4月にAirPods Proを買ったばかりなのに、BOSEの最新ノイズキャンセラーつきインナーイヤホン、Bose QuietComfort Earbudsを注文してしまった。その経緯は記事にしたが、なぜそんな無駄遣い(?)をしたかは説明しなかったのでここに書く。
その前に記事で触れた納期についてご報告しよう。予約受付開始日の9月24日夕刻、BOSEから“大変ご好評につき、現在予想を上回る注文をいただいております。製品お届までに8−10週間ほどお時間を頂戴しております”というメールが来て驚いた。ならば量販店ではどうだろうと、ビックカメラのオンラインストアを見ると予約受付中とあり、納期は書かれていない。ということは発売日当日納品の可能性もあるのではと、ビックカメラに予約した。
理由は2つ。1つはポイントが付くこと。もう1つは4月のAirPods Pro購入検討時、このサイトでは品切れ中ながら納期は明記されていた。よって納期の明記なし=発売日納品も大いにありうると読んだのだ。
同日、ビックカメラは予約受付中ではなく、発売日以降お届けに。
その後10月10日にチェックすると、BOSEサイトでは“お届けまで10−12週間”と納期は延び、ビックカメラでは“予約受付中”ではなく“発売日以降お届け”となっている。これはいよいよ発売日納品かと期待すると案の定、発売日前日にビックカメラから出荷メールが来て、10月15日に製品が届くと伝えられる。こんなわけで必ずとは言い切れないが、人気製品は直販より量販店の方が手に入れやすいと僕は思った。
では本題。AirPods Proに満足しているのに、なぜBose QuietComfort Earbudsなのか? アップルとBOSEのワイヤレスイヤホンの聴き比べ記事でも少し触れたが、僕はBOSEの低音と歴史あるノイキャン技術に多大な期待を抱いている。だから9月に公開されたBOSEサイトの、“どんな音量でも、深みのある低音と生き生きとした臨場感あふれるサウンドを再生できます”“ほとんどのイヤホンでは、音量を下げるにつれて低音が小さくなる傾向があり、音楽がチープで弱々しく聞こえてしまいます。ボーズでは、音量に合わせて最適化されるアクティブEQテクノロジーにより、この問題を解決しました”というBose QuietComfort Earbudsの製品解説は、僕の物欲を大いに刺激した。
これまでインナーホンはBOSEを中心にソニーやAirPods Proを使ってきたが、こと低音となるとBOSEのQuiet Comfort 30(以下QC30)の右に出る製品はなかった。AirPods Proの音質は相当いいが、低音ではQC30には及ばない。QC30登場から既に4年、最新機にはQC30を超える低音が期待できる。
そしてノイキャン性能。AirPods Proは、僕にとって歴代最強で全く不満はない。しかしBOSEサイトは、“業界最高クラスのノイズキャンセリングを搭載したイヤホン”と、大きな文字で謳っている。音は(音楽も)感性次第という側面もあるので、最高に“クラス”を付けざるを得ないのだろうが、2000年にノイズキャンセリング付きヘッドホンをこの世に初めて送り出したのがBOSEだ。ノイキャン技術だけは絶対に後発には負けないという自負があるだろう。果たしてBOSEの最新ノイキャンはAirPods Proを凌駕するのか? 胸が高鳴る。
さてこのコロナ禍、店頭試聴はできるのだろうが、気が進まない。低音再生は試せても、環境を変えてのノイキャン性能は試せない。ましてやAirPods Proとの聴き比べは不可能だ。ならば、買うしかないではないか。
10月15日、Bose QuietComfort® Earbuds(以下、BQEと略す)が届く。パッケージを開けるや、まずその大きさに驚いた。ケースの容積はAirPods Proの3倍くらいか? 重さを測ると、ケース&左右イヤホンでBQEは94g、AirPods Proは56g、イヤホン片方は9g対6g、重量戦ではBQEの圧勝だ。とはいえ、比べるからBQEは大きく重いが、持ち歩くには問題ないレベルだ。ただしイヤホンのデザインは、とことん異なる。BQEはよくも悪くも堂々としていて男らしいが、華奢な女性には似合いそうもない。かたや近未来的なAirPods Proは、男女を選ばないデザインだ。
また手で蓋をパカっと開けるAirPods Proに慣れた身には、BQEの“手では開かない”ケースには違和感があった。手前のボタンを押しながら手で開けるのかと思いきや、それでも開かない。だが答えは簡単で、ボタンを深く押すと開く。そうと知ればなんでもないが、当初は戸惑った。
では比較試聴と行こう。まずは音質=低音から。試聴曲は僕がQC30の低音の凄さに気づくきっかけとなったイギリスのハードロック・バンド、ユーライア・ヒープの『ライヴ』から「7月の朝」を。僕の世代でかつハードロック好きでないと、まず聴いたことがないはずの曲だ。AirPods Proの低音は悪くはなく、メリハリがはっきりしている。配信デジタルサウンドで育った世代には歓迎されるだろう。しかしデジタル全盛時代でもアナログレコードの音が耳の根底にある、僕のようなおじさんにはあざとい低音だ。
BQEの低音は予想と違い、おとなしい気がした。だがすぐに、それは自然で穏やかな音だからだと気づく。今は所有していないので確かめようがないが、QC30は元気いっぱいの低音だった印象がある。とすれば、BQEは大人方向の低音を目指したのかもしれない。
もう1曲、こちらはデジタル世代でも聴いたことがあるはずのハードロック定番曲、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」。ギターで始まり、ドラムが入り、ベースが加わる。1つずつ楽器が加わるシンプルな構成なので、音質を捉えやすい。BQEは角が取れたサウンド、低音はやわらく膨らむ。僕の耳にはBQEの方が心地いいが、AirPods Proも決して悪くはない。
続いてはノイキャン性能の比較だ。後述のようにいくつかの環境下で聴き比べて、重要な前提に気づいた。イヤパッドの耳へのフィット具合だ。耳の穴の大きさには個人差があるので、どちらも大中小3種類のイヤパッドが付属している。僕はともに中を使用しているが、BQEは構造上のメリットもあり僕の耳にはジャストフィットする。AirPods Proは少々緩い。だが週1回の10kmジョギングで外れたことはなく、実用上の支障はない。ただしノイキャン性能となると、密閉状態の方が有利だろう。よって僕のAirPods Proは、ギュっと耳に突っ込んだ状態と、しばらく経ってやや緩んだ状態では効果に差が出る。
バルミューダがいかに使えるかは、この記事で。
まずは小手調べで、室内編。愛機バルミューダのサーキュレーター対決だ。このバルミューダは3段階の風力と、極め付け風力のジェットがある。普段使用するのは最も弱い1か、その次の2。3ではうるさく、ジェットではとことんうるさい。そのうるさい風力3とジェットで両機を比べた。結果は3でもジェットでも同じ。ノイズは大幅に低減されてうるさくない。緩み気味のAirPods ProとジャストフィットのBQEが互角、ギュっと耳に突っ込むとAirPods Proが勝る。この対決ではAirPods Proのノイキャン性能が上だが、サーキュレーターでは実用上の意味はないので外に出よう。
片側2車線公道の歩道を歩く。ここからは、耳にギュっと入れたAirPods ProとBQE を比べる。公道の主たるノイズは、高速道路のようなクルマの風切り音ではなく、道路を走るタイヤから生じる音だ。両機を取っ替え引っ替えしながら、30分ほど歩いた。BQEが勝るような気もするが、AirPods Proの方が効いていると思う時も度々あり、なんとも言えない。
続いて実用上、その効果が最も気になるであろう電車乗車中、山手線と地下鉄で比べる。山手線は駅間によって線路左右の状況が違うので比べるのは難しく判断できなかった。一方、原則トンネルの中を走る地下鉄では、ある程度の違いがわかる。乗り始めは公道と同じで、AirPods Proがやや勝る気がした。だが乗車時間が経つにつれて、ノイズの音量はほとんど同様ながら、その音質が異なることに気づく。BQEは柔らかく、AirPods Proは堅い。音楽再生と同じ傾向が、ノイキャンにもあるようだ。
音質はどうあれ、騒音を低減するというノイキャン本来の性能は、甲乙つけがたい。だからある意味、僕にとってBQEは期待を下回ったことになる。前述したBOSEサイトのフレーズ“業界最高クラスのノイズキャンセリングを搭載したイヤホン”の“業界最高クラス”という表現は、AirPods Proを意識しているのではないだろうか。
価格はBQEが30000円、AirPods Proが27800円(ともに税別)。ではどちらがお勧めか? AirPods ProはiPhoneとの親和性もあるが、僕はiPhoneユーザーながらその機能は何も使っていない(というより、どう便利かわかっていない)。そんな僕は、BQEをとる。この低音は、ハードロックおじさんのロック魂を揺さぶる。だが誰もが低音にこだわるわけではないし、2200円の価格差も小さくはない。
小うるさいことは抜きで、普通に良い音で音楽を聴き騒音を低減したいなら、決め手はデザインだと思う。両機のデザインの方向性は、真逆と言いたい。シックで堂々たるBQEか、近未来的でコンパクトなAirPods Proか。“迷ったら迷わず”、デザインで選ぶことをお勧めする。
文/斎藤好一(元DIME編集長)