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『揺蕩う』には文学的で詩的な表現というイメージがあり、小説などで見かけた方もいるのではないでしょうか。漢字や前後の文章から意味をなんとなく理解している人もいるでしょう。ここでは『揺蕩う』の意味や使い方、同様の表現などを詳しく紹介します。
「揺蕩う」の漢字を解説
一般的な会話で使われることはあまりありませんが、文学で使われる美しい日本語はいくつもあります。そうした日本語に遭遇したとき、多くの方は前後の文章や漢字の成り立ちから意味を想像するにとどめ、言葉の持つ正当な意味を深く考えることをしないのではないでしょうか。
『揺蕩う』という単語も、美しい表現であるものの、あまり意味を調べられずに読まれてしまう言葉の一つと言えるでしょう。言葉の意味が分かれば、作品の面白さをより深く理解できるようになるかもしれません。
ここでは、『揺蕩う』という漢字について、まずは解説します。
読み方は「たゆたう」
『揺蕩う』は「たゆたう」と読みます。古典でも使う言葉で「たゆとう」と読むこともあります。
現代の日本では『揺』を「たゆ」とは読みませんし、『蕩う』という単語を「たう」と読むこともありません。特殊な読み方である点には注意が必要です。
「揺蕩い」「蕩揺」とも言える
『揺蕩い』は「たゆたい」とも読みます。この場合、動詞ではなく名詞として使います。『柳の揺蕩い』『気持ちの揺蕩い』というような使い方をします。
『揺蕩』は「ようとう」と読みます。意味としては同じです。太宰治の『お伽草紙』という作品の中で使われたこともあります。
「揺蕩う」の意味と例文
『揺蕩う』の意味について、例文を用いながら解説します。
物がゆらゆら揺れ動く様子
『揺』は、ゆらゆらと左右に揺れるさま、または不安定な状態にある様子を指します。
『蕩』は、『蕩ける(とろける)』という使い方をします。「固まっていた物が液状になる」「緊張が緩和する」という意味を持つと同時に、落ち着かずに揺れている様子を指すこともある言葉です。
漢字の成り立ちを考えれば、意味は自ずと導かれるでしょう。『揺蕩う』とは、物や気持ちがゆらゆらと揺れて1カ所に定まらない様子を指します。
「2人の女性の間で、心が揺蕩っている」「柳が風を受けて揺蕩っている」といった使い方をします。
美しい情景が思い浮かぶ
揺蕩うという表現は、不安や定まらないといったマイナス面の意味よりも、情緒的な趣のある言葉として使われることが多いようです。
『常やまず 通ひし君が 使ひ来ず 今は逢はじと たゆたひぬらし』この万葉集に収録されている和歌の意味は、「常にやってきていたはずの、あの人の使いが来なくなった。今は会うかどうか、気持ちが揺れていらっしゃるのでしょうか」となります。
『揺蕩う』は草木が静かに揺れ動く光景や、気持ちの揺れ動きなどを自然体で表現しています。美しい情景が、自然と目に浮かんでくるような場面で使われる言葉です。
「揺れ動くままに任せる」の意味もある
『揺蕩う』には「揺れ動くままに任せる」という意味もあります。先の太宰治の作品でもそうですが、「揺れるままに身を任せている」という表現の一環として使われる機会が多くあります。
- 春の予感が揺蕩う
- 揺蕩いながら道を歩いている
といったような使われ方もします。
「乙姫は、ひとりで黙つて歩いてゐる。薄みどり色の光線を浴び、すきとほるやうなかぐはしい海草のやうにも見え、ゆらゆら揺蕩しながらたつたひとりで歩いてゐる。」
※太宰治『お伽草紙』より引用
ここで言う「揺蕩う」には「気持ちのままに身を任せている」という意味も含まれるでしょう。このような表現で使われることもあります。
「ゆらゆら」「揺れ動く」意味を持つ言葉
『揺蕩う』のほかにも、「ゆらゆら」「揺れ動く」といった意味を持つ言葉は多くあります。いくつか紹介しますので、あわせて覚えておきましょう。
「動揺」心への衝撃や不安定な社会など
『動揺』とは、動き、揺れる様子を表します。元々は、物体が揺れ動く場合に使われます。
- 吊り橋が強い風で動揺する
- 船が波で動揺している
といった使い方をします。
現代では、マイナス面やショックを受けたときにもよく使われます。
- 父が突然倒れたという報せを聞いて、私は動揺を隠せなくなっていた
- 相手チームの動揺につけ込んで、点を取る
というような文脈で使われます。気持ちが不安定で、不安になっている様子を伝えるのに使われる言葉です。
また、「政界が動揺している」「クラスが先生の不在に動揺している」というように、社会や集団が秩序を失っている様子を描くのにも使われる言葉です。
「蹌踉めく」足元がふらつく、浮気など
『蹌踉めく』は「よろめく」と読みます。「ふらつく」「浮気をする」という二つの意味があります。
- 強い日差しを浴びて、思わず蹌踉めいてしまう
- 恋人がいる相手に蹌踉めく
というような使われ方をします。
「ふらつく」の意味で使われる場合は、足元が定かでなく、倒れそうになってしまうという意味で用いられ、自らの意思で揺れる場合には使われない言葉なので注意しましょう。
構成/編集部