まもなく、東日本大震災から10年が経とうとしている。今は世界中で猛威をふるう新型コロナウイルスによって、人々の生活が大きく変化しているが、何事にも「もしもの時の備え」は欠かせない。そんな中、企業などの組織で今注目されているのが、「BCP」だ。
本記事では、BCPの意味や必要性、事例、作成手順までをわかりやすく解説する。BCPは何度も見直すことも大切。すでに作成経験がある方も、この機会におさらいしておこう。
BCPとはどういう言葉?
近年、多くの企業が注目する「BCP」。まずはその意味を知り、必要性を理解しておこう。
BCPは「Business Continuity Plan」の頭文字を取った言葉
BCPとは、「Business Continuity Plan」の頭文字を取ったもので、「事業継続計画」と訳される。緊急事態における企業や組織のリスク管理の一つで、さまざまなリスクを想定し、現実となった場合には被害を最小限に留めながら、緊急事態下においても事業を継続させ、その後も生き延びるための策を練っておくことを指す。
これまでは、企業や施設単位での導入がメインだったが、近年では周辺コミュニティを含む街単位での取り組みも進んでいる。
BCPにおける「緊急事態」とは?
BCPでは、「組織に多大な影響を及ぼすものすべて」を「緊急事態」として想定する。日本で身近なものとしては、地震や台風などの“自然災害”がまず思い浮かぶ。また、まさに今直面している、新型コロナウイルスなどの“感染症”もこれに該当する。
加えて、交通や停電、情報漏洩などの事故、暴動や紛争などテロリズムもリスクの一つ。飲食業界では、常に“食中毒”に気を配る必要があるし、製造業や建築業などでは“関連会社の倒産”の煽りを受けるケースも少なくない。このように、組織の特性によってリスクも受ける影響もそれぞれ異なる。
なぜBCP対策が必要なの?
BCPが注目されるきっかけとなったのは、2011年に発生した東日本大震災の関連倒産。震災後105ヵ月もの間報告され続けた経験から、BCPを重視する企業が増えた。
2016年の熊本地震では、BCP対策をしていた企業の復旧がとても早く、結果として周囲からの信頼や評価が上がり、企業価値も向上したという例がある。しっかりとリスク管理をすることは、企業の生き残りだけでなく、その後の評価にもつながることが実証されたため、BCPへの注目が高まっているようだ。
事例でみるBCP
事例を知ることで、より現実的なBCPの策定につながる。策定事例と、実際に発動されたケースの両方をチェックしておこう。
医療機関のBCP策定事例
災害時に24時間体制での傷病者の受け入れを指定されているのが「災害拠点病院」。厚生労働省が定める指定要件の一つに「BCPの策定」が含まれている。名古屋⼤学医学部附属病の策定事例を見てみよう。
⼤規模地震が今後起こりうる地域ということから、第⼀リスクとして地震災害を想定。過去の事例を参考にもっとも起こりそうな事態を想定し、建物や設備の直接被害だけでなく、インフラ設備の供給停⽌が病院機能に及ぼす影響なども分析対象とした。
最優先事項として、災害対策本部とトリアージエリアの設置を掲げる。医療⾏為に優先順位をつけ、高い優先度のものから復旧させていく。病院だけが残っても医療⾏為の継続は不可能と予測し、他の医療機関や取引先、協⼒企業との連携を重要ポイントとした。
新型コロナウイルス対応におけるBCP発動事例
保育園や介護施設などを展開するポピンズホールディングスでは、“命を預かる企業”としてBCPを導入し、定期的なバージョンアップを重ねている。新型コロナウイルスにおいても、最重要事項は“健康管理の徹底”だと判断し、該当するBCPを発動した。
まずは、感染の疑いがある人の早期把握を重視し、事業に関わるすべての人に検温を徹底、5,000名を超えるデータの管理には、“安否確認システム” を利用した。緊急事態宣言の発令3日後にはオンライン保育を開始するなど、ITを駆使しながら対応。
BCPに不可欠!マニュアルを作成しよう
BCP策定では、計画を文書としてまとめるところまでが求められる。最後に、作成の手順を紹介しよう。
マニュアルを作成するメリット
BCP成功のポイントは、フローやノウハウの共有と徹底にあるといっても過言ではない。文書化することで、伝達や共有がしやすくなり、発動時における即座の活用も期待できる。
基本的な作成ステップ
BCPの作成は、ステップを踏んで順に進めていくのが一般的だ。
ステップ1:基本方針を決める
“BCPで目指すことはなにか”を明確にすることで、組織内で共通認識を持つことができる。
ステップ2:重視するリスクを選定し、“中核事業”を決める
想定されるリスクすべての計画を練るのは難しいため、いくつかのリスクを優先度の高い順から選定する必要がある。ポイントは、組織にとって“起きたら困ること”を発生頻度や被害の程度と照らし合わせながら見ること。
そして、“組織が最も維持したい事業”(中核事業)”を決める。売上が大きい事業や納期が重視される事業、信頼を維持するための事業など、組織がもっとも大切にしたいところはどこかが明確になれば、とるべき対応が決まりやすくなる。
ステップ3:実現可能な対策を立てる
緊急時の指揮者、発動タイミング、伝達方法、各部門担当者や対応内容、目標復旧時間などを具体的に決めておく。ここで非常に重要なのが、「電話や車の管理」。伝達手段と移動手段は、BCPにおいて大きな役割を果たすため、しっかりと計画立てておこう。
不安な人にはテンプレートの利用がおすすめ
初めてBCPを作成する場合や、作成の負担が大きいと感じる場合は、テンプレートを上手に活用しよう。中小企業庁では、入門、基本、中級、上級の4種類のフォーマットやテンプレートを公開している。作成だけでなく、見直しなどにも利用できるためチェックしておきたい。
文/oki