感情知能「EQ」は、高めることでビジネスに役立ち、収入もアップし、人間関係も良好にする、メリットの大きいスキルだ。果たして、どうすれば高められるのか。EQカウンセラーの大芝義信さんに、EQを高める方法を聞いた。
EQが高い人の特徴とは?
EQを高めるためには、イメージ像が必要になるだろう。いったい、EQが高い人はどんな人なのか。大芝さんは、6つを挙げる。
【取材協力】
大芝義信さん
株式会社グロースウェル 代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営管理修士(MBA)取得。楽天、ミクシィ、GREEでキャリア形成。2013年、マザーズ上場会社でCTOを経験後、2016年、(株)グロースウェルを創業。国内トップクラスのEQカウンセラー。
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1.努力家
EQの高い人は、基本的に自分の感情を把握できており、一次の感情に流されることなく最善を尽くす傾向にあるため、達成したい目標に向けて、モチベーションを保ちながら努力をし続けられる。
2.話を聴くのが上手
EQの高い人は「自分の感情」と「話し手の意図」とを切り離し、開かれた心で相手の話を聞くことができる。
3.何に対しても寛容的
EQの高い人は自己認識能力が高い。そのため、自分の価値観とは異なる意見に対しても偏見をもたずに聴いたり、相手を受け入れながら、自分の考えを伝えられたりすることが可能だ。
4.自分の間違いを素直に認める
EQの高い人は、言い訳せず素直に間違いを認める。なぜなら言い訳を探すことを「ムダ」だと考えるからだ。正直に謝罪をして素早く軌道修正することを優先する。
5.失敗を冷静に受け止めることができる
EQの高い人は、失敗しても感情的になったり動揺したり、いつまでもくよくよして思い悩んだりすることもない。自己肯定感が強いためだ。そして次に活かす行動を取る。
6.厳しい真実を誠実に伝えることができる
EQの高い人は、自分や他人の情動に流されない。そのため、今なすべきことを冷静に見出せる。たとえ厳しい真実が発覚しても、きちんと相手に伝えることが可能だ。
EQを高める方法5つ
大芝さんによると、EQはIQと異なり、後天的な能力であることから、大人であってもこれからいくらでも伸ばすことができるという。例えば、次の5つの方法で高めることができるそうだ。
1.相手の話を聴く姿勢を大切にする
相手の話を聴く姿勢を大切にすることで、相手の感情への理解が高まり、より共感しやすくなる。EQを高めるには、共感力を高めることが重要となる。共感力とは、相手が口に出さないような感情をくみ取り、適切な言葉や行動として反応できる能力のことだ。
大芝さんによると、相手の話を聴く際には、「相手が話しているときの気持ち」や「かけるべき言葉」、「かけるべきではない言葉」などに関心を持って聴くことがポイントだという。
2.日記を書き、自分の感情を客観的に分析する
日記を書くことは自分の行動や感情を客観的に分析することに役立つ。ただ行動したことを書くだけでなく、「なぜその行動をしたのか?」という理由も一緒に書くことで、自分の感情をより冷静かつ前向きな視点で見直すことが可能だ。
大芝さんによると、自らの感情を紙に書いて可視化することで、感情のコントロール力や感情の表現力が高まるという。
3.「アサーション」というコミュニケーションスキルを習得する
「アサーションとは、相手に不快な思いをさせずに立場を尊重しながらも、自分の主張をしっかりと伝えるコミュニケーションスキル」だと大芝さんは述べる。自己主張が苦手な人は、「ノー」と言うのがむずかしいものだが、アサーションを身につけることにより、相手の人格を拒絶することなく、「ノー」と断ることができるようになる。
4.他人の良いところを見つけて認める習慣を持つ
他人の良いところを見つけて認める習慣を持つことで、EQが高まるという。大芝さんは次のように解説する。
「EQとは自分と相手の感情を認知して、自分の感情をコントロールする力です。相手に嫌悪感を抱いてしまうと、自分の感情がマイナスに反応します。そうなると、頭では相手とのコミュニケーションが必要だと分かっていても、心が拒絶反応を起こしてしまいます。日常的に相手の嫌な部分にフォーカスしていると、感情もクセがついていきます。そういう意味では、相手に対する自分の感情をプラスに保つようにすることが、良い人間関係を構築する助けになります。
思考にもクセがありますが、感情にもクセがありますので、『苦手かも→嫌いかも→嫌い→顔も見たくない』とならないように、相手の良い部分にフォーカスするクセを付けるとEQを高めることに役立ちます」
5.純文学を読むことで「共感力」を高める
純文学を読むと、EQにおいて重要な要素の一つである「共感力」を高められるという。なぜなら、純文学には「フィクションの中で複雑な心の機微を描いている」という特性があり、読む人の心の機微を揺れ動かす力があるからだ。ニュースクール大学で、「大衆小説」「純文学」「ノンフィクション」などのジャンルに文学をグループ分けし、「他者に感情移入ができるかどうか」のチェックテストを実施した研究結果で、純文学を読んだ実験のグループのみ、共感力が飛躍的に上がると判明したという。
また、大芝さんは、純文学は「感情のリテラシー」を高めるのにも役立つという。
「EQを高めるためにまず必要なのが『感情のリテラシー』です。感情のリテラシーを高めると、単純な感情状態から複雑なものまで、正確に認識し、解釈することができるようになります。感情は、分かりやすく言うと、言葉で識別して仕分けされていきます。例えば『嫌い』という言葉を知らないと、目の前になんか嫌な人が現れても、なんとも言えない気持ちが発生するだけです。そこに嫌いという言葉でラベル化することで、嫌いなんだという感情を認識していきます。純文学には、精細な心の機微が感情の『語彙』として含まれるため、たくさんその語彙をインプットすると、それだけ多くの種類の感情を認識できることにつながります」
EQの高い人の特徴の一つ「努力家」になるには?
ところで、EQの高い人の特徴の一つに、「努力家」があった。「自分は努力が苦手」「努力家とはほど遠い」という人もいるだろう。そんな人はどうすれば努力家になれるのだろうか?
●感情を味方につけて行動を起こす
「努力とは、目的に向けて継続行動を取り続けることです。人が行動するためには、行動したほうが良いという思考と同時に、目的を達成したいという思いの強さ、つまり感情の強さが影響します。
例えば、ダイエットで『スリムになりたい』という思いが弱いと、すぐあきらめてしまいます。そこで、感情を味方に付けるということです。『痩せたい』という自分の感情に意識を向けて、その力を利用して行動を起こすことをスタートにしていくと、努力家に近づけるかと思います」
●行動に気分が向かない場合は「自己効力感」を高める
「行動に気分が向かない場合は、感情を戦略的なリソース(情報資源)としてとらえ、その感情を評価し、活かしたり、変化させたりすることも有効です。
例えば、無力感にさいなまれている人は、どのように自己効力感を高めれば良いかに集中するとよいでしょう。以下の4つがポイントとなります。
(1)小さな成功経験(スモールステップ法)
(2)代理経験(モデリング)
(3)言語的説得(理屈、説得行為、納得感)
(4)情緒的高揚(気持ちを高ぶらせる)
特に(3)言語的な説得を自分に対してするとよいでしょう。自分が動くための理屈をつくったり、自分を動かすために自分を説得してみたり、何が満たされると自分が納得できるのか自問したりと、自分の感情を思い通りの方向に調和するのです。
例えば、プレゼンへの意欲が損なわれている場合、プレゼンを成功させればますます社内の評価を上げることができ、昇進でき、自分の就きたいポジションに就ける可能性が高まるなどです」
EQは何歳からでも高められる!
最後に大芝さんに、EQを高めたいと感じ、これから高めるための行動をとろうと思った人へメッセージをもらった。
「EQはビジネス以外にも、健康、ダイエット、恋愛、ひいてはより良い人生をまっとうするために必要なスキルだと言えます。仕事で成功しても、友人がゼロだと悲しいです。友人というのは、利害関係がなくても助けてくれる存在。IQはペーパーテストで何度も訓練する機会がありましたが、EQは義務教育においては、学ぶ機会はありません。社会に出てからは必須と言っても良いと思います。
EQは後天的に伸ばすことが可能なスキルです。世の中では思考関係の書籍が多くありますが、感情系の学びはあまり普及されていません。思考の強化だけで、実行に移せないのは、『行動には感情が重大な影響を与えているから』です。EQを高めることに取り組むのは、たとえ60歳からでも遅くはありません。EQについて触れて人生を充実させていただければと思います」
EQの高い人は、多様なすばらしい特徴を持っており、EQはさまざまなアプローチで高められることが分かった。まずは取り組みたい、伸ばしたいと思ったテーマから取り組んでみるのもいいのではないだろうか。
取材・文/石原亜香利