市場の変化やニーズの多様化に伴い、近年多くの業界で顧客満足度(CS)向上の必要性が高まっている。製品やサービスの品質改善はもちろんのこと、その前提として組織体制の最適化を図る企業も少なくない。より良い製品やサービスの提供のために組織の改善を行うとき、一つの指標となるのが「ISO9001」だ。
本記事では、ISO9001がISO規格の中でどのような位置付けで、何を目的としているのかを解説する。
ISO9001とは
ISO9001とは、国際標準化機構が発行する品質マネジメントシステムの国際規格で、読み方は「アイエスオーキュウセンイチ」。製品の品質基準を定めたいわゆる「モノ規格」に対し、ISO9001は組織体制の基準を定める「マネジメント規格」に分類される。顧客満足度の向上を目標とし、一貫した製品・サービスの提供ができる仕組みを評価する規格だ。
ISO9001をベースに、食品の安全管理を目的とする日本品質保証機構の独自規格「ISO9001-HACCP」も存在する。
ISO9001の要求事項とは
ISO9001は、品質マネジメントの前提として(1)顧客重視(2)リーダーシップ(3)人々の積極的参加(4)プロセスアプローチ(5)改善(6)客観的事実に基づく意思決定(7)関係性管理という7つの原則を掲げている。では、企業がISO9001を取得するためには、どのような要件を満たす必要があるのだろうか。具体的な要求事項を簡単にわかりやすく解説する。
・組織の状況
適切なマネジメントシステムを構築するため、組織の現状と目的を把握。客観的な視点で現状を把握するために、一般的にSWOT分析が用いられる。
・リーダーシップ
組織内の権限を明確にし、組織のトップがリーダーシップを発揮しやすい環境を整備。これにより、全メンバーが一つの目標に向かって行動することができる。
・計画
現状分析で発見された問題点を踏まえ、組織の活動計画を策定。活動計画の目標を定めるにあたっては、内容が「具体的で達成可能」であることが重要なポイント。
・支援
マネジメントシステムの構築・維持に必要な経営資源の明確化。既存の経営資源の能力や問題点、外部から取得する必要があるものなどを明らかにする。
・運用
目標達成に向けた運用プロセスの計画・管理。マネジメントシステムの成果を得るため、プロセスの重要な部分を監視することが求められる。
・パフォーマンス評価
マネジメントシステムのパフォーマンスと有効性を評価。各部門の自己評価に加え、内部監査など他者による評価を行うことで、小さな問題点も発見しやすくなる。
・改善
評価によって発見された問題点を改善。マネジメントシステムのパフォーマンスを向上させ、効率的に目標達成するためには、継続的な改善が必要となる。
ISO9001取得企業にはどんなメリットがある?
企業がISO9001取得によって得られる最大のメリットは、企業の信頼度アップ。ISO9001の取得により、顧客から「世界基準を取り入れた企業」と認識され、信頼が得られる。また、良好なマネジメントシステムの維持は、コスト削減や顧客満足度の向上にもつながる。国際規格であるため、海外でのビジネス展開にも役立つだろう。
取得企業数はどれくらい?
日本適合性認定協会のデータによると、2021年1月時点における国内のISO9001取得企業数は26,848社。大手グローバルカンパニーだけでなく、中小企業や医療機関においてもISO9001を取得する傾向が伺える。
日本適合性認定協会:https://www.jab.or.jp/
ISO9000とは何が違う?
ISO9001を含む、品質マネジメントシステムに関する一連の規格群を総称して「ISO9000シリーズ」と呼ぶ。ISO9000は、ISO9000シリーズの中で使用される用語の説明や基本事項をまとめた総則的な規格のこと。つまり、要求事項を定めたISO9001の前提となる規格だ。
ISO9001の取得方法
ISO9001の取得には、(1)マネジメントシステムの構築(2)ISO審査機関による審査という2つのステップを経る必要がある。マネジメントシステムは、自社で構築する方法とコンサルティングに依頼する方法があり、構築までの期間や費用を考慮して決定することが重要。
費用
ISO9001取得にかかる費用は企業の規模によって異なるが、マネジメントシステムの構築にかかる費用相場は、およそ5万円から15万円と言われている。マネジメントシステム構築後、ISO審査機関による審査費用は30万円から100万円ほどが相場。マネジメントシステムの構築を自社で行うか、ISOコンサルティング業社に依頼するかによっても費用は異なる。
ISO9001取得の注意点
ISO9001の取得は、顧客満足度向上に向けた体制作りに役立つが、明確な目的意識を持たずに取得するとかえって組織の負担となってしまう。認証マークの取得自体を目的としていたことから、その後維持ができずに、更新をやめた企業も少なくない。
また、認証取得後も継続的に審査が行われるため、マネジメントシステムの維持管理やデータを文書化しておかなければならない点にも注意が必要だ。文書化やISO担当者の負担増大などが原因で、業務効率の低下を招くケースがあることに留意したい。
文/oki