ある日突然やってくる「異動」の告知。コロナ禍のこのご時世、何が起こっても不思議ではない。「自分には無関係」と思っている人でさえ、急に部署や勤務地が変わることは十分あり得るだろう。
さて、異動というと、ネガティブなイメージを抱かれがちだが、一般社員と管理職ではどのような認識の違いがあるのだろうか?
そこで今回、株式会社リクルートマネジメントソリューションズによる、企業に勤務する一般社員と管理職1192名を対象にした「異動とキャリア開発に関する意識調査」が行われたので、その結果を紹介していきたい。
一般社員と管理職、それぞれが抱く異動に関する印象(図表2)
・一般社員と管理職、いずれにおいても肯定的な印象についての「あてはまる/ややあてはまる」の選択率は 50%を超えている。
・一般社員と管理職、いずれにおいても否定的な印象についての「あてはまる/ややあてはまる」の選択率は 50%を下回っている。
・管理職と比較して、一般社員は肯定的な印象について「あてはまる/ややあてはまる」の選択率が低く、否定的な印象についての選択率が高い。
・中立的な「管理職や経営幹部になるために欠かせないものである」という印象の「あてはまる/ややあてはまる」の選択率は、管理職で高い。
※図表02 注釈:「あてはまる~あてはまらない」の5段階のリッカート形式の選択肢に対する、「あてはまる/ややあてはまる」の選択率
異動がキャリア開発のために有効だと感じた経験(一般社員)(図表3)
・人事異動に伴うと考えられる「過去に経験がない分野の仕事に取り組んだこと」と「過去に接点のない人々と仕事に取り組んだこと」の選択率が高く、それぞれ3割を超えている。
異動の際に考慮してほしいこと(一般社員)、把握したいこと(管理職)(図表4)
・いずれの項目に対しても、一般社員の「必ず考慮してほしい/考慮してほしい」、管理職の「把握したい/やや把握したい」の選択率が5割を超えている。また、選択率も概ね一致している。
・ 一般社員の「必ず考慮してほしい/考慮してほしい」と比較して、管理職側の「把握したい/やや把握したい」の選択率が低いのは、「勤務地や勤務時間など、制約事項」と「上司と本人の相性(管理職とメンバーの相性)」。
⇒「勤務地や勤務時間など、制約事項」については、多様な人材の活躍を支えるためには不可欠なものではあるものの、管理職側はそれらの制約事項に対してすべてケアすることができない場合もあるため、このような乖離が出ていると推察される。
また、「上司と本人の相性」に関しては、メンバーである一般社員にとって上司である管理職は原則1名であるのに対し、管理職のもとには複数のメンバーが所属する形になるため、一般社員側がより「考慮してほしい」と考える傾向になっているのではないかと推察される。
⇒一部で選択率が異なる点はあるものの、異動にあたって「考慮してほしい」、「把握したい」ということが、一般社員と管理職の双方にあることが確認された。タレント・マネジメント・システムの活用と関係することではあるが、相互理解のために可能な範囲で人材情報が共有できる仕組みを整えていくことが必要だと考えられる。
※図表04 注釈1:一般社員については、「必ず考慮してほしい~考慮されなくても構わない」の5段階のリッカート形式の選択肢に対する、「必ず考慮してほしい/考慮してほしい」の選択率
※図表04 注釈2:管理職については、「把握したい~把握する必要はない」の 5段階のリッカート形式の選択肢に対する、「把握したい/やや把握したい」の選択率
異動やキャリア開発のために知りたいこと(一般社員)(図表5)
・「異動先で携わる仕事を遂行する上で必要な知識やスキルが分かること」、「異動先の職場で行われている仕事の進め方が分かること」、「異動先の上司の性格特性などの特徴がわかること」など、まずは異動というイベントが起こった際に、異動先への適応のために必要な情報、すなわち短期で必要な情報を知ることへの関心が相対的に高い。
・上記に続いて、「どこに異動すれば、自分が望む仕事に携われるかが分かること」、「どこに異動すれば、自分が身につけたい知識やスキルを身につけられるかが分かること」、「自分のキャリアパスが明確に提示されていること」、「さまざまなポストについて、過去にどのような人が携わっていたかが分かること」など、長期的な視野でキャリア開発について検討する際に必要な情報への関心も高い。
※図表05 注釈:「あてはまる~あてはまらない」の5段階のリッカート形式の選択肢に対する、「あてはまる/ややあてはまる」の選択率
キャリアに関する意識と、考慮してほしいこと・知りたいこととの相関係数(一般社員)(図表6)
・「私は、自分が将来歩みたいキャリアが実現できるか不安だ」との間で、「考慮してほしいこと」や「知りたいこと」の相関係数が高い。
⇒「キャリアが実現できるか不安だ」という思いの強さと、「異動の際に条件や環境を考慮してほしい」という思いや「異動やキャリア開発の際に必要な情報を把握したい」という思いの強さとの間に関係がある。社員のキャリアに関する不安を払拭するために、人材情報や職務情報の共有化や開示が有効である可能性が示唆されている。
※図表06 注釈:表中の数値はピアソンの相関係数。-1~+1 の間の値を取り、絶対値が1に近いほど、直線的な関係が強いことを示す。また、+の場合は「一方が高くなれば、他方も高くなる」、-の場合は「一方が高くなれば、他方が低くなる」という関係にあることを示す。
■調査担当者 入江氏コメント
リモートワークの導入やジョブ型雇用への転換などにより、これまでよりも拠点や職種をまたぐ異動の機会が減る可能性があります。一方で、人生100年時代のキャリア開発を考えた際に、現場の社員が積極期に自己申告や社内 FA(フリーエージェント)制度を活用することによって異動の機会が増える可能性もあります。
いずれにせよ、一定程度、異動というイベントはこれからもあると考えています。その際、そのイベントについて、キャリア開発の機会と結び付けられること、あるいはスムースに適応できることなど、異動対象者の経験の価値を高めることがこれまで以上に必要になると考えています。その際に、冒頭に述べた通り、HRテクノロジーやHRアナリティクスも有効なツールになります。
そして、それらをうまく機能させるためには、「情報の開示性を高めること」や社員や管理職にとって「分かりやすい」情報を提供すること、また情報を活用した対話の仕組みを整えることなどが求められると考えられます。
<調査概要>
出典元:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
構成/こじへい