■連載/石野純也のガチレビュー
ソニーモバイルが、SIMフリースマホのラインナップを強化している。今回取り上げる「Xperia 1 Ⅱ」も、その1つだ。同モデルは、Xperia初の5Gモデルとして、ドコモやauから発売されたが、2020年10月30日には、ソニーモバイル自身が販売するSIMフリーモデルが登場した。カラーバリエーションには、キャリア版にない「フロストブラック」が加えられている。
単にキャリア版のSIMロックを外したものではなく、スペックも進化している。見た目や寸法は同じだが、SIMカードを2枚挿しできる「デュアルSIM」に対応。目に見えない部分では、対応周波数が各キャリアモデルより増えており、ドコモ、au、ソフトバンク3社の5Gを利用可能。ストレージ(ROM)やメモリ(RAM)も増強されている。
では、SIMフリー版のXperia 1 Ⅱは、どの程度キャリア版と違いがあるのか。実機を購入した筆者が、使用感等をお届けする。
デザインや内蔵アプリはよりシンプルに、潔さが魅力のSIMフリー版
SIMフリー版とはいえ、同じXperia 1 Ⅱ。外観という意味でのデザインの差は、非常に少ない。ノッチのない角ばった外観で、本体は薄く、ソリッドな印象だ。フレームはアルミだが、光沢感の強い塗装が施されており、ステンレスのような高級感がある。今回購入したのは、ドコモ版に採用されたのと同じパープルだが、光の当たり方によってはシルバーにも見える色合いで、派手さが抑えられた上品な仕上げだ。
今回はパープルを選択した。光の当たり方によってはシルバーに見える
キャリア版との違いは、背面に刻印されたロゴになる。ドコモ版は「docomo 5G」のロゴが、au版は「au」のロゴが、背面下部に配置されているが、SIMフリー版は「Xpreia」の文字のみ。元々、かなり薄い色で、光り方によっては見えないこともあったが、よりシンプルになった格好だ。背面の仕上げが上質なこともあり、やはりロゴは少ない方がうれしい。好みはわかれるかもしれないが、FeliCaマークも、NFCマークに置き換えられている。ただし、おサイフケータイにはもちろん、対応する。
非常に薄くプリントされているため見えづらいが、背面下部にはXperiaのロゴだけが記載されている
シンプルという意味では、ソフトウエアもそうだ。キャリア版はそれぞれのキャリアに必要なアプリがプリインストールされているが、SIMフリー版は基本的に、ソニーやソニーモバイルのアプリと、Googleのアプリが中心。ドコモ版のように、ホームアプリが別にインストールされているということもない。キャリアが提供する、スマホの利用に必須なアプリは、ソニーモバイルのものか、Googleのものに置き換えられている。例えば、電話アプリはGoogle製だ。
ソフトウエアもシンプルで、キャリア系のアプリは一切プリインストールされていない
使わないサービスのアプリまで、すべてまとめて入っているキャリア版よりすっきりしている印象を受けたが、必要なものは手動でインストールしていかなければならない。とはいえ、キャリアIDのオープン化に伴い、SIMフリースマホへの対応は以前よりもしっかり行っている。筆者は今回、ドコモとワイモバイルのSIMカードを挿して使っているが、基本的に、利用できなくなったサービスはない。
例えば、ドコモメールやd払いなどのアプリはGoogle Playからダウンロードできたし、dアカウントの設定も、SIMフリー用のアプリが用意されていた。d払い(iD)については、iDアプリからドコモ回線を通して設定することが可能。ひと通り、ダウンロードや設定は必要になるが、それさえ済めば、キャリア版のXperia 1 Ⅱと大きく使い勝手は変わらない。
ネットワークサービスは一部手動での設定が必要に
ただし、一部、ネットワークとアプリが密接に紐づいたサービスは、使い勝手が少々落ちることもあった。先ほど挙げた電話アプリがそれだ。ドコモ端末の場合、電話アプリから転送電話や留守番電話サービスの設定が可能だが、SIMフリー版のXperia 1 Ⅱには、そうした設定項目が見当たらない。音声通話に関連した設定は、手動で行う必要があった。
留守番電話サービスは利用できるが、番号を手動で入力する必要がある
例えば、留守番電話サービスの場合、通話アプリに「ボイスメール」の設定項目がある。ここを開き、「詳細設定」で「留守番電話の設定」をタップして、「1416」という番号を入力しておく必要がある(キャリアがドコモの場合)。ドコモ版の場合、こうした設定はすべて済んでおり、アプリのメニューをたどっていくだけで、設定の変更ができるため、この点は不便だ。留守番電話のサービス開始は「1411」、停止は「1410」といった形で、電話で操作することになる。
これは、転送電話も同じ。こうした音声ネットワークサービスをよく使う場合は、電話帳に4ケタ番号を登録するようにしておきたい。また、ドコモは、留守番電話に録音された音声を自動で文字化して端末に届ける「ドコモ留守電アプリ」を用意しているが、こちらはGoogle Playで配信されていないため、SIMフリー版のXperia 1 Ⅱでは利用できない。SIMフリー版は、あくまで自己責任になるが、こうした設定方法をまとめたマニュアルはソニーモバイル側で用意してほしいと感じた。
転送電話サービスなどは、電話で操作できるよう、電話帳登録をしておいた方がいい
一方で、キャリア版にはない便利な機能もある。電話アプリに関しては、固定電話の場合、電話帳登録していなくても、ネット経由で自動的に企業名や団体名が付加されるため、どこからかかってきたのかがひと目でわかる。周辺情報の検索して電話をかけることも可能だ。デュアルSIMに対応しているのも、SIMフリー版ならでは。2つのSIMカードを切り替えながら使えるため、メインのキャリアがつながりにくかった場合、もう一方のキャリアに切り替えることも容易だ。
仕様が強化されても価格はキャリア版に近い
メモリが12GB、ストレージが256GB内蔵されているのも、SIMフリー版ならではの特徴だ。メモリに関しては、キャリア版との差はあまり感じないが、余裕があるため、アプリの切り替えで引っかかることはない。ストレージの容量が増えているのもうれしいポイントだ。特にデュアルSIMを使う場合、microSDカードスロットが利用できないため、内蔵ストレージは多ければ多い方がいい。この点は、デュアルSIMを考慮した仕様と言えそうだ。
メモリは12GB、ストレージは256GBと、仕様が強化されている
発売当初は一部の周波数に未対応だったが、アップデートでドコモの5Gにもきちんとつながるようになった。まだまだエリアは非常に狭いが、5Gに接続できれば驚くほど速くなる。筆者が渋谷にある5Gのスポットで計測したところ、1Gbpsに迫る速度を記録した。エリアの拡大や端末数の増加とともに、ここまでの速度は出づらくなるかもしれないが、通信速度が上がるのは大きなメリットと言える。
ドコモ、au、ソフトバンクの5Gに接続可能。スピードも十分出る
しかも、デュアルSIMで、両スロットとも5Gに対応している。eSIM対応のiPhone 12シリーズやPixel 5、Pixel 4a(5G)の場合、eSIMをオンにしてデュアルSIMにすると、5Gそのものが使えなくなってしまう。対するXperia 1 Ⅱは、物理SIMを2枚挿す仕様だが、どちらも5Gに対応している。片方のSIMカードで5Gを使った通信をしながら、もう一方でVoLTEの待受けもできる。デュアルSIMで5Gをしっかり使いたい人には、いい選択肢と言えそうだ。
ドコモ版のXperia 1 Ⅱをレビューした際に、カメラなどの機能には触れているため、詳細は割愛するが、カメラ機能も優秀。標準カメラのセンサーが1/1.7インチと大きく、暗い場所でもキレイに撮影することができる。ただし、カメラの味付けは、一般的なハイエンドスマホとは異なり、コンピュテーショナルフォトグラフィーのような機能は少な目だ。代わりに、「Photography Pro」が内蔵されており、手動で各種パラメーターを設定して撮影を楽しめる。
【参考】秒間20コマのカメラや音響技術を刷新した5Gスマホ「Xperia1 II」の実力を徹底検証
AIにお任せする他社のスマホとは設計思想が異なるが、きちんと設定して撮ると、デジカメさながらの写真に仕上がる
多くのAndroidスマホに「プロモード」などの形でマニュアルモードが搭載されているが、Xperia 1 Ⅱのそれはより本格的。ユーザーインターフェイスが「α」シリーズのそれに近く、露出の調整やシャッター速度の変更などを、直感的に行える。ある程度、カメラの知識がないと撮影が難しいと感じてしまうかもしれないが、逆に、それを楽しめる人には、お勧めできる1台だ。ハイエンドモデルゆえに、価格は12万4000円と高いが、キャリア版との差は少ない。メモリやストレージ、デュアルSIMなどの機能差を考えると、SIMフリー版を選ぶのもアリと言えそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★★
持ちやすさ ★★★★
ディスプレイ性能 ★★★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★★★
音楽性能 ★★★★★
連携&ネットワーク ★★★★★
生体認証 ★★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。