2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。
2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション3の内容を3回にわたって紹介します。
写真左から、石川俊祐さん(KESIKI Inc. Partner, Design Innovation 多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム 特任准教授 / プログラムディレクター)、内永太洋さん(アクセンチュア株式会社 インタラクティブ本部 最高戦略責任者 / シリアルアントレプレナー)、町田玲子(株式会社小学館 DIME編集室 @DIME編集長)、川村秀憲さん(北海道大学 大学院情報科学研究科 情報理工学専攻複合情報工学講座 調和系工学研究室 教授)
※Session 3 前編※「Withコロナ時代に求められる暮らしに溶け込むサービスデザインとは?」
新しいことが生まれるターニングポイント
町田(モデレーター):では早速始めさせていただきます。みなさんは普段から少し先を見据えたお仕事をされていると思いますが、今回誰もが予測ができなかったコロナ禍で悲しいことだったり、いろんな制約ができてしまった世の中になっていると思います。
みなさんの立場から見て、今の状況はどういう風に捉えられているのでしょうか?
内永:新型コロナでいろいろなことが変わったと思いますけど、それはネガティブなこととポジティブなことがあります。ポジティブとはいっても、亡くなっている方や今でも治療されている方、医療従事者の方もいらっしゃるので決してそれがあってよかったみたいなことは絶対言えないと思っていますが。
俯瞰してみてみると、我々が今トライしようとしているニューノーマルとか、働き方も含めて、多分いずれはそうなったんじゃないか、それが早まったのではないかなとは感じています。
デジタル庁の新設もありましたが、生活する中で感じていたじゃないですか? 毎回なぜ同じことを書くのかとか、なぜハンコがないとダメなのかとか。みんな本当は思っていたけれど、しょうがない、そういうものだからと。
それがいよいよ変わってきて、出勤する意味は何だったのか?出勤する方法は何がいいんだろう? などと見つめ返すタイミングに図らずもなったんだと思っています。新しいことがどんどん生まれるターニングポイントになってくると思いますね。
町田:そういう意味では、ある種のビジネス的なチャンスも生まれるのではと。
内永:そうですね。最近のニュースでも、大変な危機を迎えている企業、大企業も中小企業もありますけど、同時に新しいチャンスも生まれてくるのが今までの歴史。いかに早く乗り切れるか、変えられるかという所と、未来に何があるかを自分たちが一生活者となって想像し、実現できるかどうかが試されていると思います。
異常なのに〝普通〟だと思ってしまう?
町田:石川さんはどう思われますか?
石川:私は今まで大企業に勤めて仕事をしたり、スタートアップをしたりとか様々なことをやってきましたが、今この新型コロナの状況になって初めて、手放しでいいねって喜べないことではありますが、かなり先の未来が突然やってきたと思います。
企業とか人が新しいことを生み出すときって、日々をどんな風に、どんな心構えで、既存の”普通”と呼ばれるものを見ながら生活してきたのかということに気づくとき。日々生活していると、実は異常なことだったなのにそれが普通だと思って生活してしまう状況があると思っています。
それは仕事の仕方やサービスの生み出し方もそうですし、働くことと遊ぶことってそんなに分かれているものだったっけ? という話もそうです。幸せや生活、ライフスタイルという軸で見ると、今までやってきたことって結構普通じゃないことだったのかもしれない。そういった自分の気持ちみたいなものを素直に感じやすい時代がようやく来たと思っています。
よくも悪くも、この状況下が普段は見えない、自分の意識下に沈んでいるものを刺激してくれます。たとえば、テレビで満員電車の映像を今見たら、こんな異常な状況っていつの話だっけ?みたいな。
何かを生み出そうっていう時、未来が今起きているみたいな感覚があって、みんなが自分らしく模索するきっかけにはなったかなと思います。褒められる状態ではないけれど、人間にとって気づきというのは起きているんじゃないかなと見ていました。
未来のことを考えながら、自分たちを変える
内永:出勤時間を変えるとか、満員電車問題も昔から議論はありましたよね。でもなかなかそれに対するモチベーションがなかった。感染リスクがあるからやめようとなって、強いガバナンスが効くようになったのは、やっぱり変えられるきっかけになっていますよね。
石川:誰でももっと未来のことを考えながら、自分たちをここで変えていけるかとか、意思決定の仕方を含めては面白い議論をするべきと思います。
町田:”普通”ということをを普段はあまり意識していなかったので、そのように聞いていると、確かに今いろんなことに疑問を持つようになってきたというのが実感としてありますね。
石川:ちなみに、人の二足歩行が異常じゃないかなって話すら,耳にします。Gマーク(※1)の審査会をやっていますが、元々はリハビリに使われるスティックを元に話が出たのですが、四足歩行の方が背筋が伸びて美しく見えるらしいです。実はそのほうが腰にもいいし、足の負担も少ないと。
そもそも人間の二足歩行って、負担が膝と足にかかってきてしまい、高齢化したときに病気が足からくる。極端な話ですけど、いろんな普通を問い直す、それが自分の気持ちよさとか心地よさを含めて、何か人々の心が変わってきていると思います。
※1 Gマーク:グッドデザイン賞。製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど、私たちを取りまくさまざまなものごとに贈られる
内永:川村先生、これってタイムリーな話じゃないですか?
川村:まさに今日ぎっくり腰になってしまって…。ぎっくり腰になると普段の体の自由が効かないので、いろいろ大変です。普段いかに自由が効いてありがたいというか、いろいろ考えさせられますね。
新しい息吹が出てくるタイミング
町田:川村さんは今の状況をどう捉えていらっしゃいますか?
川村:新型コロナの前の話ですが、私が大学生の頃、2000年位にちょうど世の中でインターネットが普及し始めたんです。ITという言葉で。僕は元々コンピューターに触ってましたし、大学で情報工学の専攻していました。ここから世の中がすごくよくなると思っていました。今でこそ人工知能ともてはやされる技術って、2000年の頃にもたくさんあって、それを使うと世の中の無駄もなくなるし、いろいろ便利になると。
だけど実際にふたを開けて、この20年間振り返ってみると、全くIT、インターネットの普及で世の中便利になったかというと、今だに印鑑やファクスを使っている。便利なテクノロジーがあるのに、何でこんな使い方になったのか?
よく考えると、その当時偉かった人たち、決裁権を持って意思決定する人たちがITやインターネットを深く理解できていなかったのです。紙でやっていることをITに載せただけ。仕組みをITに置き換えるのではなく、考える努力をしないでそれまであったITを載せ替えることで20年やってきた。
ここから自分がシニアになって、この先、子供たち含めて未来を考えたときに、このままではマズイことがいっぱいあります。新型コロナをきっかけに印鑑を廃止する話になりましたが、これがなかったら20年後の子供も印鑑をしていたかもしれない。30年後もファクスを使ったかもしれない。そして世界に置いていかれる…。
そういう意味で、新型コロナはない方がもちろんいいのですが、外からの大きなショックとして大きく変わったと思います。人からよく「先生、飛んでいる飛行機はもはや作り替えられないよ」といわれるんです。でも新しいものを作るんだったら最新の飛行機が作れると。飛行機が墜落するかもしれないという状況になったときは、いよいよすべてを作り替えないといけないのです。
無駄を廃止する意味でデジタルトランスフォーメーション(※2)もありますけど、通勤やリモートワークといったもの、無駄を廃止するようなことが一気にここでショック療法として起きてきているのかと思います。
※2 デジタルトランスフォーメーション:ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させるという概念
そう考えたときに、後ろ向きなことばかり考えても仕方ない。こういう状況で何ができるのか考えるとルールやゲームが変わりつつあるので、若い人とか新しい価値観を持った人が活躍するひとつのきっかけでもあると思うのです。
是非これをきっかけに前向きなトライであったり、考えというものをうまく広めていって、価値観を変えられるようなことをやっていけたらいいと思います。
内永:事業創造も似ているアプローチがありまして、今台頭しているGAFA(※3)は、元々あったものの磨き込みで存在感を出したわけではありません。新しい存在として最初はあって、それが徐々に生活様式を変えていってメインになっていったという形でゲームチェンジしてきているので、そういう意味では新しい息吹がいっぱい出てくるようなタイミングなのかもしれません。
※3 GAFA:グーグル(Google)、アマゾン(Amazon) 、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)の4社の総称。
後は、試されているのは我々もどんどん今から出てくる若者たちとか若いアイデアを、どう自分の持っている常識を信じ過ぎずに取り入れられるか? 我々もそこにチャレンジしないといけないハンコの世代に入っているので。そこはよく自分自身も考えますね。
中編へ続く。
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取材・文/堀田成敏(nh+)