クロージングとは、「閉める」を意味する英語「クローズ(close)」の派生語。日常ではあまり馴染みのない言葉だが、ビジネスの世界ではよく利用されている。飲食店などの店舗では「締め作業」の意味で使われることもあるが、ビジネスシーンでは接客を伴う販売や営業の場面で、「購入や契約成立の過程」を表す言葉として用いられる。
本記事では、まずクロージングの意味を解説した上で、クロージングを行う上でのポイントや効果的な取り組みを解説する。
ビジネス上の取引において大切なクロージング
顧客との取引の中でも、特に重要と言われるクロージング。「クロージングをかける」は一般的に「契約をもらってくる」という意味で使われるため、契約が成立したあるいは購入が決まったこと自体をクロージングと考える人もいるが、実は「契約成立に至るまでのアプローチやヒアリングといった行動全体」が含まれる。
営業でのクロージングは何を指す?
営業の場面でのクロージングは、取引成立に至るまでに必要な工程のこと。契約するかどうか迷っている顧客に対して最後の一押しをする決め手であり、上手なクロージングを行うことで契約の可能性がグッと高まる。よく利用されるクロージングをいくつか紹介しよう。
・顧客に選択肢を与える
いくつかのサービスや商品の中から、「AとBがありますが、どちらがよろしいですか?」と、顧客が自分で選択できる余地を与えることで安心感を持たせ、契約に対する不安を和らげる効果がある。ただし、選択肢が多すぎると逆効果になる場合もあるため、3つ程度が望ましいとされる。
・導入した事例を具体的なメリットと共に伝える
「先日こちらを導入した◯◯という店舗からは、売り上げが上がったとのお声をいただきました」のように、実際に商品やサービスを利用した企業の例を挙げる。担当者の言葉だけではなく、こうした具体的例と共にメリットを伝えると顧客にもイメージが沸きやすくなる。
M&A用語としてのクロージングとは
企業の合併と買収を意味するM&A。これを行う際に使われるクロージングは株式譲渡や事業譲渡といったM&A取引が実行され、経営権の移転が完了することを指す。
クロージングに至るためには、売主と買主の間で合意した最終契約書に記載された条件が満たされていることが必要。重要な役員からの同意があること、業務上の許可や認可がきちんと取得されていることなどが条件に挙がることが多い。
アパレルに代表される販売業界におけるクロージングとは
アパレルや化粧品など、接客を伴う販売をする際にもクロージングは大切な要素。ネットショッピングが一般的となり、販売員の声掛けを不必要と感じる人も増えている中で、近年、上手にクロージングをして気持ちよく買い物をしてもらうことの重要性が実店舗では見直されている。顧客に対して商品やサービスを提案するという意味では営業と同じで、クロージングの手段も基本的には共通しているが、ここでは特に販売において代表的なものを挙げてみたい。
・この商品が自分にとって必要なものだと認識させる
商品の必要性をアピールするには2つの方法がある。相手の悩みや要望をきちんとヒアリングした上で、「この商品なら、◯◯できますよ」というメリットを強調し、購入したい意欲を高めるのが「メリット訴求」。反対に、「◯◯を解決するには、この商品がおすすめですよ」のような形で、デメリットを回避できるという点を強調するのが「デメリット訴求」だ。
・その商品を購入した未来を想像させる
洋服の場合、「今日のスカートにもピッタリの色合いですね」「〜〜なものにも合わせやすいですよ」のように、今持っているアイテムとのコーディネートを提案するなど、「商品を購入したらこういう未来がある」ということを伝える。そのイメージに納得できれば、購入への意思が固まりやすくなる。
クロージング力をつけるために効果的な取り組み
ここからは、クロージング力を高めるのに効果的な「テストクロージング」や、具体的なクロージングトークの例文を紹介しよう。
クロージングの成功率を高めるテストクロージングとは
クロージングに入る前に、顧客に成約の意思を確認する方法を「テストクロージング」と呼ぶ。商談の場合は、このまま契約へ進めて良いか確認する行為も含まれる。
例えば、「これから具体的な商品の説明に入りますが、この時点で商品に魅力を感じていただけましたか?」や、「ここまでで何かご不明な点はありますでしょうか?」のように、途中で顧客がどの程度成約に気持ちが向いているか、成約を迷っている点は何なのかを具体的に知ることで、より効果的なクロージングを行うことができる。
効果的なクロージングトークの例文
では、営業や販売の場面で一般的によく使われるクロージングトークの例を見てみよう。
【営業の場合】
「この商品を導入したら、今お悩みの〜〜が解決できませんか?」
「A様のご希望に合致するのは、弊社のこのサービスしかありません」
「もし購入するなら、AとBではどちらにされますか?」
【販売の場合】
「こちらの商品は大変人気で、すぐに品切れになってしまうんです」
「お客様のお肌には、この色が一番よくお似合いですよ」
「期間限定商品なので、早めのご購入がおすすめです」
営業上手は恋愛上手?恋愛におけるクロージングとは
恋愛と営業はプロセスがとても似ていると言われる。ビジネスにおけるクロージングは「購入や成約の成立」が明確なゴールだが、恋愛に置き換えると「恋人になる」がそれにあたる。
営業でも使われる「イエスクロージング(小さなイエスを重ねることで前向きな気持ちを持たせる)」などは恋愛においても有用で、例えば「駅の近くに美味しい店があるので、ランチに行きませんか?」というように相手が答えやすい要求を繰り返し、少しずつ距離を縮めていくテクニックとして使える。
これに限らず多くのクロージングが恋愛にも応用できるが、ビジネス同様、一方的な押し付けではなく相手の意思の確認が重要だという点は言うまでもない。
文/oki