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【開発秘話】累計1万2000個以上売れているKEYUCAの「N撥水シェルリュック」

2021.01.26

■連載/ヒット商品開発秘話

 首都圏を中心に全国50か所で営業しているライフスタイルショップのKEYUCA(ケユカ)。インテリア関係のものから衣類、生活雑貨など自社商品を幅広く販売しているが、いま売れているものの1つが『N撥水シェルリュック』である。

『N撥水シェルリュック』は2019年9月に発売。撥水加工を施したナイロン生地を使っており、シンプルなデザインが特徴だ。S,M,Lの3サイズを揃えており、ブラック、グレー、ネイビーブルーの3色を用意。2020年11月時点で累計1万2000個販売している。

「女性=トートバッグ」ではなくなった

『N撥水シェルリュック』が企画されたのは2019年4月頃。それまでは、春夏と秋冬の半期ごとにバッグの新商品を発売してきたが、長年にわたり売り続けられる「定番」と呼べるものがなかったことから、定番のバッグをつくる目的で企画された。

 定番のバッグをつくるに当たりベースにしたのが、『agシェルリュック』。旅行などカジュアルな用途で使う当時のケユカの人気商品で、形が貝のようにつるんとしているところからシェルリュックと名付けられた。

 しかしケユカではリュックのほか、トートバッグなども扱っている。なぜ、リュックで定番をつくることにしたのか? ケユカを展開する河淳で『N撥水シェルリュック』を企画した藤元香保里さん(ケユカ事業部開発業務部商品開発グループ)は、その理由を次のように話す。

「スニーカー通勤やオフィスカジュアルが言われるようになるにつれて、いままで通勤にトートバッグを使っていた女性がリュックを使うようになってきました。ケユカでは女性向けのバッグを、トートバッグをメインに展開してきたのですが、リュックを使う人が増えてきたことで売れ行きもリュックにシフトしてきた感がありました。『女性=トートバッグ』ではない、と肌で感じられつつあったので、売れ行きが伸びてきたリュックでバッグの定番商品をつくってみることにしました」

 こうして『N撥水シェルリュック』は、『agシェルリュック』のシルエットを崩すことなく、定番として長く使ってもらえるような機能をプラスする形で進められることになった。

河淳
ケユカ事業部開発業務部
商品開発グループ
藤元香保里さん

簡単にできるだろうと思われたが……

『agシェルリュック』と『N撥水シェルリュック』の最大の違いは、外側のオープンポケットの有無。前者はオープンポケットがなく、サイドと背面にファスナーポケットが配置されているが、後者は正面と左右両サイドにオープンポケット、背面にファスナーポケットを配置している。左右両サイドのポケットはファスナーを開くとマチが拡張する。

 内ポケットも異なる。『agシェルリュック』は、大きなものが2つにタブレットなどをしまうのに最適なクッション付きポケットが1つという仕様だが、『N撥水シェルリュック』は、クッション付きポケットは同じものの2つのポケットのうち1つが上下2分割され、下側をメッシュポケットにした。

N撥水シェルリュック(手前)とagシェルリュック(奥)の比較。N撥水シェルリュックはオープンポケットが正面と左右両サイドにあるものの、agシェルリュックのシルエットを壊すことなく踏襲した。また、N撥水シェルリュックはカジュアルになりすぎないよう、ファスナーのところの引き手にブラックの合皮を採用したが、シンプルなデザインの中でアクセントとなるよう、長めにした

N撥水シェルリュック(手前)とagシェルリュック(奥)の内ポケットの違い。N撥水シェルリュックの方にはメッシュポケットが確認できる

『agシェルリュック』に機能を追加する形で開発を進めたので、当初は簡単にできるだろうと思われた。しかし、開発を進めていくうちに、難しさに直面する。

 その1つが縫製。ファスナーがサイドに回り込むところなどはオープンポケットが追加されて生地が厚くなったこともあり、縫製が難しくなってしまった。藤元さんは図面をもとに紙でモックアップ(実物大模型)をつくり、手を動かして縫製の課題解決を模索したという。

工場への冒険的な発注数量で価格を下げる

『N撥水シェルリュック』はS,M,Lの3サイズで展開しているが、ケユカが1つのバッグで複数のサイズ用意したのは、これが初めてであった。3サイズで展開することにした理由を、藤元さんは次のように話す。

「誰に対しての定番のバッグをつくるかを考える中で、年齢も男女も問わない誰にでも使いやすいバッグをつくりたい、と話が進んでいきました。そうなったとき、1サイズだけだと絶対に合わない人が出てくるんです。そこで、何サイズあるといいかを検討したのですが、5つも6つもつくると、どのサイズを買ったらいいか悩んでしまうことから、そんなに悩まず選べるよう3サイズつくることにしました」

 サイズ表記は一般的なリッター表記ではなく、S,M,Lと表記することに。Sサイズは子どもや荷物が少な目の女性、Mサイズは女性、Lサイズは男性もしくはやや荷物が多い女性がユーザーのイメージだ。サイズのバランスや容量のバランスは、サンプルをつくりながら調整。ポケットの数や配置は全サイズ共通で、どのサイズを選んでも機能に違いはない。

Sサイズに入る荷物の量(一例)。容量は約5.3リットルに相当する

Mサイズに入る荷物の量(一例)。容量は約12.3リットルに相当する

Lサイズに入る荷物の量(一例)。容量は約17.5リットルに相当する

 また、価格については、『agシェルリュック』が4900円(税抜)なのに対し、サイズが近いMサイズは3990円(同)とすることにした。機能がアップしたにもかかわらず安くすることにしたのである。

「定番のリュックをつくるための会議を社内でしていたときに、『定番にするなら多くの人が手に取りやすい価格帯に下げるべきだろう』という意見が出たことから、『agシェルリュック』より1000円ほど値下げすることにしました」と安くすることにした経緯を明かす藤元さん。大量につくり、1個当たりの価格を下げることにした。「ケユカにとっては冒険的な発注数量」(藤元さん)を工場に指示したという。

 工場に大量発注するということは、材料のナイロン生地を大量に使用するということでもある。そこで、同じ生地を使った新商品として『N撥水ツインショルダー』と『N撥水ミニサコッシュ』の2つもつくられることになった。

N撥水ツインショルダー。カラーは写真のブラックのほかグレーも揃えている

N撥水ミニサコッシュ。カラーは写真のグレーのほかブラックも揃えている

同じ生地でつくった別のバッグと一緒に並べる

 秋の行楽シーズンに間に合わせるべく9月に発売された『N撥水シェルリュック』は、店頭で『N撥水ツインショルダー』と『N撥水ミニサコッシュ』を一緒に並べることを基本にした。これには2つの狙いがあった。

 第1の狙いは、来店客の目を惹きつけること。リュックだけでなく同じ生地でできた商品も置き、N撥水シリーズとして面で展開することができれば、来店客の目を惹くことができると判断した。

 第2の狙いは、値段が「高い」というケユカのイメージを少しでも払拭すること。ケユカの商品は、デザインはいいが値段が「高い」というイメージを持たれることがある。しかし、『N撥水シェルリュック』のほか、『N撥水ツインショルダー』が2900円(税抜)、『N撥水ミニサコッシュ』が1900円(同)と、中には手頃な価格で買えるものがある。それらをまとめて店頭に並べ面で展開することで、「高い」というイメージの払拭を目指すことにした。

 前例がない量をつくり店頭に並べた『N撥水シェルリュック』であったが、初回生産ロットはすぐ完売し、一時的に欠品を起こしてしまった。

 そして2020年にから、シーズンごとの特別モデルを投入する。春夏シーズンは現在も販売されているネイビーブルーを発売。売り切れ次第販売終了の予定だったが、好評だったことから販売を継続している。秋冬シーズンはキルティング生地でつくった『N撥水シェルリュックⅣM_キルト_BK』を発売したが、こちらも好評で、売り切ってしまった。

N撥水シェルリュックⅣM_キルト_BK

取材からわかった『N撥水シェルリュック』のヒット要因3

1.シーンを選ばず使える

 普段使いや旅行だけでなく、通勤にも使える。シーンを選ばずオン/オフどちらでも使えるので、使い勝手が良い。

2.コストパフォーマンスが高い

 Mサイズで3990円(税抜)と、ベースになりサイズ感が近い『agシェルリュック』より1000円近く安い。機能がアップしたにもかかわらず安いので、コストパフォーマンスが高い。

3.購入希望者の取りこぼしが少ない

 1サイズしかなかったら、気に入ってもサイズが合わなければ諦めることになる。しかし3サイズ用意することで、サイズが理由で購入を諦めることが少なくなり、購入希望者の取りこぼしが起きにくくなった。

 ユーザーの中には夫婦で共有したりサイズ違いでお揃いのもの買ったりする人がいるほど。中には「最強のマザーズバッグ」と評する女性ユーザーや、「最高のバッグ」とべた褒めするミニマリストもいる。シンプルで使いやすいがゆえの高評価である。

製品情報
https://www.keyuca.com/shopping/user_data/shellruck200213.php

文/大沢裕司

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