再度の緊急事態宣言でますますテレワークが浸透する中、仕事をする中でなかなか集中力が続かないというときもあるのではないだろうか。さまざまな対策が言われているが、何をやっても解決しないという場合の対処法や成功事例を精神科医に聞いた。
対策を実践しても集中力が途切れる原因
テレワーク中、仕事への集中力を切らさないための対策として、よく「スーツに着替える」「スケジュールをきっちり区切る」などの方法がいわれているが、どれを試しても集中力が続かないということはないだろうか。果たして、その原因は? 精神科医であり産業医でもある井上智介さんは次のように話す。
【取材協力】
井上智介さん
島根大学を卒業後、現在は精神科医としてクリニックにも勤務する傍ら、産業医として毎月30社以上を訪問。全ての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから「ラフドクター」と名乗り、SNSや講演会などで活動し、2冊の著書もある。
「1万人超を救ったメンタル産業医の 職場での『自己肯定感』がグーンと上がる大全」
「集中力をコントロールするには、内的誘因と外的誘因の面から考える必要があります。在宅勤務がはじまって、さまざまな工夫をしても何ら解決しないのであれば、おそらく外部誘因へのアプローチに偏っているのではないでしょうか。つまり集中力が続かないのは、内的誘因が問題であることが考えられます。実は人間の行動の動機は、快楽を求めるのではなく、いまの苦痛から逃れたい衝動が多いのです。仕事内容がむずかしかったり、興味が持てなかったりして退屈ならば、逃れたい欲求がより強くなるので、集中力が途切れてしまうのです」
集中力を保つには?
それでも仕事はこなさなければならない。そんなとき、集中力はどう保つことができるのか。
「すぐに集中が切れてスマホを見たくなるなどの衝動を無理に抑えると、そのぶんリバウンドして、その後には抑えきれない大きな欲求がくるため、賢明な方法ではありません。まずは、その衝動や欲求を否定せず、自分で認識して受け入れることです。そのためには、集中力が切れる直前に起こる『落ち着かない、不安、イライラ』などの不快な感情に注意してください。
このときの自分を誰かに説明するかのように、『私は退屈を感じて、YouTubeを開こうとした』などをノートに書き込み、自分の衝動に対する行動をリストアップしてください。これを続けることで、集中力が途切れる『不快な感情』に気がつくようになってきます。そこで、次の段階として、不快な感情に気がついたとき、そのまま何もせず5分間『悪いことじゃないけど、今すべきことじゃないよ』とじっと言い聞かせてください。その不快な感情がゆっくり落ち着くのを待ちましょう。5分でダメそうなら、10分続けてください。このようにすることで、その衝動は直(じき)に落ち着き、また集中して仕事ができるようになります」
集中できなかった人が集中できるようになった事例
そこで井上さんに、仕事に集中できなかった人が、一工夫することで集中できるようになった事例を3つ挙げてもらった。これもヒントになりそうだ。
●夫婦一緒のスケジュールを設定する
「1人で作業をすると集中が途切れるので、在宅勤務の奥さんと一緒のスケジュールで『今から50分集中する』などのお互いに良いプレッシャーをかけ、集中して仕事ができるようになった人がいます」
●「SNSを開いたら1,000円払う」ルールを設定
「自分を追い込む意味で、奥さんに『今日の午前中の在宅勤務で、明らかに仕事に関係ないSNSなどを開いてるの発見したら、1,000円をお小遣いで渡す』というルールを決めて、集中力できるようになった人がいます」
●「絶対に集中を切らさないキャラ」になる
「自分で『キャラ』を作り上げることで、集中力できるようになった人がいます。その方は、PCの前など仕事中でも目に見えるところに『絶対に集中を切らさないキャラ』という付箋を何枚も貼ってキャラになりきっていました。そして、そのキャラになるために、事前に『顔をパンパンと2回たたく』などルーティンを決めることでスイッチを入れて、継続することで自分の中でそのキャラ付けを毎日のように強化していたことが功を奏していました」
テレワーク中に、対策をやっても集中力が続かないと言う場合は、内的誘因に目を向けたり、今回紹介された対策を実践してみるのもよいのではないだろうか。
取材・文/石原亜香利