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Googleストリートビューにかつての愛犬と元気な母が写っていた

2020.09.29

犬が死んだ朝

母が急に入院・手術になって、あわてて病院に駆け込んだ。本人はけろっとしていて「心臓のパイパス手術なんだって。

すぐ終わるらしいよ」とベッドに寝ていたけれど、いきなり病院に運ばれたと聞いて飛んできた私は、まだ何が何だかよくわからないまま立ち尽くす。

今朝、「行ってらっしゃい」と私を会社に送り出したばかりなのに、いきなり手術なんて信じられない。スーパーで急に息が苦しくなったので、休ませてもらっていたところ、どんどん具合が悪くなって救急車で運ばれて、心臓の血管が詰まっていることがわかったそうだ。

毎日顔をつきあわせているのに、気づかなかった自分が情けないし、手術なんて何が起こるかわからない。母が亡くなったら私はひとりぼっちになってしまう。

目の前が真っ暗になって突っ立っている私の手を取って、母は「そんな深刻にならなくても大丈夫よ、座んなさい」とベッドに座らせてくれた。

母には本当に世話になったのに、何も返せないうちに逝ってしまったらどうしよう。座ったとたんに涙がこぼれて、泣きじゃくってしまった。母は幼い頃にやってくれたように背中をさすって、「大丈夫よ、バイパス手術ってすごく簡単なんだって、先生が言ってた」となぐさめてくれた。ごつごつした指が背中を優しくなでてくれる。そういえば父が亡くなった時も、犬が死んだ朝も、こんな風にしてくれたっけ。

あっという間に手術室に運ばれてしまい、ソファーで呆然としている。何も持ってこなかったので、とりあえず、スマホで仕事の連絡をしたり、親戚に手術の報告をして時間をつぶしていた。病院から帰る道順をGoogleマップで検索しながら、ストリートビューで自宅までの画像を見ていた。すると・・・・・・

通りに面した家の庭で、母が犬を抱いて座っていた。春に亡くなった子で、老衰で動けなくなっていたのを、母が時々、抱いて庭で日光浴させていたのだ。犬と母は背を向けて、庭の桜を見ているらしい。「きれいに咲いたわね」と話しかけている後ろ姿が、映っていた。

犬のいる幸せな日常が壊れ、母は病気で亡くなってしまうかもしれない。いずれ私もこの世からいなくなる。そうやって少しずつ変化していき、いつかすべてが消滅する。それでも、ストリートビューのデータの中で、母と犬は生き続けている。

スマホの小さな画像から伝わってくる母と犬の幸せな姿。子犬が家にやってきたあの素晴らしい日曜日。庭で駆けまわっていた元気な姿。美味しそうに食べるごはん。水を飲む時のなめらかな舌。可愛い声。お散歩友だちや、獣医さんの顔まで、犬にまつわる記憶がどんどん、どんどん掘り起こされてゆく。

そこには私と母と犬の確実に幸せな時間があった。できることならもう一度、母と犬の話をしたい。この画像を見せて、「ほら、うちの子とお母さんが載ってるよ」って教えてあげたい。神様どうか母を助けてください。わたしの命と引き換えに・・・・・・。

ぎゅっと手を合わせていたら手術室のドアが開き、医者がマスクを外してニコニコしながら出てきた。

文/柿川鮎子(PETomorrow編集部)

明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

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文/柿川鮎子

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