ビジネスマナーや新人研修では必ずといっていいほど学ぶ「報連相」。その報告、連絡、相談のうち、「報告」については重要視され、よく話題に上るが、「相談」についてはそれほど取り上げられない。
実際、何か問題が生じそうなとき、または生じたときに「相談」できているだろうか。むしろ「相談」に苦手意識がある人もいるかもしれない。しかし、相談がうまくできる人は「上級者」だという噂もあり、気になるものだ。
そこで今回は、ビジネス・仕事における「相談」の意義と共に、苦手意識をなくすポイントを、研修講師にレクチャーしてもらう。
ビジネスにおける「相談」の意義
「報連相」のうち、相談にはどんな意味があり、どんな役割があるのか。研修講師の齋藤直美さんは次のように話す。
【取材協力】
株式会社ミュゼ 代表取締役 齋藤直美さん
約8,000人の教育・研修を担当し、新人、管理職、社内講師の育成を行う。その後、2006年(株)ミュゼ設立に参画。“月曜日が待ち遠しくなる組織づくり”をコンセプトに、大手から中小企業まであらゆる業界のリーダー教育、組織活性化に携わる一方、全国各地で研修・講演を行っており、「現場ですぐ使える!」と定評がある。褒め方、叱り方について、ラジオ、新聞、雑誌などメディアに多数取り上げられている。
https://www.musee-inc.com/
「『報告』は、自分が携わっている仕事に関する必要事項、例えば経過や結果を上司や仕事相手に伝えることであり、義務ですが、『相談』は自分自身では判断に迷うとき、上司や先輩、関係者の意見・アドバイス・サポートを求めることであり、義務ではありません。相談は、相談する必要があると自身で判断しなければならない主体的なコミュニケーションです。
またあらかじめ上司や関係者に相談することによって、協力者や賛同者を作る段取りとなり、仕事をスムーズに進められるようになるというメリットがあります。一人では成し遂げられない段取りも、相談という形で『提案』をすることで、周囲を巻き込みながら成し遂げることができます」
「相談」が苦手な原因と解決策
上司やチーム内における「相談」といえば、あなたはこんな悩みを持っていないだろうか。
・「相談が足りない」と言われるが、何を相談すればいいかわからない。
・上手く説明することが苦手。
・何を言われるのか不安で相談することを躊躇してしまう。
それぞれの原因と解決策について、齋藤さんは次のように解説する。
1.「相談が足りない」と言われるが、何を相談すればいいかわからない。
「あなたは相談不要と思っていても、上司はもっとしてほしいのかもしれません。相談の頻度や細かさは、その仕事の重要度、緊急度や、上司や関係者がその件をどのように考えているかによって変わってきます。相手が重要、緊急と捉えていれば、細かなこともでこまめに相談をしたほうが良いでしょう。『相談が足りない』と言われるということは、相手との重要度、緊急度の捉え方が間違っているか、あなたの判断や行動に何かしら違和感があるのでしょう。
相手の視点に立って、緊急度、重要度を考えてみましょう。そして、何かあってからの相談ではなく『自分の判断を確認する』相談をしてみましょう。『自分は○○と考えていますが、さらによくするアドバイスをいただけませんか? 何か不足している点はないですか?」とアドバイスや意見を求めてみましょう。うまくいっていることでも相談することで、さらに質の高い仕事ができるようになります」
2.上手く説明することが苦手。
「相談にはプレゼンテーション力が必要です。わかりやすく伝わる『伝え方』をしましょう。ポイントを3つご紹介します」
1)5W2Hで簡潔にわかりやすく伝える
5W2Hとは、「Who(だれが)、When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)、How much(いくら)」のこと。
2)言葉の省略や曖昧表現がないように伝える
3)PREP話法で伝える
PREP話法とは、次の4つの順番で話す話法のこと。
Point:最初に結論を述べる。
Reason:その理由を示す。
Example:事例や具体的な例を挙げる。
Point:最後に再び結論を述べる。
3.何を言われるのか不安で相談することを躊躇してしまう。
「この悩みについては、1)問われることを想定して相談に臨むことと、2)相談の目的を持つ、の2つの解決策が考えられます」
1)問われることを想定して相談に臨む
「何かトラブルや問題について相談する場合、『どうしたらいいですか』ではなく、自分なりの理由や対策を考えて臨みます。
原因:なぜそうなったのか?
意見:自分なりの意見、どうしたらいいと思うか。
解決策:対策、対応方法。
予測:それをやった場合のリスクや結果。
これらの情報が不足した相談では上司は不安になり、質問されることが多くなるので、きちんとこれらのことも準備しておきましょう」
2)相談の目的を持つ
「相談をすることによって、上司や関係者にどうして欲しいのか? どんなサポートが必要なのか?が明確になっていないと、ただの状況説明や謝罪で終わってしまいます。相談は、自分よりも経験、知識がある上司、関係者の意見・アドバイス・サポートを得ることで、仕事を円滑に進めるために行うものです。『どんな』『何の』アドバイスやサポートが必要か具体的にしておきましょう。そうすることで、上司もどうしたら良いか判断しやすくなります」
「相談」をレベルアップする方法
「相談」に苦手意識を感じているなら、ぜひ「得意」になるレベルまで引き上げたい。それにはどうすればいいか?
「日頃から相談相手とコミュニケーションの量を増やしておくことです。相談のしやすさは、日頃のコミュニケーションの量に比例します。挨拶からちょっとした会話を積み重ねて、関係性を築いておきましょう。またその会話の中から、相手のコミュニケーションの好みを探ってみましょう。ここでは、相談相手のタイプ別におすすめの伝え方をご紹介します」
●お任せタイプ
「細かい相談は好まないタイプ。相談するときは結論と自分の意見を簡潔にまとめて伝えましょう」
●放任タイプ
「相談に限定せず、日頃のコミュニケーションの量の多さを好むタイプ。細かい相談をしてもすべてを聞いていない可能性があります。ポイントをまとめて話しましょう」
●心配タイプ
「細かい相談をしてほしいタイプ。些細なことでもいいので相談をしてみましょう」
●細かいタイプ
「理由や根拠が明確で、具体的な相談を好むタイプ。このタイプの相手には、相手が正確な判断ができるよう、客観的事実やデータに基づいて伝えましょう。曖昧、抽象的な相談では伝わりません」
「相談」と聞くと苦手意識を感じる人はもちろんのこと、相談は日頃から行っているものの、もう少しレベルを上げたいという人にも役立つ内容だ。ぜひ取り入れてみよう。
取材・文/石原亜香利