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不眠症だと思っている患者の多くが十分眠っているのに眠っていないと誤認

2021.01.06

 不定期連載、「ビジネスパーソンに忍び寄る身近な病たち」。働き盛り世代が知っておくべき健康寿命を延ばす術を紹介する本連載、今回は睡眠を取り上げる。ストレス社会の中で、多くの人が睡眠に何らかの問題を抱えている現実がある。実際、成人の20人に1人は不眠を訴え、医師の処方のもとで睡眠薬を常用というデータもある。かく言う私も長年、睡眠障害を抱え、医師の診断のもと定期的に睡眠薬を服用している一人だ。

 コロナ禍の影響でストレスが増す中、睡眠をしっかり取り冴えた頭で日々、暮らしたいものである。さて、どうすれば熟睡できるのか。そして不眠はどうすれば治すことができるのか。長年、眠りに悩みを抱える私にとっても、実に興味深い企画なのである。

 レクチャーをお願いしたのは、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 機構長の柳沢正史教授である。2012年12月に発足した筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構は、睡眠の基礎研究に特化した世界最大規模の研究拠点である。

睡眠が、なぜ必要なのか?

「根源的な睡眠学の疑問には二つあって、それは睡眠の機能と制御です」柳沢教授のゆっくりとした口調からは、分かりやすく伝えようという思いが察せられる。

「哺乳類だけでなく昆虫を含め、神経系を持つ動物はすべて眠ります。動く生き物はすべて眠るといっても過言ではない。睡眠中の動物は外界の刺激に鈍くなっている。外敵に襲われるかもしれないリスクを冒してまで、なぜ眠る必要があるのか。

 起きているとだんだん眠くなってくる。睡眠圧が高まる。眠らないと眠気は取れない。すなわち、起きている間に何かが溜まり、寝ている間にそれが解消する。睡眠は脳の機能の回復、つまり眠ることで、脳のメンテナンスをやっていることは間違いありません。では、睡眠中に脳の中で何が起こっているのか。意識を失ってまで、なぜメンテナンスが必要なのか。実は具体的なメカニズムはわかっていないのです」

睡眠障害の解消は価値が高い

――先生、睡眠の基礎的な研究が、僕らの日常とどんな関係があるのでしょうか。

「大きく関係しています。睡眠のメカニズムが解明できれば、睡眠への介入法が生み出されるでしょう。例えば夜勤のシフトがあるワーカーは睡眠の質が悪いといわれます。夜勤のシフトを長く続けると、ガンのリスクが増すと疫学的調査の結果も出ている。

 睡眠障害はメタボ、つまり肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病を悪化させます。逆に疾病が睡眠障害を悪化させる点も忘れてはならない。ガンやうつ病も睡眠と関係があるといわれていますし、認知症も睡眠障害が発病率を高めるとされています。

 また、睡眠障害は免疫力を低下させるので、新型コロナウイルスでも重症化する確率が高まります。睡眠への介入法が確立できれば、寝たい時にぐっすり眠れて、クリアな頭で効率的に仕事に集中できる。同時に病気へのリスクを軽減することができます。睡眠の障害の根本的な解消は、非常に価値の高い研究です」

 睡眠障害の人の中でも眠ろうとしても眠れない、不眠を訴える人は相当数いる。かくいう私もそうだが、成人の20人に1人が睡眠薬を使用している現実がある。

 不眠症は寝つきの悪い「入眠障害」、眠りが浅くて何度も目が覚める「中途覚醒」。朝早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」、ぐっすり眠れた満足感が得られない「熟睡障害」等が、1か月以上続き、昼間に倦怠感、意欲の低下や集中力の低下を引き起こす病気――、多くの文献にはそう記載されている。だが…。

”主観的不眠“と”客観的不眠“

「不眠症は難しい病気です。この病気の要は眠りたい時に眠れないということ。そのせいで昼間、起きているときに元気がない」

――その通りです。

「でも、根岸さん、よく考えてください。不眠症の4つの症状は、すべて患者さんの主観的な訴えなんです。治療する側は患者さんの話を聞くだけ。そのことがすでに問題で」

――………

 確かに指摘の通りである。虚を突かれたような思いだった。

「3時間ぐらいしか眠れないと不眠を訴える患者さんの脳波を調べてみると、実は健常者と同じように7時間ぐらい眠っているケースも多いのです。眠っているのに眠っていないと誤認している。そんな“主観的不眠症”の患者さんが、6~7割ぐらいはいるとされています。

 脳波の結果を伝えると、患者さんの中には『意外と眠れているんですね、気にしなくてもいいな』と、安心する人もいます。逆に『そんなはずはない!』と、反論する人もいる。

 患者さんの中には”今晩も眠れないんじゃないか“という睡眠への不安から、眠ったという実感を得られない人がいたり。多くの患者さんにとって、不眠症は広い意味で”心の病“と、いえるんです」

 もちろん中には本当に1日4時間ほどしか眠れない、”客観的不眠症”の患者もいる。“主観的不眠症”と“客観的不眠症”と、同じ治療でいいはずがない。本当に眠れない患者さんには、睡眠薬等を処方しながら悩みを取り除いたり、睡眠時間を延ばす治療を施したりすればいい。一方、自分の睡眠時間を誤認している患者に対して、最初から睡眠薬を処方することに、柳沢先生は否定的である。

「5時間半以上、ベッドにいるな」

「アメリカではまず、認知行動療法という心理学的治療法を試みます。患者さんに『ベッドにいる時間を縮めてください』と、要求するんです。睡眠日誌も書いてもらう」

 例えば「5時間しか眠れないんです」という患者に、「では5時間半以上ベッドにいないでください」と告げる。「睡眠時間を増やすために診てもらっているのに」患者はいぶかしむが、夜12時~5時半までの睡眠を続けているうちに、ギュッと凝縮したような密度の高い睡眠が得られるようになる。

 アメリカは患者の治療に寄り添う臨床心理士の数が、潤沢だから行える治療法と前置きし、「これは睡眠薬よりもよく効くというデータがあります」と、柳沢先生は言う。

「脳波からは、睡眠を取っている間、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返していることがわかります。今わかっていることはノンレムもレムも大事だということ。必要な睡眠時間は人によって違いますが、平均7時間ぐらいということですが」

 先生は言葉を切った。

 多くの日本人にとって、不眠症より深刻な問題は、慢性的な睡眠不足である。睡眠の不足で毎日積み重ねる“睡眠負債”が、どれだけのリスクをもたらしているのか。

「慢性的な睡眠不足で、昼間の活動に不都合があれば、“睡眠不足症候群”という立派な病気です」と、柳沢正史先生は警鐘を鳴らすのだ。

慢性の睡眠不足の恐怖は、明日公開の後編で。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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