられるようになるでしょう。代表的なメリットを紹介します。
人材不足の解消が期待できる
少子高齢化や人口減少が進む中で深刻化する人材不足の解消は、中小企業をはじめとした多くの企業における喫緊の課題です。
同一労働同一賃金の実現により、非正規社員の待遇でも魅力を感じる人が増えるため、雇用が促進され人材不足の解消につなげられます。
自分のライフスタイルに合った働き方を選べるようになれば、出産や子育てで思うように働けなかった人にとっても、就労に対するハードルが低くなるでしょう。
会社が従業員に対して納得できる賃金を提示できるようになるため、従業員の定着率を高められることもメリットです。
非正規社員のモチベーションの向上
同一労働同一賃金が導入されることで非正規社員の賃金が上昇すれば、待遇への不満が減りモチベーションの向上につなげられます。
正社員との格差が縮まり、正当な評価を受けていることへの実感を持てるようになるため、仕事のパフォーマンスもより高まるでしょう。
非正規社員のモチベーションが向上すれば全体の底上げを図れることから、業務の効率化や生産性の向上が期待できるようになり、企業の業績アップにつながります。
非正規社員の能力向上
正社員と非正規社員の格差がなくなれば、非正規社員の勤労意欲が高まり、さらなるスキルアップを望めます。
能力や成果に応じた評価システムを構築している会社なら、非正規社員自身のスキルや実績が正社員と同様の評価を受けられるようになるため、より自己研さんに励む従業員も増えるでしょう。
非正規社員の能力が向上すれば、会社の業績向上が期待できるようになります。正社員と同等の教育訓練を受けられる状況なら、新たな能力が開発される可能性もあるでしょう。
同一労働同一賃金のデメリット
賃金や待遇の格差をなくすことで、企業側にいくつかのデメリットが発生することも考えられます。主なリスクを確認しておきましょう。
人件費の増加
正社員と非正規社員との賃金格差をなくす手段の一つとして、正社員の賃金を下げる方法があります。
しかし、同一労働同一賃金を実現するためとはいえ、全ての正社員の賃金を一律に下げることは、待遇改善策として適切とはいえません。
賃金格差をなくすためには、非正規社員の賃金を正社員と同レベルまで引き上げなければなりませんが、人件費全体が増加してしまいます。
資金に余裕のない企業や非正規社員を多く抱える企業は、人件費の高騰が経営を圧迫し、深刻な事態に陥る恐れもあるでしょう。
待遇差への説明義務
正社員と非正規社員の間で賃金格差がどうしても縮められないケースでは、その理由について従業員から説明を求められる可能性があります。
同一労働同一賃金のルールに従い、企業は従業員に対し待遇差についての説明を行わなければなりません。
説明義務をきちんと果たすためには、これまでの規定を見直したり、説明業務に適した人員を配置したりする必要があるでしょう。
このように、待遇差の説明には手間・時間・コストがかかる上、納得してもらえない場合は損害賠償請求に発展するリスクもあります。
正社員の賃金や新規雇用減少の可能性
どうしても人件費の高騰を抑えたい場合は、企業全体で賃金の再配分を行い、正社員の賃金を下げる方法があります。
能力や実績で評価するなら、賃金を据え置きたい社員と賃金を下げざるを得ない社員に分かれるでしょう。賃金を下げられた社員はモチベーションが低下し、離職してしまう可能性があります。
また、人件費の増加により新規雇用が難しくなり、新たな人材を雇えなくなるケースも考えられます。
同一労働同一賃金を導入する企業事例
同一労働同一賃金の実現に向けた取り組みを積極的に進めたことにより、一定の効果が得られている企業もあります。主な事例とそれぞれの概要を紹介します。
株式会社イトーヨーカ堂
関東地方を中心に総合スーパーを展開している株式会社イトーヨーカ堂では、パートタイム労働者や有期雇用労働者を事業に不可欠な存在と位置付け、正社員登用制度を整備しました。
基本給に関しては、正社員と非正規社員で異なっていた評価制度を一本化し、評価に応じたステップアップ制度の導入や役職登用も実施しています。
教育訓練や福利厚生なども、多様な働き方に合わせて適切に付与するシステムです。同一労働同一賃金の導入後は、パート社員から正社員に登用され、店長を任されるまでにキャリアアップした例も生まれています。
株式会社ブリヂストン
タイヤの製造・販売で知られる株式会社ブリヂストンでは、通勤手当のみしか支給されていなかった契約社員に、正社員と同水準の夜勤手当の支給を2018年より開始しています。
また、正社員のみ適用していた療養休職・法定を超える有給休暇・慶弔休暇などの制度を、20年4月から契約社員にも適用しています。
夜勤手当支給の取り組みは、採用競争力の向上や従業員数の増加につなげられたと分析されており、今後も契約社員に対する各種手当の支給を増やしていく予定です。
エフコープ生活協同組合
福岡県内で約50万人の組合員を抱えるエフコープ生活協同組合では、雇用形態にかかわらず賃金や評価の制度を同一にする改革を導入しました。
勤続年数に応じて基本給を支給されていたパートタイム労働者に関しては、正社員と同様の支給基準で基本給が決められるように変更しています。
賞与・手当・福利厚生・休暇制度についても、パートタイム労働者と正社員の支給基準は同じです。
これらの取り組みを進めたことにより、2006年度は約15%であった離職率が、19年度には約7%まで大幅に減少しています。
構成/編集部