2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。
2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、Opening sessionの内容を2回にわたって紹介します。
左から、古屋美佐子さん(アマゾンジャパン合同会社Amazonデバイス事業本部オフライン営業本部 営業本部長/ 一般社団法人LIVING TECH協会 代表理事)、川本太郎さん(ルームクリップ株式会社 取締役)、伊藤菜衣子さん(暮らしかた冒険家/クリエティブディレクター)、高重正彦さん(ルームクリップ株式会社 代表取締役社長)、山下智弘さん(リノべる株式会社 代表取締役社長/ 一般社団法人LIVING TECH協会 代表理事)
※Opening Session前編 ※「コロナ禍で人々の暮らしはどう変わった? イエナカオフィス、巣ごもり生活事例集」
暮らしかた冒険家という仕事とは!?
川本(モデレーター):こんにちは。このOpening Sessionは、実際「エンドユーザーの家や暮らしはどんな感じになっているのか?」など、事例を豊富に紹介したり、この後ご紹介する伊藤さんのお話をたくさん聞きながら進めさせていただきたいと思います。
それではスピーカーの紹介をさせていただきます。最初にお話をしていただくのが、暮らしかた冒険家の伊藤さんです。よろしくお願いします。
伊藤:こんにちは。私は「暮らしかた冒険家」という屋号で活躍しています。普段は暮らしかた冒険部門とクリエイティブディレクション部門という広告を作っている部門が同時並行しています。
「こういう暮らしがしたい」、「もっとこうなったらいいのに」ということをやっています。2011年に熊本の築100年の町屋を改修しました。東京は家賃が高いから地方でこんな暮らしができるんじゃないか、毎回これがやだからあれをやってみよう、みたいなことをしているのですが、そのたびに高い壁に当たっていまして。
こんな大変な目に合わなくても、もうちょっとこんな感じのものが手に入ったらいいのに…と探求する活動が広告の仕事につながっていき、その二輪で動いています。今は高気密高断熱住宅について活動していますが、それを取材に行くと、その取材先の方が「こんなにわかりやすくまとめてくれた」と言って次の仕事に繋げてくれたり。どうやったら広がっていくのかを考えて、写真を撮ったりコピーを描いたり、文章を書いたり伝えることをしています。
川本:この「暮らしかた冒険家」という肩書を名乗っている人って、日本にどれくらいいらっしゃるんですか?
伊藤:(誰も)いないでしょうね(笑)
新居はスマート化されていたハズだった・・・
川本:今日はそんな暮らしかた冒険家の伊藤さんのお話を聞きながら、「家の中のテクノロジー」というのが、暮らしに、生活者目線でどう役に立っているのかを聞きたいと思います。実は伊藤さん、ちょうどご新居をスマートホーム化に向けて準備中ということで引っ越しもされたと聞きました。
伊藤:そうなんです。実は、今日に向けてピシッと家をスマートホーム化して、そのお話をしようと思ったのですけど、何と最重要品になる、購入したAmazon Echo(※1)を梱包した段ボールがどこにいったかわからなくなってしまったという……。
※1 Amazon Echo:Amazon Echoシリーズは音声だけでリモート操作できるスマートスピーカー。「アレクサ」と話しかけるだけで、音楽の再生、天気やニュースの読み上げ、スマートホームの操作、アラームのセットなど簡単に音声操作できる。
でも、事前にPhilips Hue(※2)の電球をたくさん買って、これはここに置いたらこうなって…とかか綿密に打ち合わせしたんです。だから家の中を歩いていたら、ここはスイッチを押さなくても電気がつくはずだったのにとか、電気を消し忘れて寝室に行ってもあそこの電気消えるはずだったのに……とか。
私の中では、脳内で新居はもうスマートホーム化されていたので、引っ越しと同時にスマート化できていない悔しさいっぱいでこの1週間、生活しています。あるはずだったものがないという。Amazon Echoはキッチンの包丁と同じ扱いで、すぐ開梱できるようにしないといけませんね。
※2 Philips Hue:暮らしのシーンに合わせてカスタマイズできるフィリップス社の照明システム
川本:逆にリビングテックの欠如を感じて生活していたということですね。実は、伊藤さんにはスマートスピーカーの話をたくさん聞く予定でした。だけどスマートスピーカーのない話を聞くことになってしまいましたね(笑)。続いて山下さん、自己紹介お願いします。
RoomClipは住まいと暮らしのソーシャルメディア
山下:リノベる株式会社という古い住宅をリノベーションして新しく流通させるお手伝いをする会社をやっています。「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」というのが僕たちが一番やりたいことです。このLIVING TECH協会では代表理事として古屋さんと一緒にやっています。
川本:「暮らし」と書くのがよくわかります。RoomClip(※3)もインテリアとは言わず、〝住まいと暮らしのサービス〟と言っています。それではアマゾンジャパンの古屋さん、お願いします。
※3 RoomClip:ルームクリップ。日本最大の部屋のインテリア実例共有サイト。
古屋:私は、2017年にAmazon Echoの責任者をしていたので、先ほど伊藤さんがおっしゃったキッチンの包丁と同じ扱いという表現が新鮮です。今も一生懸命頑張っています。
川本:よろしくお願いします。先ほどから話している我々、僕と代表の高重がRoomClipを運営しています。
高重:RoomClipは住まいと暮らしのソーシャルメディアです。住生活、つまり暮らしの領域で、日本で一番たくさんのエンドユーザーさんが使ってくれているサービスです。月間で600万人以上のユーザーが利用していて、ユーザーが自分の家の中でこういうことしているよと写真で投稿するのが主軸になっています。その写真が400万枚ほどあり、今日は一部紹介しようと思います。私は創業のときからおりまして、今日は川本がモデレーターを務めます。
川本:高重の補足をすると、RoomClipは家の中の写真を投稿してそれを見るサービスなのですが、現在のユーザーはほとんど女性です。30代から50代までの女性が多くて、僕ら37歳ですが同世代の女性がコアのユーザー層になります。
さて、このイベントはLIVING TECH Conference 2020という名称ですが、いわゆる〝LIVING TECH〟について、ビジネスサイドやテックサイドにいる人たちは、「こんな便利なのに、何でみんな使わないの?」と感じていると思います。
実は僕は当初「RoomClipを使っているようなユーザー層は、LIVING TECHをなかなか使わないんだよな」と考えていました。しかし、今回RoomClipで大規模なアンケートを実施したら、違ったんです。「自宅にスマートホーム、スマート家電を導入していますか?」という質問に対して、なんと55%の人が導入していると回答しました。スマート家電という言い方をしたので、パッと思い浮かんでいるのはロボット掃除機やスマートスピーカーだと思います。
さらにもう一つ質問しました。「スマート家電を導入して何をやっていますか?」 と。すると26%の方ロボット掃除機を使っていて、同じく25%くらいの方がスマートスピーカーを使っていらっしゃる。Keynoteで仰ってましたが、スマートスピーカーの世帯普及率は一般でいうと6%とか、メディアによっては10%ほどです。ロボット掃除機の世帯普及率もメーカーによれば8%から7%位。
RoomClipユーザーは、ITリテラシーは決して高いわけじゃないと思うのですが、一般世帯よりも積極的にリビングテックを導入してるんです。そこに普及の鍵が埋まっているじゃないかと仮説を立てて、事例をご紹介しようと思います。ちなみに、伊藤さんはスマート家電をお使いでしたか?
伊藤:スマート家電はルンバを二台使っていました。楽になりましたね。それと息子が家族の気持ちで接していることに気づきました。「ルンちゃんが片付け始める時間だ!」って時間になるとオモチャを片付けたり、折り紙のリボンをルンバに貼ってみたりとか。そういう付き合い方をしていて、なんか面白いなぁと思って眺めています。
川本:それ、RoomClipでもめちゃめちゃ観察される事象ですね。ロボット掃除機はスマート家電っていうカテゴリーじゃなくても成立しているんです。みんな名前を付けて、ペットみたいになっていますね。写真についているタグを見ても〝ルンバ基地〟や〝ロボット掃除機の基地〟とかみんなDIYで作るみたいなのがソーシャルで盛り上がっています。
RoomClipの中で、なぜスマートスピーカーなどのリビングテックの普及率が高いのかというと、一つは、コミュニティーの中で使い方がどんどん他の人に伝わっていくという事象があると思います。例えばあるユーザさんの場合、30代後半の方でITリテラシーは高くはないと思うのですが、スマート照明のPhilips Hueをつないで照明の全消灯をしている。こういう投稿に対してコメントがつくんです。「ITリテラシー高くないし最先端だからよくわかんないけど、すごい便利ってのは理解したよ」と、いい認知の機会になっているんじゃないかと。
あと似たような方が、SNSの中でレクチャーをしているとかもよくみられる事象です。ここも重要なのが発信する人。メーカーの人や評論家ではなく、自分と似たようなユーザーさんがこうやって使うと便利だよとか、伊藤さんみたいにロボット掃除機に名前を付けて子供が可愛がるよね、といった共感ベースで広がっていく。カスタマーが勝手にやっているところが大きな特徴だとすごく感じています。
暮らしに溶け込むAmazon Echo show
川本:そして、もう一つ。スマートスピーカーについては、Amazon Echoに関する投稿がすごく多いです。GoogleさんのとAmazonさんのとAppleさんので割合を調べると、Amazon Echoが多かったんですよね。その中でも多いのが、Amazon Echo show(※4)です。僕もこれを今自宅に導入していますが、よくあるのが時計代わりとしての使い方。
※4 Amazon Echo show:スクリーン付きスマートスピーカー
ユーザーさんも、元々の置き時計の場所に配置したとか。とある旦那さんは目覚まし時計のつもりで買ったけど、奥様は便利だからいろいろな使い方をしているといったコメントだとか。逆に導入したけど、まだ時計のままですとか。実際、古屋さん、Amazon Echoは画面があるものとないものとかで使われ方は違ったりしますか?
古屋:そうですね。一ついえるのは日本では画面付きが他の国と比べてすごく売れているんです。日本の人って画面付きが好きだなと思います。使い方としては、カラオケ代わりにして歌詞を見ながら歌うとか。日本ならではの使い方ですね。
川本:うちは長男が1歳10ヶ月ですが、いつも乗り物の歌を歌わされています。両手がふさがっていても画面が出るから便利なんです。ちなみ伊藤さん、Philips Hue以外のことでスマートスピーカーでしたいことはなんですか?
伊藤:息子が「絵本を読んで」っていうお願いをAlexa(※5)にしてほしいですね。うちの息子は割と私が殺気立っているとフェードアウトするんですけど、その時にかまって欲しい欲を押し殺していると思うんです。掃除機のルンちゃんはたぶん弟分なので、Alexaは並列かちょっと目上くらいの立場で、何かお願いごとしていたら面白いかなって(笑)
※5 Alexa:Echo端末の頭脳となるクラウドベースの音声サービス。
後編へ続く。
取材・文/堀田成敏(nh+)