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中島翔哉(ポルト)が落選……。
1日に日本サッカー協会が発表した10月のカメルーン&コートジボワール2連戦(9・13日=ユトレヒト)に挑む日本代表メンバー25人に、エースナンバー10を背負っていたはずの男の名前が入っていなかったのだ。
「中島翔哉の招集については、長期間チームでプレーしていなかったこと、チームに合流してトレーニングしているという情報はもらっていますが、まずは所属チームで結果を出して監督や選手の信頼をつかみ取ってまた代表に復帰できるように、代表の活動の選手選考に入ってくるように、日常の活動を行ってほしいと思います」
森保一監督はこう説明したが、2018年9月の新体制発足時から攻撃の軸を担ってきた堂安律(ビーレフェルト)・南野拓実(リバプール)・中島の「新ビッグ3」の一角が崩れたのは紛れもない事実なのだ。
これは1つの象徴的な例だが、日本代表の序列はつねに不動というわけではない。森保ジャパンの活動は2019年12月のEAFF E-1選手権(釜山)以来。ベストメンバーでの活動となると2019年11月の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア2次予選・キルギス戦(ビシュケク)まで遡る。それだけ空白期間が長ければ、選手個々の環境や状況が変化するのは当然のことなのだ。
実際、この1年間には、長友佑都(マルセイユ)、吉田麻也(サンプドリア)、柴崎岳(レガネス)、南野、堂安、久保建英(ビジャレアル)の6人が欧州内移籍。室屋成(ハノーファー)と鈴木武蔵(ベールスホット)も8月にJリーグから欧州に赴いている。今回は新型コロナウイルスによる渡航制限でロシアで活躍中の橋本拳人(ロストフ)やセルビアでゴール量産中の浅野拓磨(パルチザン)らが呼べなかったものの、10月2連戦選出メンバーは現時点での最強陣容にかなり近い。その前提で、各ポジションの最新序列を抑えておくことにしたい。
<GK>
選ばれたのは、W杯3大会出場の37歳・川島永嗣(ストラスブール)、2014年ブラジルW杯メンバーの権田修一(ポルティモネンセ)、197㎝の長身がウリのシュミット・ダニエル(シントトロイデン)の3人。森保体制発足後は2019年1月のアジアカップ(UAE)やカタールW杯2次予選4試合に出ている権田が一歩リードし、2番手がシュミット、3番手が川島という構図になっていた。
だが、権田は9月20日に開幕したポルトガルリーグ1部新シーズンでは所属クラブでベンチ外が続いている。シュミットもケガで長期離脱した影響なのか、8月9日の今季ベルギー1部開幕から7試合ベンチ。同僚GKのケガとコロナ感染によって8月22日と28日のフランス1部開幕2戦に出番を与えられた川島が一番試合勘のある状態だ。森保監督も「年齢で選手を選ばないということはない」と断言しているため、川島の復権もあるかもしれない。最初のカメルーン戦に誰が起用されるかをまずはしっかりと見極めたい。
<CB>
軸を担うのはキャプテン・吉田と21歳の富安健洋(ボローニャ)で、その後ろに2018年ロシアW杯メンバーの植田直通、東京五輪世代の板倉滉(フローニンゲン)が控える形だ。今回A代表初招集の20歳・菅原由勢(AZ)はCBを含めた複数ポジションに入れる選手で、23歳の中山雄太(ズウォレ)もボランチと両方をこなせる。イザという時はCB要員と位置付けられるかもしれない。
この顔ぶれの中ではやはり吉田と冨安の存在感が圧倒的。森保監督も彼らを軸に考えているだろうが、吉田はイタリア移籍を経てパフォーマンスが微妙に変化している可能性もある。その一角に植田や板倉、中山らが滑り込めるかが1つのポイントだろう。同い年の盟友・内田篤人氏は早々と引退してしまったが、吉田はまだまだ代表の座を譲るつもりはない。そこに食らいつく選手が出現し、「ポスト吉田」を巡る争いが激化すれば、今回の2連戦も面白くなる。
<SB>
右SBは酒井宏樹と室屋、左SBは長友と安西幸輝(ポルティモネンセ)という陣容で、複数回のW杯を経験している酒井宏樹と長友に大きなアドバンテージがあるのは確か。長友が8月末にマルセイユへ移籍し、両サイドを日本代表コンビで占めるようになったのも大きい。2人は日常的に練習や試合を通してコンビネーションを高められるし、共通意識を持ってプレーできる。そのメリットを森保監督も高く評価しているに違いない。
とはいえ、酒井宏樹は30歳、長友は34歳という年齢。森保監督は前述の通り「私は年齢で選手を選ばないということはない」と強調しているが、酒井宏樹が今年に入ってケガで手術をしたようにケガやパフォーマンス低下のリスクはつねにある。やはり若い世代の底上げは待たれるところ。目下、新天地・ドイツ2部で奮闘中の室屋は期待の存在だ。原口元気の存在もあって新チームの適応もスムーズで、すでにレギュラーをつかんだ状態だ。ここで大化けしたところを示せれば、右SBのレギュラー獲得に近づくかもしれない。
マルチプレーヤーの菅原も本職は右SB。U-16日本代表時代は「かつての内田篤人に似ている」と評されたほど賢く、献身的で、社交的だ。オープンな性格ゆえにAZでもいち早く戦力と認められ、順調にここまで来た。彼も酒井宏樹と室屋を脅かすだけのポテンシャルがあると言っていい。
左の安西は長友に比べるとやや守備面で不安がある。そこをどう克服するのか。今回は勝負の場となりそうだ。
<ボランチ>
森保監督から絶大な信頼を寄せられる柴崎を軸に、遠藤航(シュツットガルト)や橋本拳人らが相棒役を競ってきたボランチ陣。今回は橋本不在のため、柴崎と遠藤の鉄板コンビを形成し、バックアップに中山雄太やCB要員でもある板倉が入る形になるだろう。ただ、東京五輪世代の2人は代表経験値の不足が気になる。仮に柴崎と遠藤航にアクシデントが起きた場合には2ボランチではなくアンカーシステムにするなど、フォーメーションに変化を加えてしのぐこともありそうだ。
柴崎自身の状態も不安視されるところ。昨季所属したデポルティーボが低迷し、同じスペイン2部のレガネスに今夏移籍したものの、いきなり太もも負傷に見舞われた。すでに復帰はしているものの、パフォーマンスがどのくらい戻ったか未知数だ。そんな柴崎に比べると、初挑戦のドイツ1部で攻守両面で大いなる輝きを放っている遠藤航は頼もしい。彼が司令塔的な役割をこなせるという見極めができれば、中山や板倉らと組ませるという新たなオプションも見えてくる。今回は遠藤航により一層、注目すべきだ。
<2列目>
森保ジャパンでは、右が堂安と伊東純也(ゲンク)、左が中島翔哉と原口、トップ下が南野拓実や鎌田大地(フランクフルト)というのが1年前時点での2列目の陣容だった。前述の通り、堂安・南野・中島が「新ビッグ3」の異名を取るほどの存在感を示した時期もあったが、中島はポルトでの苦境もあって今回は脱落。そこに期待の19歳・久保建英が入るのではないかという見方が強まっている。
久保はビジャレアル移籍後、新シーズンは4試合連続で途中出場にとどまっているが、ウナイ・エメリ監督は「MFの全てのポジションで起用したい」と発言。トップ下や右、左と頻繁に役割を変えている。左ではまだ本来のドリブル突破力やフィニッシュの精度を発揮しきれていないところがあるが、堂安との同時起用なら2人がポジションを変えながらプレーすることも考えられる。森保監督も久保建英を使いたい気持ちは強いはず。その「新ビッグ3」は果たして機能するのか。ぜひ2連戦のどこかで試してほしい。
ただ、ロシア組の原口も黙っていないし、フランクフルトで活躍中の鎌田、ゲンクで異彩を放っている伊東も好調だ。さらに今回は東京五輪世代の三好康児(アントワープ)も名を連ねている。彼は2019年6月のコパアメリカ・ウルグアイ戦(ポルトアレグレ)で2発を叩き出し、世界を震撼させている。そのフィニッシュの鋭さを再び発揮すれば、一気にA代表定着もあり得る。ここまでの序列では南野や堂安がリードしているが、彼らも安穏とはしていられない。ゴールという明確な結果を残すことに集中してほしいものだ。
<FW>
森保ジャパンでは大迫勇也(ブレーメン)が絶対的1トップと位置付けられ、鈴木武蔵や岡崎慎司(ウエスカ)は要所要所で呼ばれる状況だった。ボールを収めてタメを作れる大迫の重要性は依然として変わらないが、今季は所属のブレーメンでやや低調で、2019年時点での存在感を日本代表で示してくれるか少し気がかりだ。
そんな大迫に比べると、34歳のベテラン・岡崎は初挑戦となるスペイン1部でダイナミックなパフォーマンスを前面に押し出しているし、鈴木も新天地・ベルギーで早くも2点を奪っている。2人とも調子がいいのは間違いないだけに、彼らを思い切ってトライするのも1つの手。今回は「大迫依存症」から脱するチャンスかもしれない。
取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。