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複数の当事者がいる取引において、一方が有利になり、他方が不利益を被ることを「利益相反」と呼ぶ。読み方は、「りえきそうはん」。
さまざまなシーンで起こりうるため、特に珍しいことではないが、ビジネスで利益相反取引が発覚した場合、大きな問題に発展し、罪に問われる可能性もある。
そこで本記事では、利益相反取引の定義やさまざまな場面での具体例、事前に必要な承認決議について解説する。
利益相反とは?わかりやすい定義と具体例
はじめに、利益相反とはどういう状況を指す言葉なのか、事例とともに見ていこう。利益相反は、企業やその取締役が関係するビジネス上の取引で起こることが多いが、遺産相続など身近な場面でも起こり得るものだ。
利益相反とは複数の当事者の利益が競合、あるいは相反すること
利益相反とは、先述の通り、当事者間の利益と不利益が相反する状態にあることを指す。
一般的な利益相反の言葉の意味としては、これを理解しておけば十分だが、特に企業間の取引などで「利益相反」が使われる場合は、会社法にからめた専門的な知識が必要となるケースもあるため、概要を押さえておくと良いだろう。
会社における利益相反は「利益相反取引(COI)」を意味するケースが多い
利益相反取引とは、読んで字の如く「互いの利益が相反する取引」という意味。英語の「Conflict of Interest」の頭文字を取ってCOIと呼ばれることもある。
取引の当事者同士が共に利益を得られるのではなく、どちらかが不利益を被ることになる取引を指す。特に問題となりやすいのは、1人の人間が2つの役割を同時に持つ場合だ。例えば、AとBの間で取引が行われる際に、AがBの代理人をするという「自己契約」や、第三者であるCがAとB両方の代理人となる「双方代理」は利益相反の一種にあたり、民法第108条で禁止されている。
また、株式会社における利益相反は、取締役と会社の利害が相反する場合のことを言う。では、この会社内で起こる利益相反取引について、もう少し詳しく見ていこう。
利益相反は直接取引、間接取引双方で生じる
利益相反が起こる取引には、直接取引と間接取引の2種類がある。直接取引とは取締役が「直接会社」と契約を行う当事者である場合のことを言い、具体的な例としては以下のようなものがある。
【利益相反の直接取引の例】
・取締役と会社の間の売買契約
・会社から取締役への財産の贈与
・取締役から会社への金銭の貸付(利息が発生する場合)
また、取締役が会社以外の第三者と取引契約を結ぶ場合であっても、結果的に会社と取締役の間の利益が相反することがある。これを「間接取引」と言い、以下のような例がある。
【利益相反の間接取引の例】
・会社が取締役個人の第三者との間に生じた債務を保証する
・会社が取締役個人の債務を引き受ける
会社の重要な事項を決定する立場にある取締役は、これらの場合、個人的な利益を優先し会社にとって不利益になる取引を行うこともできてしまう。つまり、会社における利益相反取引の判断基準は「取締役個人にとってのみ有益で、会社にとっては不利益にしかならない取引」であるかどうかだ。
取締役が利益相反取引を行う場合は会社の承認が必要
先述した通り、利益相反取引は会社にとって不利益をもたらす可能性がある。しかし、利益相反取引すべてが悪いとは言えない。例えば、取締役の所有する建物を会社の事務所として賃貸借契約するなど、必要なケースもある。そのため、法律で全面的に禁止するのではなく、会社の承認を得られれば行って良いというルールになっている。
会社法における利益相反取引の承認決議とは
利益相反取引の承認には、取締役を設置している会社であれば取締役会、設置していなければ株主総会の決議が必要。取引の内容を開示し、説明を行った上で承認を行い、過半数の賛成があれば承認されたことになる。
仮に、会社と取締役の間で不動産の売買が行われた場合、利益相反取引が承認された証明となる書類(取締役会、株主総会の議事録)を法務局に提出しなければならない。取締役会非設置の会社の場合、「株主全員の同意書」も認められているが、全員の押印や印鑑証明が必要になるため利用されるケースは少ない。
承認がない場合の利益相反取引の効力は?
株主総会や取締役会の承認がない利益相反取引は、原則として無効。しかしその場合、取引の対象となった第三者に不利益が生じる可能性もあるため、取引を無効にする際には「対象の第三者が利益相反取引の承認がされていなかったことを知っていた」あるいは「知らなかったこと自体に過失があった」ことを証明する必要がある。
なお、親会社と完全子会社の間で行われる取引や、取締役が会社の100%株主であった場合の取引など、承認が不要なケースも存在する。
その他、利益相反の例としては、親会社と子会社がどちらも株式上場をしている「親子上場」において、親会社が子会社の総株主議決権の過半数を有することにより、親会社の利益が優先されやすくなる事例などが挙げられる。
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会社以外の場所で起こる利益相反とは
ここまで、会社と取締役の間で起こる利益相反取引について見てきたが、これ以外にも身近なところで利益相反が生じるケースがある。特に遺産相続に関連する利益相反は該当する人も多いかもしれない。
医療・研究における利益相反の例
医療の分野でも利益相反取引が生じるケースがある。主に医学研究の分野において、外部との利益関係から研究が正当に行われない状態のことを指す。
具体的には、資金提供を受けている製薬会社などの企業に有利な研究を行ったり、企業側の不利益になるような臨床結果が公表されなかったりする例が挙げられる。これは、本来研究によって利益を受けるべき「患者」と、「研究者や企業の利益」が相反している状態だ。
遺産相続における利益相反の例
遺産相続の際、相続人が二人以上で、その中に未成年者が含まれる場合には、利益相反が起こる可能性がある。遺産の相続者が故人の配偶者と未成年の子供である場合を例として挙げてみよう。遺産分割協議に未成年は参加できないため、通常は親である故人の配偶者が代理人になる。しかし、この場合は配偶者自身も被相続人になっているため利益相反が生じる。こういった場合は、家庭裁判所に代理人の選定を要求し、第三者を代理人として立てる必要がある。
大学における利益相反の例
大学における利益相反の例は、大学と政府・企業などが共同で研究開発を行う場合(産官学連携活動)に問題となるケースが多い。
具体的には、学生側が企業から知的財産保護の目的で長期間の機密保持を迫られるケースや、大学側が企業などの外部から金銭的利益などを得ることで研究の客観性・教育の公平性に影響を及ぼすことなどが挙げられる。
文/oki